「 フルハウス。」
「 フォー オブ ア カインド。」

「 ワイルドカードのフォー オブ ア カインド。」
「 ストレートフラッシュ。」

「 ストレート。」
「 ファイブ オブ ア カインド。」


「 ……ワイルドカードのストレートフラッシュ!」
「 残念、ロイヤルフラッシュだわ。」
「 〜〜〜〜〜っああ、チクショウ!!」
薄暗い部屋に一際大きく響くのは、セッツァーの苛立ちにも少し似た嘆きの声。
「 そんな大きな声出さないの。皆さんにご迷惑でしょ。」
そしてそれを優しく窘めるのは、の心地良い声。

2人はダブルベッドに深く腰を沈め、カードゲームに興じていた。
未だ外は、空がやっと白み始めた時分である。朝靄が美しく、日照をより厳かなものにしている。
「 ずっと負け続けてりゃ嘆きたくもなるってもんだ。」
「 あら、手を抜けば抜いたで癇癪を起こすのは誰かしら?」
盛大に溜め息を吐き胡坐を掻いていた体勢から後ろに重心を移し、包容力の高いベッドへと身体を投げ出したセッツァーにくすくすと小さく笑みをこぼすは散らばったカードを拾い上げている。子供じゃねぇんだから癇癪なんか起こすかよともらせば、返されてくるのは眉間に皺を寄せた仏頂面が寄越されるのねと柔らかに笑む声音だ。

砂漠で行き倒れていたをエドガーが助け出したのはほんの2日前。
それなのに、早朝の鳥も眠る時間帯にカードゲームに興じ尚且つあのセッツァーに連勝している辺り、も亦一般人とは少し異なった生活を送っていたのだろうか。

カードを綺麗に揃えベッドボードへと置いたは、自分に背中を向け拗ねているであろうセッツァーを見つめている。
その目は細められ、慈しむように、愛おしそうに優しく穏やかである。
いい歳をした大の男が高だかカードゲームの勝敗くらいで、と思われるだろうが、其処はセッツァーとの間柄。いつまで経っても、幾つになっても姉を超せない弟の焦燥にも似た悔しさなのだろう。きっと。


「 怒ったの?」
「 ……怒る訳無いだろう。」
続いた無言を破ったのは絹を撫でるようなの声。
セッツァーの長い髪を愛しむように梳きながら、ポツリと訊ねていた。それに返されるのはどこか不機嫌にも聞こえる能く通る低い声音。それでも口をつくのは否定のそれである。
「 嘘。」
「 寝る。ももう一度寝ろ。疲れてるだろう。」
「 もう目が冴えたわ。」
自分が云った事を信じてもらえず、その答えをはぐらかせば髪を梳く手が止まった。
は、こんなにも面倒臭い性格だっただろうか。そんな記憶は欠片も無いというのに。
そう思うセッツァーはころりと寝返りを打ちを見上げる。

少し骨張ったの頬に手を宛がいどうかしたのかと口を開きかけたが、不意に頬を綻ばせ口を開く光景が拡がった。
「 拗ねてるのよ。」
そう云って笑むは、どこか嬉しそうに見える。
言葉の真意が能く見えず、考え込むセッツァーは暫くの沈黙の後に誰がと聞き返すのがやっとだ。
「 私が。セッツァーも拗ねてるの?」
「 拗ねるかよ。」
図星をつかれたけれど、カードゲームに負け続けた事が原因で拗ねていたなど、情けないやら恥ずかしいやらで幾ら双子の姉とはいえ素直に云えやしない。そんな弟の気持ちをも見抜いているのか、そうよねと返すは拗ねているという言葉とは裏腹に随分と明るい。
彼女のどこが、拗ねているのだろうか。
「 で、誰が拗ねてるって?」
頬を指の腹で撫で、再び問うた。
けれど寄越されるのは先と同じで、私がよと笑うが居るばかりだ。
「 どこがだよ。」
「 あら、弟の成長を目の当たりにして、嬉しい反面悲しみもあるのよ?
 昔は私に負けると感情全開にしてもう一勝負だっ!と時間も忘れてぶつかってきてくれたじゃない。
 なのに今は嘆きの呪文を唱えて諦めちゃって。しかも本音まで隠そうとして。」
くつくつと笑いながら、はセッツァーの髪を撫でる。
「 そりゃ拗ねたくもなるわよ。」
私の知らない間に大人になって、私の知らないセッツァーが居て。
……。」
「 ずっと私の後ろをちょこちょこと追って来てくれるんだと思ってたのに、もうこんなに大きくなっちゃって。」
ずっと変わらずに、ずっと同じように。
そんな事不可能なのだと、ありえはしないのだと判ってはいてもつい願ってしまう事もある。
そう、少し苦く笑ってはセッツァーの手をそっと下ろさせ瞼を閉ざす。
久しぶりの再会に、何を想い何を考え、何を見出すのか。

「 ……少し寝たら、もう一勝負してくれるか?」
「 そうね、セッツァーが嫌じゃないのなら。あ、エドガーさん達もお誘いしてみ――」
「 エドガーは駄目だ。」
笑って、2人は暫しの眠りにつく。    
姉――弟











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