突撃!隣の人は熱☆病人  アレン ウォーカー の場合






どうして、こうなっちゃったんだろう。
どうして私、男の子の部屋に居るんだろう。
どうして
「 あの、……さん―――?」
「 はっはいっ!?」
アレン=ウォーカー君の部屋に居るんだろう!?

――さかのぼる事一時間前――

「 おい。」
「 くきゃっ!?」
ゴスッと小気味の良い音と共に振動。脳が軽く前後に揺れ動いた。
「 なにするんですかぁ、神田さぁん……。」
痛みが走った頭を右手で軽くさすりながら振り返ると、猫の様な鋭い眼をした絶世の美少年神田さんが立っている。
その右手には私を叩いたであろう洗面器が握られていて。
―――ん?洗面器?
「 とろとろ喋んな、莫迦が感染(うつ)る。」
「 神田さんに莫迦とか云われたらお仕舞いですよ。」
ベン。
次は額にクリティカルヒット―――じゃ、なくてぇ。
「 神田さん!」
「 仕事だ。」
その儘グリグリと洗面器を額に押し付けられてる。
な、なんですかコレ?新手のいじめ?
「 さっさと受け取りやがれ。」
「 いやですよ、訳も判らず洗面器を受け取れだなんて。
 ナンセンスです!」
「 コムイからの仕事だ。」
「 ――え?」
一瞬、思考が止まった。
コムイ室長からの、仕事?
「 ……確かに渡したからな。」
はい?
って、ああ!私いつの間にか洗面器受け取ってるし!?
しかもなに歩き去ろうとしてるんですか神田さん!
「 ちょっと待って下さい!」
洗面器片手に神田さんの腕を掴んでるけど、客観的に見て非常に―――――間抜けに見えないか?
「 それに氷水入れてモヤシの部屋行け。」
「 神田さんっ!!?」
じゃあなと付け加えて私の頭をぐしゃぐしゃと神田さんは掻き乱す。
抗議の声を上げたところで、低く笑われるだけでお仕舞いだ。
いつもいつも神田さんは、肝心なところで言葉をくれない。
3歳しか違わないのに……凄く子供扱いされてるのは気のせいなんかじゃない筈だ!!
―――……
それにしてもコムイ室長からの仕事って……これ、実は神田さんがやれって云われたんじゃないの?
それを私に――って、私良い様に使われてるだけ!?
……なんて嘆いても、今更だよねぇ。
えーっと、それで、コレに氷水入れて誰の部屋へ行けって云ってたっけ。
あ、タオルもあるじゃん。
も、も、……モヤシってー、云った、よ、ね?
モヤシ―――――ああ、あの新人エクソシストのえっと、アレン=ウォーカー君、だっけ?
神田さん、どうしてウォーカー君がモヤシなんですか。聞いたら答えてくれますか?
――取り敢えず、云われた通りにしておこう、と。その後で聞きに行こう。うん。

「 アレン―――ウォーカー君?いますか?」
ウォーカー君の部屋のドアを軽く叩きながら、氷水の入った洗面器とタオルを小脇に抱えている。
阿呆だ。私今すっごく阿呆だ。
「 開いてます、どうぞ。」
中から控えめな声が返ってくる。
「 失礼します。
 と申しますが、あの、コムイ室長からコレを―――」
カチャと音を立ててドアを開けると、部屋の中は暗くて。
ウォーカー君の白い髪が、暗い部屋に能く映えてた。
「 どうしたんですか?」
入り口から動けないで居る私に、ウォーカー君はベッドの中から声を投げる。
ああ、そういう事。
「あ、いえ、なんでもないです……。」
取り敢えずドアを閉めて、一歩ずつ前へと進んでみる。
多分ウォーカー君は、風邪をひいたんだと思う。
未だ夕方なのに、ベッドの中に潜っていたんだから。
それに氷水を入れた洗面器とタオル。もうそれしかないよね。
でも、どうして私なの?
どうして、こうなっちゃったんだろう。
どうして私、男の子の部屋に居るんだろう。
どうして
「 あの、……さん―――?」
「 はっはいっ!?」
アレン=ウォーカー君の部屋に居るんだろう!?
「 あの、コムイさんがどうしたんですか?」
ウォーカー君が上半身を完璧に起こして、私に尋ねてる。
なんてシュールな画なの(違うから)。
熱を帯びているウォーカー君の顔は、少し紅い。
ベッドサイドにまで近づいて、私はサイドボードに洗面器をそっと置いた。
「 ウォーカー君が熱出してるから、氷水持って看病しに行ってあげて。
 ――って、多分コムイ室長がおっしゃったんだと思います。神田さんに。
 でも、なんの説明も受けずに洗面器だけ渡されちゃいました。」
小さく笑って、私は氷水に浸し冷えたタオルをウォーカー君へ差し出す。
するとウォーカー君はありがとうございますと沿えてそれを受け取り、自分の額に押し乗せた。
「 神田に……無理矢理押し付けられたんですか?」
少し怒気を含ませた声で、ウォーカー君が天を仰ぎながらポツリと呟いた。
本当に、神田さんは"敵"を作るのが上手いなぁ。
「 なんの説明も無く、唯、『氷水入れてモヤシの部屋へ行け』って。
 神田さんらしいですけどね。」
先程のやり取りを思い出すと、自然と頬が緩んでしまった。
「 モヤシ………。
 すみません、さん。
 全く神田は。面倒な事は全部他人に押し付けるんですから。
 本当に、自分の事しか考えてないんですよあの人は。」
「 それは違います。」
ウォーカー君の言葉を聞いて、少しカチンときた。
そりゃ神田さんは厳しい人です。でも、理想が高くて同じくらい自分にも厳しい人でもあって。
そして、優しい人でもあるんだ。
「 神田さんは、自分の事しか考えていない人なんかじゃありません。
 アクマに襲われそうになっていた私を助けてくれて、尚且つ教団内での仕事も与えてくれました。
 私が今ここで総合管理班の仕事に携わっていられるのも、総て神田さんのおかげなんです。」
ウォーカー君は、きょとんとしている。
まぁ、行き成りこんな事云われたら……そうなるか。
そもそも私、なに話してんのよ。
「 神田さんは、その……誤解されやすい人、なんだと思います。
 だからその、あまり、神田さんを悪く云わないで下さい。」
そう云うとウォーカー君は、にこっと笑った。
さんにそこまで云われたら……仕方ありませんね。
 でも、そこまでさんに想われているなんて、なんだか妬けます。」
にこっと笑って、こう云ったんだ。






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