突撃!隣の人は熱☆病人  クロス マリアン の場合






森の中で行き倒れていた男の人は、行き倒れているには小奇麗な恰好をしていて。
黒衣に仮面・帽子と、怪しさ満点の恰好でもあった。

「 娘。名はなんという。」
目覚めの第一声が、これだった。
多分ブッ飛んだ人なんだろうという私の推測は、この一言により確定へと昇格される。
食器を戸棚に仕舞っているところだった私は一度手を止め、音源へと視線を移動させた。
するとそこにはベッドの上で寝ていた筈の男の人が、上半身だけ起こし私を見捉えていた。
私は再び視線を戸棚へと戻し食器を仕舞い直す。
「 娘、聞こえなかったのか?
 名はなんというかと聞いたのだ。」
暫くの沈黙の後、再びこう聞こえてくる。
全く、熱出てるんじゃないのかよ。
「 人に名前を尋ねる前に、普通はご自分が名乗るものじゃありませんか。」
ガラスのコップに水を入れ、起き上がっている男の人へと差し出すと、丁寧に両手で受け取ってくれた。
あら、意外だわ。
「 それはすまなかった。気を悪くさせたな。
 俺はクロス=マリアンという。」
穏やかな口調で、別段悪びれた風も無くするりと云ってのけ、コップへと口をつける。

 私はと申します。」
椅子をベッドの隣へと引き、私は座る。
この人はそう、―――不思議だ。
お医者に診せる為、黒衣と帽子は脱がせていただいたけれど、何故だか仮面は外してはいけない気がした。
それに、この人のそばをずっと、金色の飛行する物体が離れずに居る。
それは森の中で行き倒れていた時から。
ふと、水を飲み終えた男の人と目が合った。
「 おかわりは?」
「 いや、結構。」
色々と突っ込みたいところ満載の人だけれど、その総てに触れてはならない――――
そう私の中のなにかが叫ぶ。
きっと、これ以上この人に関わってしまうと、後戻りできなくなってしまうのだろう。
「 世話になったな、。」
ふと視界が暗くなったと思ったら、男の人――マリアン、さん?は何を思ったのか立ち上がろうとしていた。
ちょっと待ってよ。
「 いけません、マリアンさん。
 2、3日は安静にしていなさいとお医者に―――」
「 どうせヤブ医者だろう。」
制止させようと私も立ち上がると、はっきりとした口調で言葉を遮られてしまった。
身体は私にのしかかっている形になってますけどね。
「 ほらごらんなさい。
 未だ本調子には程遠いのです。熱も下がりきってはいませんし。
 無理なさらず安静にしていて下さい。」
どうにかこうにかベッドに寝かしつけて、私は布団を掛ける。
マリアンさんは私を―――――――
「 看病はがするのか?
 男に看病されるのは御免だ。」
私の目を見つめ、私の腕をしっかりと握っている。……いつの間に。
「 この家には私しか居ませんから、私が責任持って看病させて頂きます。ですから、ご安心下さい。」
「 そうか。ならば、完治するまでの暫く、ここでの世話になるかな。」

こうして、私とこの怪しさ満点の男の人――マリアンさんとの奇妙な生活が、少しの間続くのであった。






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