男心と秋の空



「…………」
「…………」


 その沈黙の見詰め合いは何秒の事だったか。
 実を言えば忘れていた。
 疲弊とか、事後処理とか、面倒臭せぇものが待ってるとしか考えてなかった。
 だから帰ってきて、ばったりと会ってから色々と思い出した。
 その瞬間。

 ダッ。

 が逃げた。

「あァ!?」

 思わず駆け出した。

「何で逃げんだ!」

 やってしまった事に舌打ちしながらを追いかける。
 互いに全力疾走ながら、呆然と立つ奴らを器用に擦り抜けていった。

「な、何で追っかけるのよ!!」

 怯えたような声に苛立ちを覚えて更にスピードを上げる。
 だが向こうもそれに気付いて、間が縮まらない。
 くそ、伊達にスピードを自慢してないってか。
 体力、攻撃力なら負ける事はないが、スピードに関してはの方が一枚上手だ。

「逃げるから追うんだろうが! 逃げんな!」

 叫ぶが、返答もなく止まる事のない背中。
 届かない距離が更に苛立たせる。
 ふと思い出したのは、の泣き顔。
 空を見て、涙を堪えてた小さい背中。
 赤く潤んでた目。
 今もそんな目で、顔をしてたらと思うと、何かが許せなかった。
 か?自分か?

 …何で俺が。

「待て、チビ!」

 嫌がるのを重々承知でそのあだ名を呼んでやる。
 前を行く肩がピクリと動くのが分かった。
 だが、無視を決めて走り抜けていく。
 その知った反応が、無意識に嘲笑させた。

「待てっつてんだろ、チビ!」

 また一つ肩が反応する。無視したままで。
 訳の分からない泣き顔より、こっちの方がよほど安心する。

 安心?何が。

「チビ!! 無視すんな!」

 走り抜ける中で時折、誰かから「廊下は走らない」とか言われてる気がするが、そんな事気にしてる場合でもない。
 気を抜けば一瞬で突き放される。
 誰がそんな事を許すか。
 相変わらず間が縮まらない事にも苛立つ。
 本気で逃げてやがる。
 また一つ舌打ちをした。
 人が折角気に掛けてると言うのに。

 あ?

 誰が誰を気に掛けてると?

「好い加減、止まれ…!!!」

 まさか、に俺が心配してるとでも?
 苛立ちが頭を燻る。
 何で俺が。
 何でに。
 訳の分からない感情が苛立たせる。

「止まれっつてんだろ!! チビ助!!!!!」

 思い切り叫ぶと、今まで以上に肩が震えた。
 グルリとの顔がこちらを向く。
 その顔は泣いてない。それに何故かホッとした。

「チビって言うな!」

 叫ぶ
 その足は止まっている。

「ばっ、行き成り止まんな…!」

 全力疾走直後に行き成り止まるバカが居るか。
 目の前に居たわけだが。
 慌てて急ブレーキを掛けた。
 が、一気に間が縮まる。

 ゴヅンッ。

「〜〜っ」
「〜〜!!!!」

 普通なら身長差で有り得ないのだが、がこっちに向かって背伸びしたらしい。
 恐ろしく馬鹿だ。
 に驚いて頭を幾分下げるんじゃなかった。
 普通なら正面衝突とか予想できるだろうが。
 お互いにぶつかるとか想像できるだろうが。
 頭をぶつけるとか。

「この、石頭が…!!!!」

 互いにうずくまる姿は間抜けとしか言い様がない。
 思い切り睨み上げると、の顔も勢い良く上がった。
 至近距離で。

「バカン…ん!?」

 何が言いたかったのかムカつくが分かった。
 だが、言えない状況も分かった。
 俺も言えない状況だからだ。







「お二人さん、向かい合ってしゃがみ込んで何してるんさ?」

 ラビの何気ない一言に揃って叫んだ。

「「五月蝿い!!!!」」

 叫ばれたラビは頭にやたらと疑問符を浮かべながら退散した。

 不覚だ。

 不覚すぎる。

「……神田」

 暫くの沈黙後、が立ち上がって背を向けた。

「……何だ」

 俺も立ち上がってを睨み付けた。

 チラリと低い視線がこちらを向く。

「これでこの前の、チャラ、だよね?」

 言って、廊下を歩き出した。
 今度は追えなかった。


 その頬が赤くなってた事に時が止まってた。
 その顔に悲しみも怒りも無くて安堵してた。
 その安堵って何だと自分に問い返してた。





 この鼓動の速さは走り疲れてのものだと思いたい。

 つーか、思わせろ。






END


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エロくならなくて御免なさい。
























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例のREAL DREAMのあずまうしおさんから亦亦頂戴しましたv
しかも前回の続編ですよ奥さん!!
如何いった経緯で戴いたのか最早ラバトリーの水に以下略
今回はアイツという文字を無理矢理変換する事をお勧めされたのでしてみました
皆様にもこの喜びを分かち合っていただきたいのです!!つまり私のエゴイッズムv
チビだとかチビ助だとか神田さんが叫んでいるのは、私がそう呼ばれたいといつかのバトンで云っていたからだそうです
あうさん、ありがとうございました!!