突撃!隣の人は熱☆病人 リーバー ウェンハム の場合
「 熱を出す程働くなんて、愚の骨頂ね。」
「 うるせぇよ。
一人で歩けるからお前はもう戻れ。うつすぞ。」
「 熱が出て働けなくなるなんて本末転倒じゃない。」
「 悪かったな。
こんな時まで嫌味云うなんて大した女だぜ。」
「 なら嫌味を云われない男になって下さいよ。
科学班班長殿。」
ずるりずるりと一人の白衣を着た男を引き摺って私は歩く。
男の名はリーバー=ウェンハム。26歳。
黒の教団科学班の班長だ。……実は結構偉い人。
そんな男に肩を貸している私は=。23歳。
黒の教団科学班の、副班長とかしてたりする。
何故こんな事になっているかと云うと、いつもの如く金にならない残業をしている時。
突然リーバーが倒れた。
いつものエネルギー切れかと思って身体を揺すってみると、異様に熱い。
もしやと思い自分の額とリーバーの額を触ってみると―――――熱くて退いた。
熱なんて出してるこの男の弱さに、退いた。
他の班員にこれ以上仕事を増やさせる訳にもいかず、適当なところで切り上げる様指示して、私はリーバーを引き摺って療養所を目指していたのである。
「 可愛げのない女だな。」
「 リーバーに可愛いとか思われても嬉しくない。」
「 本っ当に可愛げのない女だな……。」
別にリーバーと特別仲が悪いなんて事はない。いつもこんな感じだし。
この男社会の中、生きていく為には"女らしさ"なんて邪魔なだけだ、正直。
それをこの男は、判ってないのよ。
可愛いだけじゃ生きていけないの!!
なんて。
心の中で叫んでみたところでどうしようもない訳で。
隣を盗み見れば、本当に辛そうな顔をしている。……40度近い熱じゃないかと思う。うん。
多分、ここ最近の鬼の様な多忙、しかも班長というポジションに居る事でろくな休息とってなかった筈。
そういう人だもんね、リーバーは。
他人の事ばかり心配して自分の事はないがしろ。
だから私は、嫌味ばっかり云っちゃうんだよ。もっと自分を大切にして欲しいんだから。
そんな私の気持ち、この男は判ってないのよ。
「 仕事の事だがな……。」
「 適当なところで切り上げる様ちゃんと指示してる。
班長印が必要な書類は私のデスクに置いておくようにもね。
心配要らないわ、ぬかりはないから。それに私もすぐ戻るし。」
「 ……そっか。」
安心したのか、ふっと息を吐いた。
全く、本当に仕事の事しか頭に無いんだから。
「 あ……俺の分だけど――」
「 大丈夫よ、ちゃんと私が引き継ぐから。だから心配は要らないって云ってるでしょ。」
「 いや、俺もすぐ戻るからそのまま―――」
「 駄目よ。」
療養所のドアを開け、ずんずんとベッドまで進みリーバーを力尽くで寝かしつける。
「 !」
リーバーはすぐに起き上がったけど、首の付け根に手を押し当てて強制的に横たわせる。
わぁ、むせてるむせてる。
「 ッ……!?」
ゲホゲホと咳き込むリーバーを尻目に、医療班の人達に私は伝える。
「 リーバー=ウェンハム科学班班長です。
風邪をひいていたらしいのですが最近の激務により休息もろくにとらず、とうとう発熱して倒れました。
色々と宜しくお願いします。」
ペコリと会釈をすると、医療班の人達は笑ってこう云った。
「 了解しました。」
と。
「 待てよ。」
案の定、リーバーは私の腕を掴んで起き上がろうとする。
けど。
「 良い機会よ、ゆっくりじっくり養生して治しなさい。
科学班の事なら心配要らないわ。他の皆は順番にきちんと休みとってるし。
―――第一、リーバー、貴方一人居なくなったって、ちゃんと廻るから安心なさい。」
首の付け根に再び手を沿え、今度はゆっくりと後ろへ倒す。
「 科学班はね、一人じゃないのよ。
インテリって以外に根性あるんよ?科学班なめんなー。」
ねぇ、これ。
この台詞、誰のかなんて科学班班長なら判るよね?
「 足手纏いは要らないの。
さっさと休んでじっくり治しなさい。今までも分もね。」
私ちゃんと、上手に笑えてるのかな。
リーバー、伝わってる?
「 ……判ったよ。」
「 ――良し。それじゃ、私は戻るわ。
あとは宜しくお願いします。」
「 はい、お任せ下さい。」
ゆっくりとリーバーが私の腕を放して、笑ったから多分大丈夫だろう。
別れの挨拶を済ませ、再び医療班の人達に会釈をして頼んだ私は、来た道を戻る。
「 。」
ドアを開けようとした刹那、ふと名を呼び止められた。
振り返ると、リーバーが上半身を少し起こして此方を見ている。
「 リ――――」
「 ありがとな。」
紅い顔で一言そう云うと、リーバーは寝転んで医療班の人達の指示に大人しく従い始めた。
「 お礼云われる程の事じゃないってば。」
ドアを開けながら、私は呟く。
熱出してるのに、いちいち礼儀正しいんだから。
本当に、仕事の事しか頭に無い人ね。