突撃!隣の人は熱☆病人 坂田 銀時 の場合
今日も空は青くとても能く晴れ渡っていて。
「 銀さんだけは無縁だと信じていましたよ。」
「 そうアル。ナントカは風邪ひかないってパピーも云ってたネ。」
そよそよと気持ちの良い風も吹きぬけている。
「 それはアレだお前等。
――いや、その前に何が云いたいんだコラ。
バカは風邪ひかないって云うのはアレだぞつまり、バカは風邪をひいてもひいた事に気付かないという意味で。
然るに俺はバカじゃねえ!莫迦はお前等のほうだうっっ!!!」
歌舞伎町に似つかわしくない位静かで。
「 はいはい、そういう事だから。
新八君も神楽ちゃんもうつったりしたら大変だから、暫くの間万屋には近寄らないで頂戴ね。
その間神楽ちゃんと定春ちゃん、新八君のお家でお世話してもらっても良いかな?」
「 ……鳩尾が……鳩尾がああぁぁぁっ!!」
妙に落ち着かなくて、なんだかワクワクしてた。
「 私は構わないアル。定春もいいアルネ?」
「 わす。」
「 ええ、勿論大丈夫ですよ。姉上も納得してくれますきっと。」
新八君と神楽ちゃんはにこりと微笑んで快く承諾してくれた。そうそう、定春ちゃんも。
相変わらず素直で良い子達だわ。
どうしてこんな所に好き好んで居るのか理解出来ない。
「 そう、ありがとう助かるわ。
ごめんなさいね、早く治させるから。」
小首を少し傾げると、新八君は照れた様に笑ってとんでもないですと云う。嗚呼、可愛い……可愛いよ新八君誰かさんと違って。
「 いえいえ、さんが謝る事じゃありませんから。
どっかの天然莫迦パーマのせいですよ。」
「 そうネ、姐が謝る事違うネ。
どっかの糖尿持ちの天然バカパーマのせいネ。」
「 わす。」
3人が――正確には2人と1匹ね――それぞれ私の云いたい事を代弁してくれる。
嗚呼、本当に素直で良い子達。こんな所に燻っているのは勿体無いわ。
「 お前等なあああああべしっ!!」
「 ごめんなさいね。
それじゃあ治ったら連絡入れるから、それまでよろしくね。」
五月蝿く叫び出した男の顔面に裏拳を決め込み黙らせて、私は3人にお願いをする。
「 判ったアル。」
「 わす。」
「 判りました。
じゃあ銀さんお大事に。さんに迷惑かけないで下さいよ。」
カラカラピシャン――
軽い音を立てて万事屋の扉が閉められた。
私の隣には、躯を二つに折り膝を付いて鳩尾と鼻を押さえた白髪頭の男がひとり。
悶えている。
「 ……さん、さん。
…………俺、病人なんですけど。」
その悶えている様を傍観していると、不意に袴の裾を引っ張られ、軽く涙を湛えたその死んだ魚のような眼で見上げられる。
……ちょっと可愛い。不覚にも口角が上がった。
眉根を寄せて薄く涙を浮かべ、まるで雨降る夜に川に流された狼の様。
可愛さの中の恰好良さ。
嗚呼、駄目。やっぱり私、銀時の事好きなんだわ。
「 病人は行き成り叫び出したりしないでしょ。」
ペシンと頭を軽く叩き、私は引っ張られている方の足をパタパタと動かすも。
あで、とか云いながら、それでも私の袴の裾を銀時は放しはしない。
やーん、かーわーいーいー。(棒読みで)
好い加減、鬱陶しいわ。
「 ほらほら。
熱出してるんだったら大人しく布団に入って寝なさい。」
「 あー、熱がぶり返してきた。
誰かさんが優しくしてくれないから熱がぶり返してきた。水も煮えたぎる熱湯になるなこりゃ。」
「 判ったから、早く。」
追い払う様にしっしと手を振って引っ張られている方の足を思いっきり動かすと、銀時は力に負け手を放し、じっとりとした眼で効果音が付くかと思うくらい見つめてくる。
そして不意に俯き、手で顔を覆ってふるふると小さく首を動かす。
そんな銀時の横っ腹を足で突いていたらフラフラと立ち上がって。
「 あーだめだ。
熱が上がり過ぎて眩暈がしてきた。」
「 ……おい。」
大人しく寝室に行くのかと思ったら何を思ったのか私に圧し掛かってきやがった。
ついつい、パブロフの犬宜しくニーが飛んだのは、致し方が無い事だと思う。所謂正当防衛ってやつだよね。
「 おいこらさんよー。」
「 ごめんごめん。でも銀時が―――」
「 今この家には俺としか居ねぇんだから良いだろが別に。」
……。
ちょっとちょっと。
なにそんなことさらっと耳元で囁いてくれちゃうのよ。
なにそんなに真顔で見つめてくるのよ。
そんな、そんな、私……待ってよ。
勘違いしちゃうじゃん、変な期待しちゃうじゃん。
私達未だそんな関係でも無いじゃん。ちゃんと順序踏んでよ。って、だからナニを期待してるの私は阿呆か。
「 顔紅ぇぞ?」
「 んなっ!?
ぎっ銀時だって顔紅いじゃん!!」
そうかと思ったら亦あの締まりのないにやけ顔で否定しねぇのかよってからかってくるし。
なに考えてるのか全然わかんないよ!本気になるだけ惨めになるじゃない!!
その気がないなら私をその気にさせないでよ……。
「 俺は熱出てるから紅くても可笑しくねぇんだよ。
はどうなんだ?元気なんだろ?
なに考えたんだよやらしいなぁ。」
「 や―――――――――っっっ!!!」
ガッッ―――ドン
「 そう何度も同じ手は喰わねぇぜ。」
顔から火が出そうな位恥ずかしくて銀時の鳩尾に一発お見舞いしてやろうと思ったのに。
にやりと笑って巧く手で受け止められてしまった。
と云うか逆に手を掴まれてこれって……あれ?可笑しいな……なんで私の手が背中に廻ってるんだろう?なんで背中に壁が当たってるんだろう?
あれあれ?なんで左手もいつの間にか掴まれてるんですか。
おいおいちょっと銀時さん。
この状況って非常になんと云いますかその危なくないですか。―――逃げられない?
「 。」
「 な、によ。
熱出してるんなら大人しく寝てなさいよ。」
何故だか恥ずかしくて、緊張して、銀時の顔を直視できない。
体温が上がっていくのが厭な位判る。くそう、銀時のくせになんでこんな、こんな……胸がざわめくの。
「 熱ってさ……――――――汗かくと良いらしいじゃん。」
「 ……うん。」
……
………
…………
なにこの沈黙。
なにこの見つめ合う時間。
意外な台詞に思わず顔上げちゃったじゃん。
「 だから、ふたりで。」
「 なに?」
「 汗かこうぜ。」
「 ……真剣で斬り合えば良いの?」
なにその顔。
なんでそんなめちゃくちゃ落胆してんの。頬こけてる。老けてる老けてる。っつーかなにを考えて、期待してたの?
「 ねぇ、斬り合うの?」
「 それは違う汗になるから。」
あ、左腕放してくれた。と云うか脱力してるの?
「 じゃあ……スカッシュ?あ、バドミントンとか?」
「 なんで熱出てんのにスポーツ、しかもめちゃくちゃ激しい運動しなきゃなんねぇんだよ。
激しい運動なら別の激しい運動が良いつーの。」
「 なに?最後能く聞こえなかった。
ねぇ、ちょっと聞いてる?待ってよ。」
勝手に歩いて去って行こうとするな。
それに未だちゃんと話終わってないじゃないか。
「 ねえってば。」
背中を向けた銀時の腕を掴むと、ゆっくりと立ち止まってゆっくりと振り返る。
右手で天然パーマの髪をもしゃもしゃと掻いて。……おいこら溜め息とかつくなよ。こっちがつきたいっての。
「 あー、熱上がったかも。寝るわ。」
「 え?あ、ああ、うん。おやすみ。」
「 ……おやすみ。」
カラカラ―――タン。
軽快な音と共に寝室の襖が塞がれる。
え?で、なに?
私結局、からかわれただけ?
なに、心配して損した?
あれー、これちょっと……どうなってんの?私のドキドキは何処いったの?
あのもし……熱で朦朧としてたのか?