姉弟水入らず 




馬超「う……うぅ………はっ!?」
    寝台に横たわっている事に気付き、キョロキョロと周りを見渡す
馬超「姉上!姉上?何処に居られるのですか!?」(寝台から降りる)
    慌てて隣の部屋に移動
馬超「姉上!――って、これは亦珍しい……」(苦笑い)
    視線の先には椅子に座ったまま机に突っ伏し眠っているの姿
馬超「……そりゃそうだよな、山中を裸足で歩いてりゃ疲れもするよ」(溜め息)

    間

馬超「ちょっと待てよ。そもそも何故姉上は山中に?しかも裸足で……服もボロボロだ」(の隣に立ちまじまじと見つめる)
「んん……」(ピクリと動く指先)
馬超「姉上?」
「……」(すぅすぅと寝息を立てて静かに眠っている)
馬超「……こうしていれば普通の貴婦人であるのに」(微笑み/そっと髪を梳く)
「っ何奴!!」(ガタッ)
    宙を舞う馬超
    ドガッッ
馬超「あ……ねう……え………・・・・・・」(頭の上に廻るヒヨコと星)
「っっ超!?ああ、ごめんなさいつい反射的に……!」(慌てて駆け寄る)
馬超「……あ、姉上……お見事で……御座い……ま………」(気絶)
「超!?しっかりしなさい超!」(ゆさゆさ)

    間

馬超「流石は姉上ですね、腕が一つも鈍っておりません」(額と首の後ろに濡れ手巾)
「――というより、ここ過日神経を張り詰めていたから威力は増していたかもしれないわね」(項垂れ)
馬超「ああ、その事なのですが姉上」(華麗にスルー)
「なんです?」
馬超「色々と聞きたい事があるのですが宜しいですか?」
「……そうね、せめて超にだけでも話しておかないと駄目よね」
馬超「姉上は山中で何をしておられたのですか?そもそもどちらから来られたのですか?今まで何処で何をなさっていたのですか!?
    生きておられたのならば何故お知らせ下さらなかったのですか!!」(ダンと拳を机に叩きつける)
「……ごめんなさいね、超」(俯き)
馬超「どれだけ、どれだけ俺がっ―――」(苦々しい顔)
「超……ごめんなさい、ごめんなさい……」(机に置かれた拳を両手で握りしめる)
馬超「――っいえ、生きていて下さって心から嬉しく思います。良かったと、素直にそう思いますが。一つずつ納得のいくまで話していただきますからね」(その手を握り返す)
「ええ……そうね」

馬超「では先ず、如何いう経緯で今まで何処に居られたのか……」
「……一族が虐殺されたあの日、わたくしも深手を負い、迫り来る最期の時を待っておりました」
馬超「っ……」
「その時、何者かに引っ張り上げられる感覚を最後に意識が遠のき途切れました
    次に目覚めた時、わたくしは見知らぬ部屋で手厚く介抱されておりました」
馬超「それは、馬家を慕う者ですか?」
「いいえ、残念ながら違ったのです。わたくしが其処で最初に言葉を交わした方は、―――魏の総将」
馬超「魏!?曹孟徳か!?」
「ええ、曹孟徳様でした」
馬超「っ姉上!奴に敬意を払う必要などありません!!奴は我等一族の仇そのもので御座います!!」
「……ええ、そうね。けれどそれと同時にわたくしの命の恩人でもあるのです」
馬超「――っ!」
「超、お前の気持ちも十二分に解りますよ。けれど話を聞く気があるのならば、今はその気持ちを飲み込みなさい」
馬超「姉上!?」
「でないと話が前に進みません。それともこの話は聞きませんか?止めますか?」
馬超「……、いえ、続けてください」
「解りました。……お前は素直で、優しく真っ直ぐに育ってくれましたね」(微笑み)
馬超「姉上……」
「辛いでしょうが、総て聞いておきなさい」
馬超「……はい」
「では続けます
    わたくしを拾い救って下さったのは魏の曹孟徳様でした。……孟徳殿はわたくしの素性を知りながらも、お側に置いて下さったのです」
馬超「側に?」
「ええ、妾の一人として、お側に置いて下さいました。充分な治療も施しもして下さいました」
馬超「信じ、られねぇ……」
「そうでしょうね、当人のわたくしですら直ぐには信じられず、今でもあれは夢幻だったのではと思う事もあります」(苦笑い)
馬超「……それで」
「ええ、何不自由なく過ごさせて戴きました」
馬超「……」
「そして先日、出てきたのです」
馬超「……出て、きた?」
「ええ」
馬超「え……と、それはー、如何いう意味で、ですか?」
「其の儘の意味で、ですよ」
馬超「それはその――曹孟徳に何か嫌な事をされたから、ですか?」
「いいえ、違います。そのような事は一切ありませんでしたわ」
馬超「それではその、俺が蜀に居るから―――魏を出て此処に来られたのですか?」
「結果的にはそうなりましたが、それが理由で魏を出た訳ではありませんね」
馬超「……それでは何故、魏を出られたのですか?」
「何故、と言われても……そうですね、なんとなく、としか答えられないわね」
馬超「・・・・・・(姉上、貴女というお方は)」(脱力)
「如何かしましたか、超?」
馬超「いえ、なんでも御座いませんよ姉上」(項垂れ)
「風の噂でお前が蜀に下ったと聞いていたので来てみたのですが、本当に逢えて良かったわ」
馬超「そうですね、ええ、本当によう御座いました
    それにしても姉上、その恰好は如何いう事なのですか?」
「恰好?」
馬超「如何見ても寝間着のようにしか見えぬのですが……」
「ああ、それはそうよ。皆が寝ている隙に出てきたのだもの」(微笑み)
馬超「(姉上!!)だからと……途中で着替える事も出来たでしょう」
「持ち合わせが無かったものだから」
馬超「一銭も、と言う訳では無いでしょう」
「いいえ」
馬超「……は?」
「ですから、着の身着のまま出てきたので持ち合わせなど一銭もありませんでしたよ」
馬超「姉上ぇぇ!!貴女は何をお考えになられておるのですか!!」
「な、にって……特に、なにも……」
馬超「――ですよね、そうですよね。は、はは、はははは……」(項垂れ)
「それにしても、子龍様に出会えて本当に良かったわ。こうして超とも亦巡り合えたのだから」
馬超「因みにお聞きしますが、魏からはどのようにして来られたのですか?」
「どのようにと言われても、歩いてとしか……途中旅をしている方の馬に乗せて戴いたり」
馬超「ではその恰好で宿に泊まったりしたのですか?」
「だから持ち合わせが無いと先程から何度も言っているではないですか」
馬超「あねうえ・・・・・・よくぞご無事で(野宿かよ……)」(涙)




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