鬼婦人と遊ぼう




馬超「夕飯も喰ったし、後は子龍が来るのを待つだけですね」
「そうね」(溜め息)
馬超「姉上、やはり乗り気ではないのでは……?」
「初対面の紳士な殿方を……というのは誰だって気乗りはしないでしょう」(溜め息)
馬超「姉上でもそうなのですか?」(あっけらかん)
「……超」
馬超「はい?」
「遺言はそれだけで良いですか?」(微笑み/暗黒オーラ発動)
馬超「ああああぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……・・・・・・」(フェイドアウト)

   間

馬超「そろそろ松明の用意もしておきましょうか」(既に瀕死状態)
「そうね、手伝いますわ」
馬超「いえ、姉上はその儘で……と言いますか」(チラリと見やる)
「なんです?」
馬超「お着替えになられた方が良いのでは……」
「そう……ですわね。流石にもうこの恰好で子龍様とお会いするのも失礼にあたりますしね」
馬超「はい。しかし生憎なのですが、此処には俺の物しかないのですが……」
「ええ、解っています。適当に見繕って借りますわ」
馬超「はい、ご自由にどうぞ。では俺は少し外に出ていますね」
「ええ、亦後程」
   は別室に、馬超は外に移動

馬超「それにしても姉上は本当にずっとあのままの恰好で居たのだろうか」(ブツブツ/薪を肩に担ぐ)
   遠くから人の話し声が
馬超「ん?子龍か?」(薪を下ろし話し声のする方へ顔を向ける)
趙雲「やあ孟起、遅くなってすまない」(片手を挙げながら近づく)
馬超「おお、やっぱり子龍か。今話し声が聞こえてなって、伯約!?」(思わず身体が竦む)
姜維「今晩は、孟起殿。子龍殿にお声をお掛け戴き参ったのですが、孟起殿と子龍殿とわたしとで槍の修錬か何かをなさるおつもりですか?」
馬超「え?あ、ああ、ま・まぁそんなとこだな」(汗)
姜維「そうだったのですね、有難う御座います!」(キラキラ)
馬超「あ、ああ、はは、は……」
姜維「それではわたしも手伝い致します。これに火を点ければ良いのですよね?」
馬超「ああ、頼むわ」
姜維「はい!」(無垢な笑顔全開で薪を持って行く)
馬超「……おい、子龍よ」(それを見送る)
趙雲「なんだ?」
馬超「何故伯約まで来てんだよ。っつーか何考えて伯約を誘った!?」(ガッチリ趙雲の肩を両手で掴む)
趙雲「なんだ、何か不都合でもあるのか?」
馬超「不都合っつーか、今夜は俺と姉上とお前の手合わせだろうが。伯約は関係無いだろ?」(切羽詰まった感じ)
趙雲「それはそうだが、別に構わないだろう?」
馬超「構うだろ!!手合わせはあの姉上なんだぞ!?」(ガクガクと揺らす)
趙雲「そっれは、殿に何の断りも無く伯約を連れて来たから、か?」(されるがまま)
馬超「違う!それは関係無ぇ!!」
趙雲「ではなんだと言うのだ一体」
馬超「だから、姉上の――」
「わたくしが如何かしましたか?」(ひょこりと現れる)
馬超「姉上!?」(飛び上がるほど驚愕)
趙雲「挨拶が遅れました、今晩は殿。本日は宜しくお願い申し上げます」(にっこり微笑んで会釈)
「今晩は子龍様。此方こそ、どうぞ宜しくお願い申し上げます」(にっこり微笑み)
趙雲「それで、大変不躾で申し訳無く存じ上げるのですが、本日、一人連れ立って来ておりますがお許し願えますか?」
「……もう、お一方?」(ピクリ)
趙雲「はい、名を姜伯約と申しまして、我等と同じく槍使いなのですが、誠に勝手ながら何事も経験かと思いまして」
「あら、その方――はくやく様はお若くいらっしゃるのかしら」
馬超「ええ、俺達の中では一番下の19歳です」
「まぁ、わたくしと3つも違うのですね。初々しくて良いですわね」(にこにこ)
趙雲「構わない、でしょうか……?」(眉根を寄せて懇願)
「(超、これは子龍様の計算なのですか?)」(にこにこ/後ろで馬超の足を蹴る)
馬超「(い゛っ!いえ、こいつはこういう奴です姉上)」(引き攣った笑顔)
「(やはり、そうなのですか……)」(にこにこ)
趙雲「殿?やはり、分を過ぎたる行為でしたか」(反省)
「いえ、子龍様如何かお気になさらないで下さいませ。わたくしは一向に構いませんわ」(小走りに趙雲に近寄り両手を取る)
趙雲「っ殿……!」(ドキン)
「その方も含め、どうぞ宜しくお願い申し上げます。ね?」(にっこり/ぎゅっ、と力を籠める)
趙雲「勿論で御座います!」(ドキドキ/籠められた力に気付かない)
馬超「(姉上、子龍……)」(オロオロ)
「(余計な事を……こうなればもう、今後一切勝手な事をせぬよう徹底的に叩き込むのみですわね)」(にこにこ)




姜維「孟起殿〜!」(駆け足)
馬超「おお、すまなかったな伯約」
姜維「いえ、こういう事は若輩者の仕事です。本日は宜しくお願い致しますね」(キラキラ)
馬超「お、おお。……それ、でな伯約、その事で少し話しがあるのだが」
姜維「はい、なんでしょうか」(キラキラ)
「此方がはくやく様、ですか?」(馬超の後ろからひょこりと顔を出す)
姜維「えっ!?」(心拍数急上昇/赤面)
馬超「ええ、そうです。
   伯約、突然なのだが、その……今日は俺の姉上に稽古をつけてもらう話になっていてな」
姜維「姉上!?」
馬超「ああ、此方が俺の姉上、だ。姉上、此方が姜伯約です」
「はくやく様。お初にお目にかかります、馬孟起の姉の、馬と申します。以後お見知りおきをお願い致します」(微笑み/会釈)
姜維「おっお初にお目にかかります!わたしは姜伯約と申します者です」(赤面/うろたえ)
「はくやく様のお名前は如何いう漢字を書くのでしょうか?」
姜維「あ、ええと、こういう字です……」(赤面しつつ掌に字を書いて教える)
「伯・約――様、ですね。はい、記憶致しました。わたくしの字は……」(同じく掌に字を書く/微笑み)
姜維「あ、はい、殿ですね(おおおおおおおおおお顔が近いです……!!)」(ドキドキ最高潮)
馬超「(姉上の毒牙に……伯約までもが掛かるとは………その余計な美貌が恨めしく思います姉上!)」(ガクガク)
趙雲「伯約の顔……紅く染まっているな」(ぽつり)
馬超「あ?ああ……お前もさっきそうだったじゃねぇか」
趙雲「そっそうだったか!?」(ドギマギ)
馬超「自覚無しか……?(姉上、姉上の美貌は引く手数多ですね)」(溜め息)
「超、子龍様、そろそろ始めませんか?」
趙雲「ええ、そうですね」(微笑み)
馬超「エエ、ソウデスネ」(引き攣った笑み)




趙雲「それではそろそろ始めましょうか」
「そうですわね」(にっこり)
姜維「偶数ですし、二手に別れますか?」
馬超「そりゃあ良い案だな!是が非でもそう致しましょう姉上!」(滝汗笑顔)
「そう、ですわね……(そうするとお二人と全力で手合わせ出来るのですね)」
馬超「そうと決まりゃあ、伯約!俺と向こうでやろうぜ!」
姜維「孟起殿?殿と先にされなくて良いのですか?」
趙雲「そうだぞ孟起、我々に遠慮する必要は――」
馬超「いやいやいやいや!遠慮なんか微塵もしてねぇよ!
   子龍が姉上と是非とも手合わせ願いたいっつってんだから、その意見を尊重してだな!?」(滝汗笑顔滝汗)
趙雲「わたしの為に……孟起、本当に良いのか?」
馬超「ああ、遠慮する事はねえぜ」
趙雲「かたじけない。では万全の殿とは僭越ながらわたしがお相手願いましょう」(にこり)
「ええ、宜しくお願い致します」(微笑み)
馬超「(如何見ても万全な姉上では無いが不足は無い――否、充分過ぎるだろう)」(笑顔)
姜維「では孟起殿、宜しくお願い致します」(キラキラ)
馬超「あ、ああ……(すまん伯約、許してくれ)」(引きつり笑顔)
「そういえば超の槍が見当たりませんね」
馬超「え?あ、あー、そういやバタバタしてて準備すんの忘れてたな……(それどころじゃなかったからな)」
趙雲「部屋にあるのだろう?」
馬超「ああ」
「では取りに参りましょう」
馬超「えっ?いや、俺が一人で参ります故姉上は」
「わたくしも何か借りようと思ったのですが」
馬超「ですからそれも見繕ってきます故」
「一緒に参りますわ」(足を踏む/微笑み)
馬超「っ!!は、はい……コチラで御座います……」(エスコートしつつ室内へ)

姜維「子龍殿、孟起殿と殿は本当に仲が良いのですね」(笑顔)
趙雲「ああ、とても羨ましく思うよ」(笑顔)

「超」
馬超「なっなんで御座いましょうか姉上」(ビクビク)
「はぁ、そう怖がらなくても良いでしょう」(溜め息)
馬超「怖がってなどおりませんよ」(ファルセットボイス)
「声が裏返ってます」(溜め息)
馬超「っ!……すみません」(俯き)
「構いません、超のその態度は今に始まった訳ではありませんからね」
馬超「……姉上」
「もう諦めております」
馬超「…………」
「可愛い弟の脅えた顔しか記憶になくてもわたくしはなんら気にしません」
馬超「姉上!」(焦り)
「冗談です
   それより超、伯約様と本気でやり合ってはなりませんよ?」
馬超「姉上……やはり二人共に全力を出させるおつもりなのですね」(項垂れ)
「違います」
馬超「え?」
「二人ではなく三人共、ですよ」(微笑み)
馬超「……は、はは、そうで御座いましたな」(空笑い)
「超との久方振りの稽古、楽しみにしておりますよ」(満天笑顔)
馬超「私もで御座います、姉上」(血涙)




趙雲「手合わせ、宜しくお願い申し上げます」(にこり)
「此方こそ、宜しくお願い申し上げます」(目の笑っていない笑顔)
   カンカン、と軽く槍を交差させる
趙雲「孟起の話を聞きますと、殿は体術がお得意だと」
「はい」
趙雲「こういった槍等の道具を用いるのとでは、どちらが得手なのですか?」
   ガキィン、弾かれる趙雲の槍
趙雲「――――っ!?」
「体術の方が、得手、で御座います」
   トス、と地に刺さる槍
趙雲「……さ、左様で御座いますか」(一筋の汗)
「どうぞ」(刺さった槍を抜き、差し出す)
趙雲「有り難う御座います」(少し引き攣った笑顔)
   お互いに構える
趙雲「幼少時より、鍛錬なされていたのですか?」
「はい。将の家系に生まれた以上、自分の身は自分で守れるようにと父に」
趙雲「父君様もさぞかしご自慢でしょうね」
「……その様な事は、無いかと」
趙雲「何故です?」
「お解りでしょう」
趙雲「いえ、解りかねます」
「……」(ムッ)
趙雲「殿?」
   カアァァン
「殿方より強い女子など、誰が娶りましょうぞ」(槍の切先は趙雲の右頬横)
趙雲「……」
「子龍様」
趙雲「は、はい」
「全力でお相手願えませんか」
趙雲「はい?」
「それを御所望だったのは子龍様では御座いませんか」
趙雲「え……(それはそうなのだが)しかし」
「それとも、全力を出して尚女に負けたとあっては名折れ、で御座いますか?」
趙雲「!そんな、わたしは唯殿に傷をつけては――」
「斯様な心配には及びません」
趙雲「殿!?」
「貴方がわたくしに一撃を見舞う事など、有り得ないのですから」
趙雲「……」
「其方から来られないのであれば、此方から参ります」
趙雲「待って下さい殿!」
「問答無用。真剣勝負に言葉は要りませぬ」
趙雲「殿!?これは手合わせであって真剣勝負などでは御座いませんっ!」
「わたくしの武力を見知った以上、なあなあで終わらすつもりは毛頭御座いません」
趙雲「そんなっ!」
「ご安心下さいませ、お命までは頂戴致しません故。御覚悟お願い仕ります!」
趙雲「殿!?」

   膝を着き片手を地に着ける趙雲
   疲れ果てその顔に優しい笑みは無い
「……子龍様」
趙雲「……満身創痍、という言葉が……」(肩で息をしている)
「……遣り過ぎ、ました?」
   槍を地に突き刺し、屈んで馬超の手巾を差し出す
趙雲「いえ、全然、その様な事は」(にこり)
「……無理して笑顔をお作りにならないで下さいませ」
趙雲「無理など、しておりません、よ」
「……子龍様」(額をツンと指で押す)
   コロリと転がり尻餅をつく
趙雲「あ、いや、これは……!」(慌)
「ご無理なさいませんよう。子龍様は超と違い繊細な様で御座いますし」
趙雲「いえっその様な事は決して……!」
「今夜はごゆっくりとお休み下さいませ」
趙雲「……殿、こそ……」
「はい、有り難きお言葉に御座います」(こくりと頷く)




「超、伯約様」
馬超「姉上!」
姜維「殿」
馬超「……姉上、子龍は何処に……」(汗)
「向こうでお前を待っています」(にこり)
馬超「(……生きているのですか?)」
「(当たり前です。けれどもう、一歩も動けないでしょう)」
馬超「解りました。じゃあ伯約、亦後でな」(悲哀の眼差し)
姜維「孟起殿?私が先で宜しいのですか?」
馬超「ああ、俺は後で良いんだ」
「超とは時間が掛かりますので。伯約様、宜しくお願い致します」(にこり)
姜維「はっはいっ!此方こそ、宜しくお願い致します!!」(照)
馬超「(伯約、すまん!)」
   馬超、涙を堪え逃走
   それを見送った2人は目を合わせにこりと微笑みあう
「では」(槍を構える)
姜維「はいっ!」(同上)
「(如何すべきか……後程子龍様と御逢いになれば解ってしまうでしょうし……)」(にこり)
姜維「(!!孟起殿の御姉君様……やはり武に長けていらっしゃるのでしょうか)」(どきわく)
   カンカンと槍を交差させ距離を取る
「(子龍様程、力を出す事も無いわよね?)参ります」(にこり)
姜維「はいっ!」

   一方

馬超「!子龍……」
趙雲「孟起、か……」(が突き刺した槍の横でへばっている)
馬超「…………姉上の本気を見たか……」(悲哀)
趙雲「あれがそうであるなら、な」(苦笑)
馬超「……どうよ」
趙雲「恥ずかしいが、もう立ち上がる気力も無い」(苦笑)
馬超「……だろうな。能く姉上が止めを刺さなかったもんだ」(溜め息)
趙雲「それは……?」
馬超「姉上に止めを刺されたら、今のお前に意識は無い」(きっぱり)
趙雲「……そうか。これでも手加減されていたのだな」(苦笑)
馬超「みたいだな」
趙雲「今は伯約が?」
馬超「ああ。……如何なる事やら」
趙雲「伯約なら大丈夫だろう」(にこり)
馬超「いや、俺が。……久し振りに意識が飛びそうだぜ」(くず折れる)




   へたり込んでいる2人へと音も無く近付く人影
「超」
馬超「姉上!?もう終わられたのですか!?」(驚愕)
「ええあの……なりませんか?」(真顔で)
馬超「いえ、唯子龍の時よりも早かったなと思っただけです」(焦り)
趙雲「……そうですね」(苦笑)
馬超「やはり伯約よりも子龍の方が強いですか?」
「そうですね。そもそも伯約様は前線にて体躯を使い云々よりも、軍師等の指揮系統が性に合っているのでしょう」
馬超「……」
趙雲「……」
「……失言、でしたかしら」
馬超「いえ、その逆です」
趙雲「ええ、一度お手合わせなされただけで其処までお解りになられるとは」
馬超「……流石で御座います、と申し上げるべきでしょうか」
「まぁ、では伯約様はやはり?」
趙雲「はい。孔明殿に師事する軍師に御座います」
「まあ!そう言えば蜀にはあの諸葛孔明殿が御在籍でしたね」
馬超「はい。伯約は丞相丞相と慕っております。姉上のお耳にも孔明殿の噂が?」
「無論です。魏には司馬仲達様が居りますしね。能く耳に致しましたわ」(にこ)
馬超「……司馬仲達………」(げんなり)
趙雲「……左様で御座いましたか」(苦笑)
「わたくしとも気さくにお話して下さる方で、二言目には諸葛孔明が、と」(微笑み)
馬超「想像に難くありませんね……姉上もさぞかし退屈でしたでしょう」(げろげろ)
趙雲「孟起」(苦笑)
「何故です?とても楽しく拝聴致しましたわ」(にこり)
馬超「姉上?」
「なんです?」
馬超「アイツの……司馬仲達の相手はその、疲れませんでしたか?」
「何を言うのですお前は。仲達様はわたくしの存知得ない話を面倒臭がらず、幾つもして下さった良き殿方ですよ」
馬超「そ、そうですか……(嘘だ!)」
趙雲「(殿にかかっては、あの気難しい性格も難なく受け入れられるのだな)」(微苦笑)
「お前も、武だけでは無く知も修めるのですよ」
馬超「姉上!」(汗)
趙雲「(微笑ましい……しかし、何か忘れているような……?)」(にこにこ)
「……はて。わたくしは此処に何をしに………」
馬超「……あ」
3人「「「伯約!!」」様!」




「それでは超、主宴を始めましょうか」
馬超「(しゅ……宴!?)!!し、しかし姉上、伯約が未だ目を覚まさないのが心ぱ――」(焦/姜維を抱きかかえ)
「どれ程で目覚めるかはお前が能く理解しているでしょう」
馬超「そそそそれはそのー…………はい」(諦めた/項垂れ)
趙雲「伯約の事なら心配要らぬよ孟起。わたしが責任を持って看ているから」
馬超「そ、そうか?お前も満身創痍だろ、無理すんなよ?」
趙雲「心配無いさ」(にっこり)
馬超「お、おお、そうか……(助けろよ肝)」
趙雲「心行くまで手合わせして頂くと良い(主賓はお前だろう)」
「では子龍様」
趙雲「はい、我等の事はお気になさらず」(にこり)
「わたくし共の事もお気になさらず、先にお休み下さいませ」
趙雲「いえ、お待ちしております」(にこり)
「終わりますのは夜が明けた後ですので」
馬超「えっ……」(冷や汗)
趙雲「亦、ご冗談を」(微笑み)
「……」
馬超「……子龍よ、先に休んでいてくれ。否、もう、今すぐ帰れ」(黄昏)
趙雲「?それは如何いう意味だ?」
馬超「終わるのは夜が明けてからだ」(真顔)
趙雲「……冗談だろう?」
馬超「本当だ。姉上はそういう冗談は仰らない人だからな」
趙雲「それは……(を見て)真、で御座いましょうか?」
「無論に御座います」(しれっと)
趙雲「……左様で御座いますか」(汗/引き攣った笑顔)
馬超「だから悪いが、伯約を連れて帰ってもらえないか?」
趙雲「ああ、解った」
「……子龍様」
趙雲「!はい」
「伯約様をお連れ出来る体力はおありで御座いますか?」
馬超「あ」
趙雲「……お恥ずかしながら、殿の仰るとおりで御座いますな」(苦笑)
「では伯約様とも、本日は超の部屋にてお休み下さいませ。超、子龍様に肩をお貸ししなさい」
馬超「は、はい。しかし、伯約はその、如何致しますか?」(姜維を抱きかかえた儘)
「わたくしがお運び致しますわ」
   馬超から姜維を貰いうけお姫様抱っこする
馬超「あ、姉上!?」(吃驚仰天)
趙雲「(なんと……頼もしいお方だ)」(言葉を選んだ)




   外に出て篝火に囲まれた場所へと移動
馬超「……姉上」
「なんです?」(手には槍)
馬超「その、子龍がもらしていたのですが……」
「……なんです」
馬超「如何して微笑んでいただけないのか、と……」(びくびく)
「……嫌味ですか?」(冷たい眼差し)
馬超「いえっ!子龍はあの通り、戦――殿と阿斗様以外の事に関しては栓が抜けておりますので、本心です!
   本心から……姉上が自分に微笑みかけて下さらなくなったのは
   自分が色々と出過ぎた真似をして姉上の心を傷つけてしまったから、なのかと……」(滝汗)
「……能くお解りでは御座いませんか」(ひとつ息を吐く)
馬超「姉上!?」
「……わたくしの素性を知った今、最早取り繕う必要も無いでしょう」
馬超「取り繕うだなんて……!」(苦)
「それに……」
馬超「なんですか?」
「――いえ、なんでもありません」
馬超「……だからと言って姉上、感情を殺す必要などありませんよ!」
「…………殺してなど――」
馬超「おります!アイツ等はこれ位の事で動じるような性質ではありません!」
「……良いのです」
馬超「良くありません姉上!!」
「如何でも良いのですよ超、関係有りません」
馬超「姉上!!」
「詮無き事です。さあ、始めましょうか」(槍を両手で持つ)
馬超「何故ですか姉上!何故きちんと向き合おうとなさらないのです!?」
「――お前がそれを言いますか」(槍を構える)
馬超「う゛っ!!し、しかし……昔の姉上は違います……
   昔の、昔の姉上であればきちんと向き合い、お互い誤解無きよう話し合っていたでしょう!?」(槍を強く握りしめる)
「言葉が過ぎますよ、超」(腰を落とす)
馬超「しかし――っ!」(の眼差しに息を呑む)
「お前が変わったように、わたくしも変わっているのです。森羅万象、不変なものなど何も無いでしょう。
   違いますか、超」
   いつしか、口から白い息がこぼれ始めている
馬超「……それは、そうですが…………」(俯き)
「口上はもう良いですか?」
馬超「…………姉上……」
「なんです?」
馬超「俺も――……私も彼等と、自分自身と向き合います故、如何か姉上も彼等と向き合っていただけませんか」
   きっと強く口を結び、顔を上げる
「……」
馬超「……」
「ふっ……」(目を伏せ笑みをこぼす)
馬超「あ、ねう、え……?」
「良い心掛けですわね」(柔らかい笑み)
馬超「姉上!では!?」(喜色を浮かべる)
「ですが。言うようになったではありませんか」(目が笑っていない微笑み/背後に強いオーラ)
馬超「あっ姉上!?」(滝汗/焦)
「わたくしにも思うところがあります故総ては変えられませんが、そうでわすね、良いでしょう」
馬超「……そ、それは……?」
「わたくしに一撃でも深く入れたならば、お前の望み通りにしてやりましょう」(目が省略)
馬超「!!?!!そそそそそれはそれはそれは――っっ」(慌て/滝汗冷汗)
「手加減は無論要りませんよ」(にこり)
馬超「はっはっはっ――はいっっ!!」(背筋を伸ばし拱手)

「では」(改めて槍を構える)
馬超「はっ!」(ぎゅっと強く握り槍を構える)
   カンカンと2度槍を交差させ、少し距離を取る
馬超「はっ!」(真っ直ぐに突く)
「良い突きです」(にこり/槍でいなす)
馬超「!はっ!」(すぐさま槍を引っ込め下から振り上げる)
「良い判断です。ですが」(にこり)
   カァンと高い音が上がり、ドスリと地に突き刺さる槍
   風を切り馬超の目玉の直前に迫るの切っ先
「身体に妙な力が入っていますよ」(すいと槍を下ろす)
馬超「……」(汗が背を伝い指先が少しビリビリと痺れている)
「それ程わたくしが恐ろしいですか」(苦笑)
馬超「っそれは――!!」(焦)
「構いません。さあ、槍を取りなさい」(再び構える)
馬超「……はい」(槍を取りに行き、痺れる指先をきつく握りしめ槍を取る)
「きなさい。もう言葉は要りませんね」(笑みを消す)
馬超「……、馬孟起、参ります!」(ぐっと腰を落とす)
   カンカンと不規則に上がる木のぶつかり合う音、それに合わせて上がる土煙
   こぼれる白い息に声、地を蹴る足の音
馬超「はあっっ!」
「甘い」
   カカンと槍を絡め取り柄で馬超の腹部に一撃を沈める
馬超「ぐぅっ!」(顔を歪め片膝が地に着く)
「二度」(ヒタリと刃先を馬超の頬につける)
馬超「……次、お願い致します」(ゴホと一つ咳をする)
「良い心掛けですわね」(槍を下ろす)
   転がる槍を拾い上げ、後ろからの殺気に地を蹴る馬超
   振り向き様に宙を舞う数本の短い髪
馬超「あ、姉上……!?」(驚愕)
「お前ももう子供では無いのですよ」(綺麗にわらう)
馬超「………」
「戦場では、こういう事態も珍しくないでしょう」
馬超「そ、う、です、が……」(ぱちくり)
「後ろを取られるとは、情けない。これで三度ですわね」(溜め息)
馬超「っ!しかし、今は避け――」(しっかり槍を握りに向かい合う)
「られるよう振り下ろしたのです」
   片手で槍を持ち、馬超の首の高さで横に払い動かす
馬超「……で、御座います、ね……」(ごくりと固唾を飲み込む)
「さあ、夜は未だ始まったばかりですよ」(にっこり)
馬超「嬉しい限りで御座います!!」(涙/突進)

   篝火が揺らめく中、槍の弾かれる音と掛け声、地に擦れる音だけが静かに響く
   槍を抱えたまま、後方に吹っ飛ぶ馬超
「今のは良い反応ですわ。槍で衝撃を受け止めましたね」(嬉しそう)
馬超「……総ては、受け止めきれませんでしたが……(………嘘だろ………)」(肩で大きく息をし、柄を地に着ける)
「まぁ、未だ夜は長いですよ」
馬超「……心得て御座います……(……姉上のこの強さは、何処から……)」(パンと両頬を叩き、槍を取る)

   ぽつぽつと火が消え始め、馬超の息も荒く絶え絶え
   服にはほぼ全体的に土が付き、顔や髪にも付いている
   槍を握る手に、力は殆ど入っていない
「幾度か倒れ、そろそろ手にもきている頃ではないのですか」
   カァンと高い音を引き連れ、夜空高く舞う槍
   の手にある槍は休む事無く馬超へと素早く繰り出される
馬超「ぐっつぅっ……!」
   それを捌き槍へと向かう馬超だが足がもつれ転がり、昇る土煙
「背中が空いています。足元も疎かですわね」(溜め息)
   ひゅっと空を切る刃
   は動じず、はらりと風に流れるが身に纏っていた服の一部
「……見事です」(にこり)
馬超「……言葉は要らぬのでは御座いませぬか、姉上」(湯気がくゆる身体でゆっくり起き上がる)
「……超、叩くのは洗濯物と麺と肩だけで良いのですよ」(目が省)
馬超「……っそ、それは姉上も同じ事!!」(ビビリながら真っ直ぐ槍を突く)
   ガシイッッ
   槍はを貫く事もその身に纏う布に触れる事も無く、の左手で止められる
   力を籠める馬超だが、は一切動じず
「……強くなりましたね、超」(にこり)
馬超「……………姉上こそ…………(今回も勝てぬのか!!?)」(げそり)
(にこり)
   ミシッミシミシミシミシ
馬超「!?」
   ミシミシバキミシバキバキバキィッッ
馬超「!!??!?」
   ぱらぱらと落ちる木屑
「あらあら、超の槍が壊れてしまいましたわね」(左手に握る槍の刃のついた先端を眺め)
   の左手から槍の柄が落とされる
馬超「……」(一気に血の気が引く)
「では、此方をお使いなさい」(にこり)
   右手に持つ槍の柄の方を馬超へと差し出し、左手の中の刃のついた槍の先端部分をひょいと投げる
   ゴトリと、篝火の根元に転がる鈍く光る鉄
   足元に転がる壊れた槍の柄を邪魔にならぬよう投げる
「修錬用のものなのでしょう?幾つ壊れても構いませんね?」(微笑み/ゴゴゴゴゴ)
馬超「は、はい、勿論に御座います……
  (今から全力で……っつーか今頃身体が温まってきたのですか!?)」(引き攣り笑顔)
「陽が昇るのが先か超が倒れるのが先か、楽しみですわねv」
馬超「はい――……」(ゾッ)
「しっかり受け止め――否、息の根を止める覚悟で参りなさい」
馬超「元よりその積もりなのですが……はい……」(入らない力を入れ槍を握る)
「では、遠慮無く参りますよ」(にこり)
馬超「は!」(血涙)


   鳥がさえずり始め、篝火もその殆どが消えている
   辺りは薄明るく、遠くの空の端に橙色の光が見え始めている
   粉砕された木片と、転がる木の棒に鉄の刃
   薄っすらと汗を掻いたの膝枕で意識を飛ばした馬超
   冷たい風が2人の火照った体を冷やし、灰銀の髪を揺らす

「……矢張り2人で日の出を見る事は叶わなかったわね」
   御仏のような微笑みで馬超の髪を梳く
「父上、超も立派な将に……なれたのでしょうか?嗚呼、わたくしに一撃も入れられぬままだなんて……
   は不安で不安で仕方がありませんわ
   …………けれど、超が元気で健在で、何よりでしたわ」(遠い朝日に目を細める)




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