―――数日後――― エクソシスト総本部 『黒の教団』 「 あー、疲れた疲れた。ったく、なんで仕事後のやっと貰えた休暇潰されてまた仕事してたんだろー? 移動も併せたら私、全然休息が取れてないんだけどなぁ?」 資料に埋もれた中で、はある人物に向かって文句を垂れる。 「 やだなぁ、くん。ボクらの仕事は仕事であって、生活でもあるんだよ? 休暇が潰れたのは今回だけじゃないでしょ。なにをそんなにプリプリしてるんだい? 折角の可愛いお顔が台無しダヨ。」 眼鏡をキラリと光らせ、コムイは答える。 笑って笑ってと、付け加え。 「 ――ふん。五月蠅い、なんでもないですよ。疲れたんでもう戻ります。暫くお休み下さいよ。」 ペシンと、書き込み済みの報告書でコムイの頭を叩き、はそのまま科学班室を出る為踵を返した。 「 あーくん、ニース土産は〜?」 の背中に向けて叫ぶが、靴音が乱暴になるだけであった。 「 あーもー、本当に疲れた。本当に疲れた。本当に疲れたもうダメだー!」 ドサリ。 と、人気のない談話室のソファに荷物と自身の躯を乱雑に投げ込んだ。 「 ――もう、本当にダメだ……。」 ぽつりと、一粒の涙と言葉が零れた。 「 なーにが駄目なんだ?」 フカフカのクッションに顔を埋め思い切り抱きしめていると、ふと、の上の方から声が降ってきた。 顔を上げると、其処には両手にマグカップを持った科学室班長リーバー・ウェンハムが立って居た。 「 ん?」 笑顔で、そう聞きながら左手に持っているカップをへと差し出す。 「 うぅ……リーバー、リーバー優し過ぎ!その優しさが傷口にしみるよぉー………。」 ボロボロと、両目から大粒の涙をこぼし、差し出されたカップをリーバーの手ごと掴む。 「 ええっ?お、おい、如何したんだよいきなり泣き出して!俺なんか、悪い事でも云ったか!?」 いきなりに泣き出されてしまったリーバーは当然驚いた。 しかしの気持ちは高ぶるばかりで、まともに話せる状態ではない。 大粒の涙が次から次へと流れてくる。 「 あ、う……えっと……、だ、大丈夫か?ってー、今は無理そうだな。」 両肩を大きく上下に揺らしカップごと手を強く握ってくるを見て、リーバーは何かを決めたように、右手に持っている自分のカップをテーブルに置き、目線を合わせるようにとの正面にかしずく形を取る。 「 もし、話せる様なら話してくれりゃ良いし、話したくない事なら話さなくても良いから。 取り敢えず今は、落ち着くまで泣いとけ。他に誰も居ねぇし。」 右手でわしわしとの頭を撫で、子供をあやす様な口調で話す。 「 大丈夫だから。もう、大丈夫だからな。此処で全部出しとけ。」 ポンポンと、リーバーは優しくの頭を撫でる。 柔らかい、雰囲気を作り出した中で。 「 うう、うぅぅ……ぅぅ……」 少しずつ、の声が小さく治まっていく。 リーバーは眼を細め、の頭を優しく撫でながら、黙って傍に居る。 唯それだけの事だがは安心したのか、徐々に冷静さを取り戻していった。 「 ――、ごめん、ごめんリーバー。なんかちょっと、こう、感情が高ぶっちゃって……。」 俯いたまま、未だリーバーの手をカップごと握り締めてポツポツと口を開き始める。 「 いいよ、大丈夫だから。だから、謝んなくて良いよ。な。」 下から覗き込むようにの顔を見上げ、微笑む。 その顔につられたのか、も涙を溜めたその泣き顔でふっと笑った。 「 ――うん、ごめんね、ありがとう……。」 握り締めていた手の力を抜き、右手で涙を拭う。 「 ああ。」 くしゃりと、髪を握り、リーバーは左右に大きくの頭を2度振った。 「 ……へへ、なんかちょっと――ううん、大分気持ちも治まってきたよ。」 「 あれー?リーバーとじゃん、珍しい組み合わせさね。」 がリーバーのその優しく笑う目を見つめゆるりと笑んだ時、談話室の入り口から、明るく元気な声が投げかけられた。 ゆっくりと、2人は声のした方へと顔を向ける。 そこには、オレンジ色の頭をした眼帯少年と、長く綺麗な黒髪を高く結い上げ仏頂面をしている美少年が、居た。 「 ラビ、と、神田……か。なんだよ、脅かすなよな。」 はぁと一つ溜め息をつき、リーバーはカップをに持たせ立ち上がる。 「 なになに、逢い引きでもしてたんか?」 ぷぷぷっと笑いながらオレンジ色の頭をした少年、ラビはとリーバーの元へと歩み寄る。 もう1人の黒髪の少年、神田はと云うと、面倒臭そうにしながらも、ラビの後を追い2人の元へと歩を進める。 「 んな訳ねーだろ。なに云ってやがるガキが。」 旧友にでも逢ったかのように、リーバーは少しふざけてラビの首に腕を回し関節を決めようとする。 ラビもそれに負けじと応戦を始めた。 「 ……。」 なにやってんだコイツラはと云いたげな冷たい眼で二人を見ながら、神田はの傍まで歩いた。 ふと、何気なくの顔を見ていたら、顔を上げたと視線がぶつかった。 そう、赤く少し腫れたの眼と。 「 ――っ、お前……。」 其処まで云って、はっと息を飲む。 今の今まで、の傍にはリーバーが居た。 それもソファーに座っているにかしずく形で、髪に指を絡ませたリーバーが。 そしてそのの眼は赤く少し腫れあがっている。 リーバーが泣かしたとは考えにくい。そもそもあのシチュエーションならば、慰めていたと考えるのが妥当であろう。 しかしながらが泣いていたのは事実だ。 と、の顔(と云うか眼)を見つめたまま無言で神田はごちゃごちゃと考えていた。 そんな様子を察したのか、ふっと息を吐き出し顔を緩ませ、は神田に向かって口を開く。 「 私、付き合ってた人が居たんだけど、別れてきちゃった。」 そう、自分に言い聞かせるように告げた。 子供の様に悪戯っぽく笑った後、視線を正面へと戻しマグカップに口付ける。 少し冷めた紅茶を一口、口に含むと、マグをテーブルへと置きソファーに深くもたれる。はぁと盛大に息を吐いて。 そんな突然の告白に、神田だけでなく技を掛け合っていたリーバーやラビも眼を見開き驚いている。 「 ――え?なにそれ、冗談だろ?っちゅーか、彼氏居たんだ、。其処がまず驚いたさ。」 黙っている2人の分まで代弁するかのように、ラビが話す。 「 あ……彼氏居た事は知ってたけど、わか、別れ……たんだ?いつ? って、あー、云いたくなかったら勿論云わなくて良いよ。でもさ、云ってスッキリする事もあるだろ?」 ラビとは違い、フォローに回りながらも質問をするリーバー。 しかしそれはやはり、興味本位で、ではなく。 「 うん。そうだね――全部話して、すっきりしちゃおっかな。 ……聞いてくれる?」 髪を掻き上げ、眼にうっすら涙を浮かべ、それでも笑顔を3人に向ける。 そんな姿が儚げに映ったのか。ラビは神田を挟んでの横、リーバーはの正面にあたるテーブルに腰を下ろした。 「 ああ、勿論聞くさ。もういいって位聞きまくるよ。ほら、ユウ!いつまでも突っ立ってないでユウも座れ!」 バンバンとソファーを叩き、神田に座る様促すラビ。 「 云いたくない事は云わなくて良いからな。でも、云いたい事は全部云え。良いな?」 じい、と真正面に、真剣な眼差しを送るリーバー。 「 うん、ありがとう。」 は柔らかに微笑んだ。 神田はと云うと、眉間の皺を益々深くしながらも、溜め息を一つ落としてからソファーへと腰を下ろす。 相変わらず、黙ったままで。 「 18日前、中国大陸の東の外れにイノセンス回収の任が出たの。 その任務が終われば、私には3日間の休暇が待っていた。」 ポツリポツリと、しかししっかりとした口調では語り始める。 「 で、任務をこなしたその足で、本当は禁止されてるけど、フランス――付き合ってた人が居るところへと急いだの。 そりゃそうでしょう。久しぶりに恋人に逢えるんだもん。 嬉しくて仕合わせで、仕方がなかった。逢った瞬間なんて、嬉し過ぎて思わず飛びついちゃったし。」 あはは、と眼を細め、髪を掻き上げ小さく笑う。 「 それから、ずっとベッタリ彼の腕にひっついてた。『今の仕合わせ』を噛み締める様にね。 あ、キャラじゃないとか思ってるでしょ?でもね、私だってそういう事するんだよ。 それで、何時間かしたら、ゴーレムが鳴って。相手はトマさんだったんだけど、コムイとも電話で繋がってて。」 少し、声のトーンが低くなった気がした。 「 いきなり、『そっちにイノセンスの反応がある』とか云い出して。もう、彼とのラヴラヴなムードも台無しよ。 解る?この気持ちが。天国からいきなり辛すぎる現実に連れ戻されたんだよ、あのボケコムイにっ!!」 いつしかその声には、憎しみに能く似たモノが出ていて。 「 ――でもさ、私はエクソシストだから。仕方、無いじゃん? 仕事放棄する訳にもいかないし、きっちり引き受けたよ。引き受けたけどっっ!!」 声だけでなく、躯にも力を入れていた。 ぎゅっと、小さな拳を握り、はそれでも言葉を続ける。 「 その後だよ、その後。 いきなり彼がさ、『仕事行くまで未だ少し時間ある?』とか聞いてきて。まぁ、少しくらいならあるって答えたら。 なんて云ってきたと思う?」 睨み付ける様に、リーバー、神田、ラビの順に顔を見ていく。 答えの分からない3人――否、リーバーとラビは首を少し傾げた。 興味が無いといった感じで仏頂面を崩さないのは、神田。 「 『一回ヤらせろ。』 こう云ってきたんだよ。 『すぐ済む、大丈夫怖くない痛くしないから一回ヤらせろ』って。 人をバカにし過ぎてると思わない!? ベッドルームまで連れてかれてベッドの上に突き飛ばされるし、服は脱がされそうになるし。」 もう、沢山。 そう云わんばかりの迫力で尚も語り続ける。 「 え……?そ、それで、どうなった、んだ……?」 恐る恐る、リーバーが訊ねる。 「 どうって……勿論拒んだよ。 拒んだら挙句の果てに、『一回ヤらせてくれたら、もうお前要らない。別にお前の事好きでも無いし?』 だって。 なんだよ、『お前の事好きでも無いし?』 って。なに疑問系なんだよ。 『ちょっと顔が良いから付き合ってやった』 とかっ……。本当に、腹が立つう―――っっ!!」 いつの間にか、眼には溢れんばかりの涙が再び溜まっていた。 「 ――そっか、だから、分かれてきたのか。……でも、別れて正解だったろ。」 「 そーだそーだ。の魅力を何一つ解ってない奴なんて、フってやって正解さ。 あー、話聞いただけでもムカついてくるさ!」 ふるふると、怒りをあらわにする2人に対して。 「 フンッ、くだらねぇ。単に、その男の本性を見抜けなかったお前にも非はあるだろ。情ねぇ奴。 人を呪ってる暇があったら、もっと自分を磨いて―――」 「解ってるよ!」 辛辣な、けれども的を射ている神田の言葉を遮り、が怒号に似た悲痛な叫びを発する。 「 解ってるよ、自分がどれだけ愚かだったのかとか、周りを冷静に見てなかったのかとか。 そんなの、神田に指摘されなくても充分解ってる。 解ってるから、悔しいんじゃん。 アイツに腹立ててるより、自分自身に腹立ててんだよ。 ちくしょう、こんな時ぐらい優しい言葉の一つでも云えないのかその口はっ!!」 ポロポロと隠すことなく涙をこぼしながら、悔しさの色を一杯にした顔を神田へと向ける。 「 別にっ!同情が欲しい訳じゃ無いけどね。一応云っとくと! 話して、すっきりしたかったんだよ。こんなっ、……情けない自分が厭だから。 事実を事実として云ってくれて、どうもありがとうございます!!」 すくっと立ち上がり、2つある荷物のうち1つを鷲掴みながら神田を睨み付ける。 「 あーあ、大声出したらすっきりした。ちくしょう、すっきりしたぜ。すっきりついでに部屋で独り酒に酔ってやるわ。」 視線を入り口へと向け、ずんずんと歩き始める。 「 あっ、おい、荷物忘れてるぞ!?」 残りのもう一つを掴み、リーバーはにそう声を掛ける。 「 ニース土産。好きにして良いよ。」 背を向けたまま、はむくれた声で答える。 「 ……でも、最後まで話聞いてくれて、ありがとうね。みんな。」 柔らかな笑みを携えながら振り返り、一言そういうと、亦歩き始めた。 「 ったく。飲みすぎんなよー。」 手をヒラヒラさせ、優しい微笑みでを送るのはラビ。 「 じゃ、ありがたく頂いとくよ。無理すんなよ。」 ふっと息を吐き出し、見送るのはリーバー。 「……フン。」 変わらず仏頂面で居るのは神田。 それでも、先程とは違い穏やかな足取りで自室に向かうは、。 「 あー――――、大分落ち着いてきた。かも。」 顔を少し赤らめ左手に酒瓶を持っているのは、自室に戻っただった。 「 やっぱり、コレが落ち着くな。ビールやウィスキーは、ちょっと違うんだよな。」 そう云って見つめる先の左手には、『茅台酒』という中国の文字が大きく踊っている。 「 ……美味しい。 お酒の飲み方教えてくれたのって、ユベールだったっけ……。」 眼を細め、膝を抱えて呟いた。 ――コンコンコンコン―――― ドアをノックする音が、暗い部屋に響く。 アルコールの入っているは、対応しようか一瞬考えたが、時間も時間、尚且つ面倒臭いという感情から"放置する"という結論を導き出した。 「 んーあー――、気持ちいぃ……」 「 おい、居るんだろ?」 不意に耳に飛び込んできたのは、例の仏頂面をした神田の声であった。 意外な人物からの呼びかけに、アルコールの入った頭は余計働かず。 30秒程の沈黙の後、思い出したかの様にドアへと重たい腰を何とか上げ、足を運んだ。 「 ――、傷心して酔っ払い中の乙女の部屋を訪ねてくるなんて、随分野暮な事なさるのね神田さん? それに今、何時だか判って――って、こら、ちょっっ!!」 部屋のドアを開け、自棄気味にクダを巻いてみると、団服を脱いだ私服姿の神田が立っており。 が話している途中でズカズカと部屋の中へと上がり込んだのだ。 勿論、靴は脱いで。 「 ……あのねぇ、私の話、ちゃんと聞いてた?傷心して以下略の乙女の部屋に勝手に上がり込んで胡座を掻くなんて。 横暴にも程があるでしょう。」 はぁとひとつ大きく溜め息をつき、肩を落として半ば諦めて静かにドアを閉めた。 酒瓶が置いてある所はカーペットが床の上に敷かれているだけで、ソファーやクッションといった類のものは何一つ無い。 それらは自身によって部屋の隅へと追いやられていた。 「地べたに座って白乾兒かよ。どこぞのオヤジか。」 神田ははっと一笑し、半分空になった瓶を左手で持ち上げかざす。 「 良いの。自棄酒はこうやって飲むに限るの。まぁ、今夜は月が隠れてるのが難点だけど。」 神田と向かい合う形で座り、開け放たれている窓の外を見て話す。 「 独りで月見酒か?同情を誘ってんのか。」 持ち上げていた酒瓶をおろし、口角を上げながらと同じ様に窓の外へと視線を運ぶ。 「そんなもの、禁じとけ。」 苦く、笑っては答える。 其処には唯、黒とも白ともとれない空だけが永遠に続いているようで。 隙を作れば、飲み込まれてしまいそうな虚空に似ていて。 本音を云えば、独りで居るのは怖かったのかもしれない。 7分目まで注がれているタンブラーを手に取り、咽喉の奥へと一口流した。 ピリリと辛い飲み口は、心までをも燃やす感覚。 神田は何も云わず、唯空を見ているだけだ。 「 本当はね。」 不意に沈黙を破ったのは、だった。 「 神田に、『情ねぇ奴』って云われた時、痛いとこ突かれた!って思ったんだけど。 でもそれ以上に、そうやって客観視してくれる人が居てくれて、嬉しかったんだ。 ああ、この人は私と同じ事を、客観的に見て云ってくれるんだって。 痛めつけられたのも事実だけど、それ以上に、なんて云うか、救われた気がした。」 膝を抱え、悪戯にタンブラーを廻しながら、息を吐き出す様に言葉を吐き出す。 「 今もほら、こうして来てくれたじゃん? そのおかげかな。独りで飲んでた時よりももっと、落ち着いて、心が静かに満たされてる。」 いつからか、神田はを見ていた。 しかしは膝の上に頭を乗せ斜め下を見彷徨っているので視線がかち合うことは無かった。 「 こういう平穏を、私は欲していたのかな……。 判んない。 けど、ありがとう。 ありがとう、神田。」 くるくると、タンブラーを揺らす。 灯されているロウソクの光が乱反射して、の顔を明るく照らした。 「 泣きたきゃ泣けよ。此処はお前の部屋だ。」 静かに、を見据えたまま放たれた言葉は、小さな部屋に響いては消えてしまった。 けれど。 神田の言葉の真意を理解したのか、はゆっくりと顔を上げ、神田と視線を合わせる。 するりと涼しい風が一陣舞い込み、互いの髪を揺らした。 「 ――ふ、ありがとう。」 顔を緩め、優しげに微笑む。 「 良い奴ね、神田。そうやって優しさを判りづらくする処とか。好きだよ、そういう性格。良いね。」 揺らしていた手を止め、少し控えめな声量でそう云った。 その顔は、確かに嬉しそうである。 「 なら、俺に惚れろ。」 一段と真っ直ぐな声と眼で、神田は云った。 「 ……え?」 一瞬、何を云われたのか判らなかったは、微妙な間を空け疑問の言葉を漏らした。 しかし尚も神田の真っ直ぐな声と瞳と言葉は続く。 「 今すぐでなくて良い。また男が信じられるようになったら、俺に惚れろ。 俺はお前を――を泣かさねぇよ。」 高圧的な物言いではあるが、それは確かに神田からの告白だった。 否、宣戦布告とでも云えば良いか。 しかしながらそれは確かに、間違う事無く神田の言葉であった。 意図と意味を理解したは、今まで見せたどの笑顔よりも優しく、穏やかに、微笑んだ。 「 ――だね、ありがとう。」 風が互いの髪を揺らし、互いの顔を隠した。 が髪を掻き上げた時、眼の前に神田の躯が現れて。 次の瞬間。 額に小さな痛みが走った。 「 ――ッ!?」 条件反射か、痛みが走った箇所を手で覆う。 前を見ると、デコピンをした後のポーズをとったままの神田が、少し笑っていた。 「 じゃあな。酒もほどほどにしとけ。未成年が。」 それだけを云うと、神田は一人静かに部屋を出て行った。 静かに閉められたドアを見つめ、は微笑んでいた。 「 んー――……。」 四肢を伸ばし、そのままバタリと床に寝転がる。 大の字になったは、いつの間にか空に月が出ているのを見つけた。 「 良い奴ねぇ、本当に。」 月がおぼろげに輝いている空を見つめ、言葉を続ける。 「 フランスでは16で飲酒オッケーなのよ。……まぁ、これは、ダメだろうけど……。」 くすくすと、1人月を見て笑った。 |
大人の 称 号