プレゼントはサプライズ
「 平和よね。」
「 そうだな。」
「 静かよね。」
「 そうだな。」
木陰に御座を敷いた上にうつ伏せに寝そべるリーバーの背中に頭を預けて仰向けに寝転がる。
今日は久々に2人の休暇が重なっていた。
取り敢えず室内より屋外にと云うの意を汲み外へ出た2人だったが、もしもの事態に備え――と云うか唯単に街まで下りて行くのが面倒なだけだったのはここだけの話で――教団の敷地内に居た。
ジェリーに作ってもらったベーグルとサンドウィッチと、が淹れた紅茶――とコーラ――を持って、教団の窓からギリギリ見えるか見えないかといった所で、2人何をするでもなくゴロゴロと寝転んで久しぶりのゆっくりとした時間を噛み締めている。
ベーグルとサンドウィッチが入っているバスケットの上にはそれでも、の無線ゴーレムがちょこんと行儀良く置かれているが。
しかしそれは鳴る事は無く、リーバーとは温かな陽だまりの中で昼寝をする仔猫のように寝転がり、時々思い出したかのように言葉を交わしていた。
「 そういえば今日ってユウの誕生日なのよね。」
「 ああ、そうか。」
「 あとでお祝いしないとね。」
「 ……そうだな。」
「 なによその不服そうな物云いは。」
「 そんな事ねぇよ。」
苦笑混じりに云うはそのままの体勢でリーバーの髪を優しく撫でる。
その手を掴むリーバーは珍しくも不機嫌そうな声音で否定の言葉を返すが、遠慮する事無く子供じゃないんだからと笑うに核心をつかれ僅かに頬を染める。
そして少し押し黙った後に、子供じゃなくてもなと小さく口を開いた。
「 やっぱ気分良いモンじゃねぇって。」
「 どうして?誕生日はお目出度い日じゃない。それを祝っちゃ駄目な訳?」
「 そうじゃねぇよ。そうじゃねぇけど……。」
そこまで云って、口ごもる。
そんなリーバーの様子には髪を撫でるのを止めリーバーの手を払った。
「 ……。」
「 でもさ。
―――――私達が今こうしていられるのも、ユウのお陰なのよね。」
云いながら頭を上げ上体を起こすの頬もほんのりと薄紅色に染まっている。
いつか、リーバーが熱風邪をひきダウンしていた日の事を思い出していたのだ。神田に、背中を押されたあの日を。
けれどそんな事を知る由もないリーバーには不可解な言葉にしか映らず。どういう意味だよと云いながら自分も起き上がる。
「 ユウは、ね?私の、私達の恋のキューピッドなの。」
「 ……あの神田が?」
「 あの日私がリーバーの部屋に行ったのはユウに背中を押してもらったから。ユウが居なかったら、きっと行ってなかったと思う。」
そうか、とリーバーが口を開きかけた時、くるりと少し紅い顔をしたが振り返った。
「 だからね、リーバーもユウには感謝してくれなきゃ。」
紅い顔してそう力説する恋人のそんな姿を見てしまえば、やきもちだとか嫉ましく思えた気持ちも何処かへ吹き飛んでしまう。
「 そうだな。」
笑ってそう云い、リーバーはの髪をくしゃりと撫でた。
それを微笑んで受け入れるは、親猫に甘える仔猫のように素直だ。
「 でもまさか、リーバーがやきもちやいてくれるなんて。」
「 俺だって男だ。そう思うのが普通だろ。」
笑って云ってのけるの頭を軽く小突き、ボリボリと髪を掻くリーバーの頬は薄く色付いている。
「 嬉しいよ、そう思ってもらえて。」
こう、サラリと云えてしまうのはの強みだろうか。それでもその頬は紅い。
それを聞いたリーバーの頬が、色濃くなるのは自然の理で。
2人を包むのは、まったりとした甘い雰囲気。
ジリリリリリリン―――
そして、無常にも突然鳴り響く無線ゴーレムの無機質な音。
2人の顔色が急激に変わる。落胆の、それに。
『 やー、ラヴラヴなところ非常に申し訳無いんだけどくんにお仕事がね〜。』
軽い声が、2人に更なる落胆と疲れだけを与える。
顔を見合わせ深い溜め息を吐いた2人は、すぐに行くと告げ無線を切る。
そして広げた御座とバスケットを持ち、名残惜しそうに木陰を後にするのだった。
「 やっぱり街に行っとけば良かったかも。」
そんなの呟きは、リーバーの溜め息と共に青い空へと溶けてしまった。
ザラリと灰は風に運ばれて。
消し炭となった機械は音も無く空へと舞い上がる。
「 いつもながら鮮やかなお手並みね。」
長い髪を風に預け、リナリーは笑って手を叩く。
その視線の先には、夕陽をバックにプラチナブロンドの髪をはためかせ金色のパルチザンを片手に持つ、。
薄く開いていた瞳を一度鎖し、ゆっくりと再び開かせながらリナリーへと振り向き、にこりと笑みをそえる。
「 伊達に"雷の女王"の名を貰ってる訳じゃないって?」
「 そういうつもりじゃ……!」
慌てるリナリーにジョークよとウィンクを飛ばしはリナリーの元へと歩く。
そう。
は教団内で"雷の女王"という二つ名を頂戴していた。
それは存分に彼女の意向とは無関係に、彼女の闘いを見てきた他のエクソシストやファインダー達がいつからかそう呼び出していたのだった。しかしこの二つ名の決定打となったのは、リナリー以外でまともに、何の躊躇いも無くコムイを叱れる――云わば雷を落とせるからだとの噂も、ある。
「 でもリナリーが此処に追い込んでくれたからこれだけ早く終わったのよ。私一人じゃとても無理。」
「 そんな。」
「 まるで追い込みをかける追い込み漁師のようだったわ。」
「 !」
照れるリナリーの肩にぽんと手を置き、真面目な事を云ったかと思えばすぐに茶化してみたり、怒るリナリーも笑ってかわすのみで。
今日のはなかなかに機嫌が良いようだ。
折角のリーバーとの休暇を返上させられての任務だったと云うのに。
コムイに無線で呼び出されたのが4日前の6日。
アクマが異常に出没するとの報告を受けたコムイが差し向けたのは休暇を楽しんでいたで。何の悪びれも無く一週間の任務になるからと笑顔で告げるコムイに若干腹を立てたがパートナーを所望したところ快諾されたので、他にも数名エクソシストが待機する中リナリーを選び連れ出してきたのはなりの報復で。
泣いて謝り懇願するコムイを蹴飛ばし任務の準備をしようと部屋を出た時に丁度神田と出くわしたので、誕生日の祝辞を忘れる事無く伝え。
泣き喚きリナリーを引き留めるコムイに文字通り雷を落とし任務先の村に着いたのが2日前の8日。
ファインダーからの報告を元にリナリーと共にアクマの潜伏先を見つけ殲滅させたのがつい先程、10日の夕刻過ぎ。
コムイの予測ではアクマの殲滅に少なくとももう1日かかる筈だったが、リナリーと――殆ど――の戦闘能力やその他諸々の力の高さのお陰で時間短縮出来ていた。
今回はアクマの殲滅が任務だったので、後は帰るのみである。
「 この分だと、13日には余裕で間に合うわね。」
そう云いながら宿へと歩くリナリーはとても嬉しそうに笑う。
隣を歩くは対照的に、心底残念だと顔が謳っている。
「 コムイの予定では14日か、早くても13日の深夜だったのにねぇ。残念だ、残念でならないわ。」
「 の能力の高さが、にとっては裏目に出てしまったわね。」
「 まったくだわ。こんな事ならもっと遊んでおけば良かったわ。」
盛大に溜め息を吐くは、嬉しそうに笑うリナリーを愛しげに見つめる。
13日はリナリーの兄、コムイの誕生日である。
故にコムイはこの任務にリナリーが赴くのを必死に止めていたのだ。
けれどそんな事をが許す筈も無く。
寧ろ日頃のお返しだと云わんばかりの微笑みを湛え、女同士の方が何かと都合が良いのよ何か文句でもあんのかこのやろうと冷たい鉄の塊――彼女の愛機の銃――をコムイの米神に押し付けて承諾させていた。
自分一人だけ甘い夢を見ようだなんて甘い考えなのよと低く凄みながら。
しかしそんなの考えも、己の能力の高さが仇となり崩れ去ってしまったのだ。
例え今直ぐ此処を出発せず一泊してから出発したとしても、13日の昼頃には教団に着いてしまう。かと云って用も無いのに二泊も三泊もすれば費用が無駄になるし何よりリナリーが認めないだろう。
なんだかんだ云ってもコムイはリナリーにとって大切なかけがえの無いたった一人の兄なのだから。
兄の誕生日を祝う事を無碍に奪う権利を、は持ちあわせていないのだから。
それに、大切な人の誕生日を隣で祝いたい、祝って欲しいと願う気持ちを、も知っているから。
だから例えそれが自分の休暇を楽しんで奪い取るような相手でも、苦虫を噛み潰してでも我慢しなくてはならないのだ。
「 今日ほど自分の詰の甘さを呪った事は無いわ。」
「 そんな事云わないでよ。」
団服( を放り投げ宿のベッドに仰向けに寝転がりながらぼやくに、リナリーは眉根を寄せる。
「 それじゃ私、兄さんに報告してくるわね。」
「 あー、なんだったらもう少し―――明日もアクマが出ないかしらぁ。」
「 不謹慎よ。」
「 じゃあイノセンス。」
「 ……報告してくるから。」
ゴーレムを引き連れて、リナリーは静かにドアを閉めて出て行った。
うだうだと悪戯に寝返りを打つは、もう暫くすれば上がるであろうコムイの歓喜の声を想像しては枕に顔を埋める。
暫くしてから顔を上げたは、ああそうだ私もリーバーに電話しようと思い立ち、ゴーレムと自身のイノセンスを手にドアへと足を進めた。
「 あら、?」
小1時間してからコムイへの報告が終わったのかリナリーがゴーレムと共にドアを開けると其処にはガランと拡がった部屋だけが残されていた。
「 ……リーバー班長に電話しに行ったのかしら?入れ違っちゃったのね。」
軽い溜め息を吐いて椅子を引いて座り、リナリーは一息つくためにお茶を淹れる。
暫くすればも戻ってくるだろうと思い、2人分の用意をして。
「 兄さんへのプレゼント、どうしようかな。」
お茶を飲みながら何気なく部屋を見渡したリナリーが不意に僅かな違和感を覚えたのは次の瞬間で。
「 ……どうして?」
胸騒ぎがして、慌てて立ち上がったリナリーはベッドの上や下、周りを隈なく探す。其処にある筈の、置かれてある筈のものを。
けれどそれは見つからず。
「 ――――ない。の団服が、無い……!」
リナリーの中で違和感が不安へと変わる。
「 遅い。」
ムスッとした顔のコムイが、科学班室の机に突っ伏している。
その手にはペンもハンコも握られておらず、駄々をこねる子供のように先程からずっと仕事を拒んでいた。
「 それはもう何度も聞きましたから。好い加減仕事して下さいよ。」
ペンをガリガリと滑らせながら声を上げるのはリーバーで。
「 だって予定ではもうとっくに着いてる頃なんだよ?着いてケーキのひとつでも焼きあがってる頃なんだよ!?
なのにボクの愛しいリナリーはケーキを持ってきてくれる事はおろか、その可愛い姿を―――」
「 室長、ハンコくださーい。」
時計を両手でガシリと掴みながら泣き叫ぶコムイには、仕事をしろとの冷たい声だけが寄越される。
しかしコムイはそれを無視し、もう17時なのにボクの可愛いリナリーが戻ってきてくれなーいと叫ぶばかりだ。
それでも班員達は仕事して下さいと冷たくあしらうだけで、誰も同情はしていない。
「 今日はボクの誕生日なのに。今日はボクの誕生日なのに。なのにリナリーが未だ帰って来ないってどういう事なのリーバーくん!!」
「 俺にそんな事云われても知りませんよ。それに予定では帰ってくるのって明日じゃないんですか?」
机から顔を上げる事も無く、リーバーは一本調子でコムイに返す。
と、コムイは僅かに声を明るくしてフフンと笑った。
「 10日の夜に、リナリーから任務が終わったから13日の朝には帰れるって電話があったんですー。
あれあれ、リーバーくんには愛しのくんからのラヴコールはなかったのー?」
「 ……ありませんでしたよ。」
「 ええー、ウソー信じられなーい!ボクのリナリーは電話してきてくれたのにぃ、愛が足りないんじゃないの〜?」
ピシャーン
コムイが楽しそうにそう云い終わった後、遠くで一本の雷が落ちた。
能く見てみれば外は随分に暗い。夕刻だからというのではなく、厚い雨雲がいつからか空を覆っていたのだった。
「 室長、如何でも良いから仕事して下さい。」
片眉をピクリと動かしながらも、リーバーは書類から目を離さずペンを滑らす。
外はどんどんと、雨雲が厚く拡くその顔を現している。
「 もしかして。
リナリーが帰ってこないのはくんの陰謀じゃ……!?何かにつけてボクを目の敵にするくんの考えそうな事だよ!!」
うわあ大変だ、くんがボクの可愛いリナリーを無理矢理縛り付けて動けないようにしてるんだ。鬼だ、悪魔だ、リナリーと違って性格悪すぎだあ!!
そう云って騒ぎ立てるコムイを見つめる目はどれも冷ややかで、そんな事云うから怒られるんだろうと皆の腹の中は同じである。
でもその考えも無きにしも非ずかな、なんて一瞬考えたリーバーは頭を振って仕事に戻る。
ゴロゴロと鳴る外は、いつの間にか雨が降り出していた。
それは次第に雷を伴うものとなり、教団の窓ガラスには雨粒が幾つも着き金色の光が幾筋も走っては消えていった。
「 凄い雨っすね。」
「 リナリー、大丈夫かな。」
科学班の今日一日の仕事が一段落つき片付いた頃。
外はすっかり強い雷雨が支配していた。
班員達はそれぞれ、自分の仕事が片付いた者から退室していき残っているのはコムイとリーバーだけだった。
2人共に仕事は片付いていたけれど、帰りを今か今かと待ち焦がれている人が居るので、なんとなく科学班室に残っていたのだ。
コーヒーとコーラを片手に、激しく走り落ちる雷と雨粒をガラス越しに眺めながら。
「 予期せぬ事態に陥ったんすかね。」
「 かもね。
……くんが一緒だから大丈夫だとは思うんだけど―――やっぱり女の子2人で行かせるべきじゃなかったかな。」
「 ―――心配し過ぎっすよ。」
並んで机に腰掛けながら、2人を包むのは重苦しいもの。
けれど、なんだかんだ云いながらもコムイのに対する信頼は強いようだ。
帰還予定時刻はとっくに過ぎている。
はじめは冗談ぽくくんがリナリーをと云っていたコムイもその姿を消し、2人の事を心底心配している。ただ一秒でも早く、無事な姿を見せて欲しいと、それだけを願っている。
どれ程時が経ったのか。
時計の針は23時を指そうとしている。
雨は尚もその勢いを増し、雷も咆哮を止めない。
「 リナリー……。」
「 大丈夫ですって、も一緒ですし。」
「 ……うん。」
コムイが目を伏せた時、不意に小さな音が上がった。
けれどそれは流れ落ちる雨と雷の咆哮にかき消され、2人へとは届かない。
――――ん。 ―――ぃさん。
小さく、誰かを呼ぶ声が。
「 ……リナリー?」
――兄さん。
そう、リナリーが自分を呼んだ気がした。
机に腰掛け惚と窓の外を眺めていたコムイは、持っていたマグカップを下ろし窓へと歩く。
確かに、確かにリナリーの声が聞こえたんだと。
「 室長?」
「 ――今、リナリーの声が……。」
「 兄さん。」
コムイがカーテンと窓をからりと開けると、雨の音と雷の音と風の音と共に飛び込んできたのはリナリーの消え入りそうな声で。
「 リナリー!?」
リナリーは、窓の縁にしがみ付いてガラスを力なく叩いていた。
兄の姿を見て触れて安心したのか、にこりと微笑むと足に力を入れ、発動しているダークブーツの力を借りてコムイが開けた窓から部屋の中へとその雨にずぶ濡れ凍えた身体を滑り込ませた。
「 リーバーくん毛布!それにタオルも!」
「 はいっ!」
凍えるリナリーを抱きしめ窓を閉めたコムイはリーバーに素早く指示を出し自身が着ている白衣の団服をリナリーへと掛ける。
それに応えるリーバーも、泡と書かれた紙コップを勢い良く机に置き部屋を飛び出す。
談話室へとコムイに支えられながら移動するリナリーは僅かに震えているも、意識も足取りもしっかりしていた。
「 驚かせちゃってごめんなさい。」
一息ついてから、暖炉の前で兄と毛布に包まれたリナリーは僅かに濡れた髪を掻き揚げ所在無さ気に謝った。
「 びっくりしたぜ。」
「 本当だよー、一体何事かと思ったじゃないか。」
「 ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったの。
でも、科学班室に灯りが点いているのが見えて、もしかしたら兄さんが居るんじゃないかって、思って。」
こくりとホットチョコレートを飲みながら、リナリーは2人の顔を見る。
何も無くて良かったと胸を撫で下ろすリーバーと、本当に何処も怪我はしていないかいと訊ねるコムイ。
それに笑顔で、ええ大丈夫よありがとうと返す。
「 リナリーも無茶するよな。ダークブーツを発動させて直接科学班室に乗り込むなんてよ。」
「 まったくだよ!明るい昼間ならいざ知らず、こんな夜遅く……しかも雨の中。風邪でもひいたらどうするんだい!?」
「 ごめんなさい。……でも、兄さんに少しでも早く逢いたくて。どうしても今日中に逢いたかったから。
遅くなったけど、その、誕生日おめでとう、兄さん。」
ふわりと微笑んでリナリーが云うものだから、心配していたのも怒っていたのも、コムイの中から消し飛んでしまった。
雷雨に打たれてもそれでも自分の為に文字通り飛んで帰って来てくれた妹に、コムイは胸が熱くなるのを覚えた。
「 ありがとうリナリー。
でも、もう無茶はしないと誓って欲しい。」
「 ええ、判ってるわ。
でも、本当の事を云えば私もここまでするつもりは無かったの。
けどがどうしてもって云って……私のダークブーツなら間に合うだろうから行ってあげなさいってそう云ってくれたから。」
だから、ここまで頑張れたのかもと笑って云って、残りのホットチョコレートを飲んだ。
そう云えば……と顔を見合わせたのはコムイとリーバーで。
『 よーすコムイ、リナリーはちゃんと間に合ったかー?』
と、暢気な声が電話越しに寄越されたのは日付が変わる少し前。
「 おかげさまで。」
苦笑をもらし対応するのは、からのご指名でコムイだ。
『 それは良かったわ。ああ、一応私からも誕生日おめでとう。と云ってももうすぐ日付変わっちゃうけれどね。』
「 ありがとう、くん。」
『 因みに私からのプレゼントはリナリーよ。』
「 確かに受け取ったよ。ありがとう。でもあまり無茶させないでよ〜。」
『 ごめんごめん。でもリナリーだったら大丈夫だって信じてたから。』
きゃらきゃらとそう笑うの声は、悪戯が成功した時の子供のように無邪気で、明るい。
「 でも―――ありがとう、本当に。最高のプレゼントだよ。」
目を伏せて云うコムイの声は、喜びに満ち溢れている。
結局、なんだかんだ云ってみても2人は互いに互いを認め合っている。例えそれを言葉や態度に示さなくても。
バカの出来る戦友なんだと、軽い言葉を交わし合いながら今一時、共に喜びを分かち合う。