突撃!隣の人は熱☆病人  土方 十四郎 の場合






「 それじゃ、大人しく寝ててくださいね。」
「 ……。」
「 一歩でも外に出たらご飯抜きですからね。」
「 …………はぁ。」
「 溜め息なんてつかないで下さい!土方さんは熱出てるんですよ!?」
「 判ったからさっさと仕事に戻れ。うつされたくねぇだろ。」

天下の真選組鬼の副長と怖れられている土方さんでも、風邪ひいて熱なんて出ちゃったりするんだ。
しかもちょっと目を離した隙に制服着て外回りに行こうとするし……病気の時くらいゆっくり休めば良いのに。
誰よりも真面目に仕事こなしちゃう人なんだから。
無理矢理制服没収して良かったかも。
これ以上無理して酷くなったらそれこそ大事だもんね。
―――――あ、こんな所破れてる。ついでに直しと―――
「 おう、
 トシの様子はどうだ?」
、土方さんの様子はどうでい?未だしぶとく生きてやがるかィ?」
「 ちょっ、沖田隊長なんて事を……!
 ちゃん、土方副局長の容態は?」
背中に元気の良い声が響いた。
漫才トリオ出現だー。
「 局長さん、沖田くん、退くん、こんにちわ。
 土方さんなら唯の熱風邪ですから、2、3日ゆっくり休養すれば治ると思いますよ。」
振り返ってにっこり笑って云ってみれば、3人の視線は私の手元へと移っている。
沖田くんは舌打ちして未だ息があるのかと意味深にこぼしたけど。
、それは?」
「 はい、土方さんの制服です。
 あの方、ちょっと目を離しただけでも着替えて外回りに行こうとするもので……没収しちゃいました。」
へらっと笑って答えると、何故か3人とも険しい顔付きになった。な、なんで……もしかして私余計な事しちゃった?
「 あの莫迦……。」
「 外回りでも何でも行かせて野垂れ死ねば良いんでィ。」
「 沖田隊長……。」
局長さんは拳を握って泣いている。自分の体の事も省みず仕事熱心だから心配してるのかな。
沖田くんは……綺麗な顔してやっぱり毒づいてる。野垂れ死ねば良いって……かなり酷い。
退くんはそんな沖田くんの言葉に蒼ざめて……この中では一番真っ当な反応かな。
三者三様。
でも、この人たち、本当に真選組なんだろうかと疑いたくなる。
今も私を置いて3人で騒いでるし。
……ああ、そうだ。
「 皆さんにお願いがあるんです。
 先の通り土方さんには充分な休養が必要なので、風邪が治るまでの暫くの間、土方さんの部屋にはなるべく近づかない様に……。
 ……あの、もしもし?聞いてますか?」
人がお願いしているというのにこの人達は……はぁ。
局長さんは腕組みして立ったまま鼻提灯作ってるし。
沖田くんはバズーカの手入れし始めるし。
退くんはミントンしてるし。
………
「 局長さん!沖田くん!退くん!」
バンッ――――――
気が付いたら思い切り壁を叩いて凄んでた。
うわちゃあ、3人共びっくりしちゃってるじゃないのう。
「 聞いてます聞いてます!
 大丈夫だって。俺らもそこまでガキじゃねぇよ。」
いやあの、そんなに怯えながら云われても説得力の欠片もございませんが局長殿。
「 おう、任せろィ。」
バズーカ持ってる笑顔が黒いです沖田殿。
「 2人の事は俺が見張ってるから安心してよ。
 ちゃんはいつも通り女中の仕事しててね。」
ああ、退くん……その手に持ってるのはラケットとシャトル―――に見せかけたジャスタウェイ?一番怖いよこの人。
でも満面の笑みが3人から寄越される。
ううーん……信用して良いものか悩むところだけど、この笑顔になんか、気圧される……良いのかなぁ。
「 ちょっと不安だけど……でも、うん。
 皆さんの事信じてますから、宜しくお願いしますね。」

と云って別れてみたものの。
本当に大丈夫かなぁ……特に沖田くん。
面白がってちょっかい出しに行ってなきゃ良いけど。
ドゴオン――
―――へ?
「 テメェ、其処へ直れ!……ッゲホゲホ」
「 土方、今日が手前の命日だぜィ。副局長の座と――は俺が頂いてやるから安心して眠りやがれィ。」

―――はい?
ドゴッガッゴッガギィン  ズガーンン
……。

「 なにしてるんですか!!」
「 いや、なにちょっと土方さんの見舞いに……来ただけでさぁ……。」
「 ――……外には出てねぇだろ。」
駆けつけて襖を開け放してみれば。
部屋の中はしっちゃかめっちゃかに乱されている。ああ、畳が……障子が………。
土方さんの寝間着も息も乱れてる。
「 さっさと出てって下さい沖田くん!」
ずりずりと首根っこを掴んで引き摺って廊下へと放り出す。
!違うんでさぁ、これは―――」
ピシャン。
襖の向こうから私を呼ぶ声が聞こえるけど、無視だ無視。
それにしても―――
能くこれだけ暴れられるよなぁ。流石男の子……とでも云えば良いの?あははー。
ところどころ煙も上がってるし……はぁ。
「 土方さん。」
「 ……。」
「 大人しく寝てて下さいって云ったじゃないですか。」
「 俺に大人しくやられろとでも云いたいのか。」
「 そうじゃなくて……はぁ。
 一応念の為刀は置いていきますけど、次になにかあれば直ぐに電話して下さい。良いですね?
 暴れると熱上がりますよ。」
「 ……ああ。」

粗方片付けておいたけど……土方さん機嫌悪そうだったなぁ。まぁ、そりゃそうだろうけど。
それにしても沖田くん。
あの後念入りに釘刺しておいたけど大丈夫かなぁ。
全く、仲良いんだか悪いんだか。
ああそうだ。お洗濯取り込まなきゃ。
「 わはははは!
 なんだトシその面は。
 熱には酒って云うだろ、お前も飲めほら!」
「 いやいや局長。
 熱には汗をかけって云うじゃないですか。
 だからスポーツ、ミントンですよミントン!」

―――は?
ドンチャンドンチャン シュッシュッ
「 ほら飲め!俺の酒が飲めねぇのか!?」
「 土方副局長!
 いきますよスマーッシュ!!」

―――はい?
シュッシュッ ドンチャンドンチャン

「 なにしてんだてめえらあっっ!!」
スパンと襖を壊さんばかりの勢いで開けてみれば。
局長さん筆頭に数人の組員が酒盛りを始め、退くんが土方さんめがけてラケットを構えている。……左手に持ってるそれ、ジャスタウェイじゃないよね?
「 いや、、これは古より真選組に伝わる解熱剤で!!」
ちゃんあのほら、汗かけば熱は下がるって云うでしょ!?」
「 ……洗濯籠ぶつけられたくなかったらさっさと出てって下さい。」
にこやかに洗濯籠を構えると、皆大人しく退室してくれた。
なら端から来なきゃ良いのに。
それとも―――土方さんが居なくて寂しいのかな?
「 助かった。」
「 え?あ、いえ。
 あ、それより、ちゃんと電話してくれないと土方さん。
 今回は偶々お洗濯取り込みに行こうとしていたから良かったものの……。
 ちゃんと直ぐに電話してください。番号はご存知ですよね?」
「 いや、でも―――――。」
片付けていると、はたと土方さんと目がかち合った。
相変わらず顔紅いし……というよりさっきより紅くなってない?
「でも、なんです?」
「 ――――いや、なんでもねぇ。
 悪かったな。」
暫くの沈黙の後、頭を掻きながら俯いてぽつりと土方さんがもらした。
「 いえ。
 それじゃ亦、お夕飯の時に来ますね。」

はー、なんか疲れた。
いつもの女中の仕事以上に疲れるって、あの人達のパワフルさには参るわ。
今日の夕飯、豚汁だけど土方さんはおかゆの方が良いのかな。
んー……お、これはなかなか上手く出来てるんじゃないの今日の豚汁。
これは
「 土方テメこの、にチクッてんじゃねぇぞィバーロー。」
ズガ――ン
「 トシだけに看病されてずりーんだよチクショーお妙さーん!」
ヒュゴッ
「 土方副局長のせいでちゃんに怒られたじゃないですか。喰らえ必殺ドライヴスマーッシュ!!」
ビシュッ
「 ……んだよテメェ等。それただの逆恨みじゃねぇか!
 っつーか出てけ頭痛ぇ、斬るぞ。」
「 土方ー!」

ズゴーン
「 トシィー!」
ブンブン
「 土方副局長!」
ドシュッ
「 あぶっ、危ねぇなこら本気で斬るぞ!?
 あーもー3人纏めて掛かって来い。相手してやるから刀抜け刀。」
「 俺はこっちの方が好きなんでさぁ。」

ドゴーン
「 俺はもう既に抜いてるぜ、トシ!」
ヒュッズドン
「 土方副局長!覚悟おおおぉぉぉっっ!!」
ブンッブンッチュド――ン
あーもう。
今日の豚汁は美味しく出来てるのに。
美味しく出来てるのになぁ、畜生。

「 ちょっと早いですけどぉ、お夕飯の時間でぇす。」
左手におなべ、右手におたま。
これが女の戦闘体勢よ。
ふふ、皆凍りついたかの様に固まっちゃって。ふふふ。
、落ち着くべきで――」
ビシャッ
「 こここれには深い理由があってだな――」
ベシャッ
「 おっ俺はただその……ちゃ――」
バシャッ
さ――」
ベチャッ
っ――」
ベチャッ
さん――」
ベチャッ
ベチャッビシャッバシャッドチャッベシャッバシャッバシャッ……………
「 あっつうううううぅぅぅぅぅぅぅっっっっっっ!!!!!??」
うおーとかぎゃーとかあちーとか助けてーとか。
口々に叫びながら局長さん筆頭に良い年した大の男達が顔を手で押さえながら転がり這いずり回ってる。
うーん、誰も美味しいって云ってくれない。悲しいな。
「 お、おい――――」
「 土方さんは黙ってて下さい。」
「 ……はい。」
未だかけ足りないのかな?
美味しいとも云ってくれないし出て行ってもくれない。
でももう豚汁の残りが……あ。
「 はーい皆さん能く聞いて下さーい。
 豚汁のお代わりが欲しい人は此処に残って下さいね〜。」
どうですかと加えてにっこりと微笑むと、一瞬しんと静まり返る。
そして。
「 ご馳走様でしたあああぁぁぁぁ!!!!」
「 ようおあがりやす。」
両手を合わせて我先にと部屋を飛び出して行った。
はああ、ったく。
あーもー、誰がこの部屋掃除するんだよ。私か?私なのか?
この豚汁の匂いがいたる所からするこの部屋を……――ちょっとやり過ぎたかな?
いやでもこれくらいしないとあの人達には判らないだろうしなぁ。
う――ん―――――ん?
「 かかってませんか?」
「 ……ああ。」
部屋を見回していると部屋の隅から私を見ている土方さんと目が合った。
凄くなにか云いたそうな顔に見えるけど―――そりゃそうか。うん。
膝を折って話すと、土方さんの目が動いた。
ん?ああ、お鍋見てるのか。
「 すみません、直ぐ片しますから。」
「 あ、ああ、それは良いんだが……。」
ものっそいお鍋見られてる。土方さん?そんなに怖かったですか?
「 どうかしましたか?」
「 え?いや、その……。
 ……それ、置いてくれねぇか?落ち着かなくて……。」
―――ああ、そういう事か、そっかそっか。
それにしても、鬼の副長とまで謳われてる土方さんがそんな、豚汁が怖いなんて。
ちょっと可愛いじゃない。
「 大丈夫ですよ、土方さんにはかけたりしませんから。
 それにしても……はぁ。今日の豚汁は結構上手く出来てたのになぁ。
 勿体無かったかも。」
お鍋を畳みの上に置いておたまでぐるぐるとかき混ぜては掬って亦かき混ぜる。
あーあ、もうこれだけしか残ってない。
……皆が悪ふざけして暴れるのが悪いのよ。いや食べ物を粗末にした私も悪いけどさ。
「 かもじゃねぇだろ。勿体ねぇ。
 勿体ねぇから残りは俺が食ってやるよ。」
「 え?いやでも―――」
「 これ以上撒かれても堪らねぇしな。寄越せ。」
「 あっ……―――」
悪戯に豚汁を掬っては混ぜていると、土方さんから突っ込まれてしまった上にお鍋を奪われてしまった。
あわわ、食べてるよ。
土方さんが私の作った会心の一撃の豚汁を豪快に食してるよ。
ああでも……なんか嬉しいな。
土方さんがマヨネーズ無しでその儘食べてくれるなんて。
「 ……美味いな。」
「 ありがとうございます。」
顔を上げてポツリと呟いたその言葉は、私の欲しいそれで。
自然と満面の笑みを返していた。
豚汁の匂いが充満するこの部屋。
……いーや。皆に掃除してもらおう。
土方さんには悪いけどそれまでは私の部屋ででも休んでもらおうかな。
「 ―――で。
 この部屋どうすんだ?」
そんな事を、豚汁を食べている土方さんを見ながらボーっと考えていると、不意に土方さんが顔を上げてこう云った。
ああ、やっぱりそこが気になりますよねぇ。
でも大丈夫です。我に策有りってね。
私は笑って、こう続ける。
「 その事なんですけどね、土方さん。」






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