わたしの敵は






わたしの中には、もう一人の私が居る。


わたしはエクソシストで、神田君と同じフロワ・ティエドール元帥の弟子。
そんなわたしは、神田君に淡い恋心を抱いていたりする。強く、厳しく、美しい神田君に。
冷血漢とか冷徹漢とか人間の血が通ってないだとか、周りではそんな心無い事を云ったりする人達も居るけど、わたしはそんな事思わない。
神田君は、深い強さと深い優しさを持ち合わせている人だと思ってる。
そんな神田君が、わたしは好き……だ。

「 あ、神田君……。」
科学班室から修理してもらった団服を受け取りに行った帰り、偶々神田君を見かけた。
ラッキーだ。
マリさんとこれから修錬するのか、な。
わ、わ、あ。目が、合っちゃった。
「 ……。」
心臓が、五月蝿いくらいバクバク謳ってる。
唯神田君を遠くから見かけて少し目が合っただけなのに。話してなんか、無いのに。
神田君と、話す事なんて、わたしは殆ど無い。
偶に任務が一緒になった時に、任務の話をするだけ。教団に帰って来たら、教団に居る時は、先ず話す事なんて無い。
悲しいけど、悲しいんだけど、わたしは例え話すチャンスがあったとしても話せないと思う。
神田君を前にすると、とてつもなく緊張しちゃうんだよね。
顔なんてとてもじゃないけど見られないし、眼なんてもっての他。力強く優しい眼も好きなのに、恥ずかしくて直視出来ない。
だけど。


「 おい。」
「 わっ、あ、な、なに?」
「 任務だ。司令室に来い。」
「 うん……。」
だけど、話せるととても嬉しい。
ぎこちなくて、自分でも何云ってんだって思って後でへこんだりもするけど、それでも嬉しい。
一緒の任務の時は、不謹慎ながらもワクワクしてる。



「 神田君危ないっっ!!」
「 ―――っ!?」
それでもわたしは、神田君と話す事なんて、殆ど無いんだけどね。

「 ……。」
「 起きたか、。」
「 ――アクマは。」
「 なんだ、零かよ。アクマなら粗方片付けた。が、未だレベル2が数体居るようだ。」
「 ならば直ぐに片そう。」
「 おい!?身体は―――」
「 大事無い。貴様が助けたのであろう?」
「 ……別に、目の前で死体が増えるのが面白くなかっただけだ。」

私にとって大切な事は、何よりも大切な事はの平穏。唯それだけだ。
千年伯爵やアクマ、エクソシストだの黒の教団だのは如何でも良い。
だが黒の教団の話を聞くに、千年伯爵とアクマが居る限りエクソシストであるに平穏は無いのだとか。世界を救うだのそんな事は正直副産物に過ぎない。私にとって何よりも大切な事は、の平穏唯それだけなのだから。
それさえあれば、他には何も望む事は無い。
の望むモノ―――――私の存在意義は、それ、だ。

「 ―――これで仕舞い、か。」
「 ああ。イノセンスも回収したしな。」
「 ならば帰るぞ。」
「 ……ああ。」
イノセンスの発動を解き、帰り支度を始める。は未だ寝ているようだから、私、が。
「 なんだ。」
今回ペアを組んでいたらしい神田が、何か云いたげにこちらを睨み付けている。
よもや仕事の出来に文句が有る訳ではなかろうな。
「 別に。唯、何故一人の人間が二つのイノセンスの適合者なのか、お前等を見る度不思議に思うだけだ。」
「 私の知る範疇では無い。神とやらにでも聞けば良かろう。」
「 ……そうだな。」
そう云った神田は、の持って来ていた荷物を持った。

は、神田に好意を持っている。私にも黙ってはいるが、見ていれば直ぐに判る。神田を前にすると、途端に口数が減少するのが良い例だ。
こんな男の何処が良いのか。不可思議で仕方が無い。
そう思いながらのイノセンス、斬馬刀を左手に持つ。
不思議な事に、は装備型だが私は寄生型だ。
私のイノセンスはの血液から創り出されるモノだ。が、つまり私達はそれぞれ一つずつしか発動出来ないのだ。如何いう仕組みになっているのかは判らないが、気付いた頃にはもう既にそうなっていた。コムイにも仕組みは判らないそうだが、今のところ特に不具合も無いので如何でも良い。
そんな事よりも、私はの方が心配だ。
今回も神田なんぞを助け自分が怪我を負い―――幾ら軽傷だとは云え、許せん。神田の一人や二人傷ついたところで誰も損などしないだろう。だのに、何故は自らを犠牲にしてまで庇うのか。全くもって許せん。それに未だ神田からの謝礼を聞いていない。
本当にはあやつのどこぞに惚れたのか。まるで釣り合いが取れておらぬと云うに。

「 おい、零。汽車が来るから急げ。」
「 判っておる。」

私は認めぬからな。
そんな荷物を持った位で、貴様のお株が上がると思うてくれるな。