突撃!隣の人は熱☆病人  小津 蒔人 の場合






「 蒔人ちゃん大丈夫!?」
「 お兄ちゃん?」
「 兄貴!?」
「 だ、大丈夫だ……ちょっと眩暈がした、だけだ……から……。」
皆で楽しくお喋りしてたのに。
急に蒔人ちゃんが倒れこんできてびっくりした。
私も翼ちゃんも芳香ちゃんも思わず叫んじゃったよ。
「 大丈夫か蒔人?」
「 兄ちゃん大丈夫かよ?」
「 お兄ちゃん最近風邪っぽかったのにいつも通り振舞ってたからから……。」
光さんと魁ちゃんと麗ちゃんがそれぞれ蒔人ちゃんに心配そうに声を掛ける。
びっくりしたよねと、皆で目配せしながら。
「 大丈夫です、光先生。
 も、すまない。」
「 ううん、私なら平気。
 それより蒔人ちゃん、ちょっと………やっぱり。」
眩暈がしたと云っていた蒔人ちゃんは私へと倒れこんできて、取りこぼさない様にと支えた私に申し訳ないといった表情で謝った。
私は首を小さく横に振って大丈夫だと笑い、それからその綺麗に開かれたおでこに手の平を触れさせると、ほこほこと熱かった。
麗ちゃんの言葉から察するに―――
「 風邪からくる熱のようね。
 蒔人ちゃん、お部屋で休もうか。」
「 ……そうだな、皆にうつしても大変だし。
 治るまでは部屋で大人しくしているとするか……心配だが。」
うらめしそうにというか心配そうにというか。
私の肩を借りながら、光さんたち周りの5人をぐるりと見回してからはぁと溜め息をついて力なくそう云う蒔人ちゃんは、本当に根っからの長兄なんだなぁ。
なんて当たり前の事なんだけど、今更ながら改めてそう強く思えて苦笑がもれちゃう。
「 大丈夫だって!
 兄ちゃんの仕事は俺達で分担するから!」
「 そうだぜ兄貴。俺達を信じてたまには休めって。」
「 お兄ちゃんは無理し過ぎなんだよ。」
「 そうだよ〜。お兄ちゃん1人で何でもやり過ぎなの!」
任せとけって、そう加えて魁ちゃん、翼ちゃん、麗ちゃん、芳香ちゃん。
ここぞとばかりに休めと蒔人ちゃんを責め立てる。凄い団結力。
きょうだい仲良いんだなぁ、なんて思わず目を細めちゃうくらい微笑ましい。
「 そうだぞ蒔人。
 いつもいつも一人で頑張り過ぎなんだ。
 ゆっくり休むのも必要な事だから、暫くゆっくり休みなさい。
 それに今日はさんも来てくれているのだから。」
光さんがぽんと蒔人ちゃんの肩に優しく手を置いて、それから私の目を見てにっこりと微笑む。
王子様みたい。って、違うでしょ。
なんか……良いなぁ。師弟愛って、やつかなぁ。
「 そうだお兄ちゃん!
 今日は折角ちゃんが来てくれてるんだから、ちゃんに看病してもらったらどう?」
突然、芳香ちゃんが元気良く右手を挙げてこう提案してきた。
「 芳香、それは―――」
私と蒔人ちゃんがびっくりして目を見合わせていると、そうだそうだと皆が盛り上がり始めた。
ええと……ちょっと待とうか芳香ちゃん?
蒔人ちゃんの言葉すら遮って盛り上がっちゃってるけど……。
ちゃんはどう?お兄ちゃんの看病するの、嫌?」
「 やめろ芳香。が困るだけだろう。」
芳香ちゃんに詰め寄られたと思ったら蒔人ちゃんが間に割って入ってきてくれた。けど。
私、は……―――――――――
「 ううん、嫌じゃないよ。
 蒔人ちゃんさえ良ければだけど、私は構わないよ。」
元々、蒔人ちゃんが倒れた時からそのつもりだったしね。
見れば、蒔人ちゃんはえ?って紅い顔して驚いてるけど。
「 そっかー。
 それじゃ、兄ちゃんの事はさんに任せて俺達は家事でもするか。」
「 おう。」
「 そうね。」
「 決っまりー!」
「 ああ。
 それじゃあさん、蒔人の事宜しく頼むよ。」
「 あ、はい……。」
皆異様に盛り上がって、更に光さん直々にお願いされたけど……。
ああ、皆もう行っちゃうのね。
私と蒔人ちゃんだけを残して。
。」
「 あ、はい?」
少し紅い顔の蒔人ちゃんが私の名前を呼んで。
急に2人になった事も手伝って、なんだか気恥ずかしくなってきた。……かも。
「 すまない、芳香の思いつきでこんな事に……。」
ペコッと項垂れて謝る。
「 ううん、気にしなくて大丈夫だよ。
 ほら、困った時はお互い様って云うでしょ。ね。」
本当に、気にしなくて良いのに。
蒔人ちゃんは、人に甘えるのが下手なんだろうな。いつもいつもお世話する側だったから。
少しでも軽くなればと、私は笑ってみる。
「 ありがとう、。」
にこりと微笑んで、蒔人ちゃんが私の手をがっしりと掴む。
な、なに急に。
「 じゃあ、が風邪をひいた時は俺が手厚く看病するからな。約束だ。」
「 あはは、今からそんな事……でも、ありがとう。
 さ、早くお部屋に戻ろう。」
「 ああ。」
こんな時でも先の事を考えるなんて。しかも私の看病って……。
やっぱり、蒔人ちゃんは長兄なんだなぁと強く思って、なんだか微笑ましく感じる。
もっと甘えてくれて良いのに。






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