みんなでお茶を






「 あ、ー!」
報告書を提出した後、科学班室の前でリナリーとに呼び止められた。
「 何?」
振り返って2人にそう聞くと、一度顔を見合わせてから私へにこりと満面の笑みを向けられる。
「 今ね、任務から帰ってきたとろこなの。これから2人でお茶しようと思ってたんだけど、も一緒にどう?」
なんて、リナリーに微笑まれて断れる人が居ますか?いいえ、居ません。
「 ん、良いよ、ありがとう。私も今帰ってきたところ。丁度、飲みたいなぁって思ってたから。」
つられて、私も笑って答えた。
きっと、これがリナリーの力の一つだろうと思う。癒し。
「 それじゃ、調理場行って準備だね。」
私とリナリーの袖を引っ張って、明るい声でがそう云った。

調理場への道中他愛のない話をしていると、ミランダさんと会ったのでリナリーが彼女も誘った。
喜んで参加すると云う彼女の顔も、どこと無くぎこちないけれどやはり笑顔だった。


と私は同郷という事で、かなり親しい。
仲も良いというか、悪友になりつつある。良い意味でね。
彼女は探索部隊 ファインダーで私はエクソシストと立場は少し違うけど。因みに部屋も近い。

今回はリナリーと一緒の任務だったそうだ。
ミランダさんは修錬帰りで、私はマリさんとの任務だった。



「 あ、あの!ほほ本当に私なんかが参加してもよっよよよ良かったのかしら……?」
教団の中庭に出て準備をしていると、唐突にミランダさんがこう云った。
どうして?とにっこりと微笑みリナリーが訊ねる。
「 だって、私……。私、リナリーちゃんとは面識があるけれど、あの、その……。」
と、私との顔をチラッと見て口ごもってしまった。

まぁ、確かに。
私がミランダさんの立場なら、やっぱりそう思っただろう。
私ととは何度かすれ違った事がある程度。
新入団員(特にエクソシスト)の名前は知られるけど。

けど。
「 そんな事関係ないよ、これからどんどん知り合っていけば良いんだから!今日が良い機会!
 私は って呼び捨てで良いよ。」
と、元気いっぱいに、が云う。
全く以って、その通り。
不思議な因果でこうして奇特なココに集まったのだから、何の遠慮も要らないじゃない。
「 私は 。私もで良いわ。」
すっと、ティーカップをミランダさんへと差し出した。
少し、どうしようかと迷っていたみたいだけど、小さくはにかみながら受け取ってくれた。
「 あ……あり、ありがとう。
 私はミランダ ロットー。私も……ミランダって、呼んでね。」
そう、恥ずかしそうに云った彼女の顔は、年上だけれども少女の様に可愛かった。




「 ミランダってさ、緑化係みたいだよね。」
お茶会がまったり進む中、ふと私の口をついて出たこの言葉。
何気ないこの言葉から、このお茶会は異様な盛り上がりを見せる事になる。なんて事、この時は未だ微塵も思ってもみなかった。

「 え?」
云われたミランダのみならず、リナリーもも頭の上にクエスチョンマークを飛ばしている。
まぁ、唐突に云ったから、仕方ないけどもさ。
「 いやー、なんかそんな気がして。いつも一所懸命で、周りに気遣って。
 そんな姿見てると、花を添える、育てる緑化係みたいだなーって。」
思って。
「 うーん……そう云われてみれば、そうかも。」
と、リナリーがミランダを凝視して軽く頷く。
「 云いえて妙!だね。或いは、美化係とか。」
「 あー、確かに。云えてるね。」
の言葉に、私は頷いた。
「 そ、そうかしら?」
云われたミランダは、能く判らないといった表情で少し照れている。
「 うん。
 ちょっと目立たない係だけど、その人が居てくれると生活にハリや潤いがもたらされるの。
 云い換えれば……日常の中のふとした癒し、かな。」
にこっと微笑んで、リナリーがそうミランダに云う。
「 そっ、そんな事……。」
ますます照れてしまったのか、ミランダは俯いてしまった。
「 でも、ありがとう。」
少し顔を上げ、微笑んでそう云った。

そんなミランダの顔を見て、あー、やっぱり緑化係だな、なんて思った。

「 じゃあさ、そう云う自身はどうなの?」
と、が私の袖をつついて云ってきた。
「 私?うーん、私はぁ……。」
お茶を飲みながら考える。
んー、なんだろな。
は、副室長よ。」
きっぱりと力強く云ったのは、リナリーだった。
びっくり。
「 入団して長いせいか、全体を見渡す力が長けてるわ。それに、指示を出してまとめるのも。
 フォローもそつなくしてくれるし、頼りにもなる。けど、決してそれを見せびらかしたり誇示したりはしない。」
と。
「 副室長……?」
そう云われても、私、そうなのかな?判んないや。
「 どうして副、なの?」
がリナリーに聞いた。
まぁそりゃそうよね。
「 それはー……ふふ。は室長なんてガラじゃないわ。例え、その実力があっても・ね。
 奥ゆかしく、No.2に留まるのよ。」
なんて、意味深に微笑みながら云われてしまった。
ああ、成程とは納得している。
そうなんだと、ミランダは興味深そうに聞き入ってる。
私はその言葉の裏の意味を深読みしすぎたんだろうか。陰から全体を操っている真の……と、聞こえた。あの笑顔と言葉に込められた力からそう感じ取れたんだけど、気のせいかな。気のせいにしといた方が良いのかな。

「 リナリーは保健係だよね。」
次の話へと、すり替えるように云ってみた。
「 あ、判る〜。」
「 ……そうね。」
と、もミランダも同意してくれた。
「 えー、どうして?」
リナリーは珍しく照れている。
「 存在そのものがだよ。自分の事より他人の事ばっかり心配してるし。
 なにより、リナリーの笑顔には、癒しの力がある。」
そう、ずっと思っていた事を云ってみた。
とミランダは、やはりそうだと同意してくれる。
リナリーは、そんな事ないよと笑った。
まぁ、偶に黒い笑顔も垣間見えちゃったりなんかしちゃったりもしてるけどね。

「 うーん……こう考えていくと、結構面白いね。他の人達の事も当てはめてみよっか。」
が、至極楽しそうに声を弾ませて云った。
そうねと、2人も賛成したし、まぁ、面白そうだから良いか。


「 えっと、じゃあ、先ず……あ、ブックマンは?」
と、
暫く沈黙が続いた。
うーん、例え辛い。
「 無難なところで校長先生かしら……。」
うん、それ以外思い浮かばないよね、リナリー。
或いは図書係って、それはあまりにもそのまんまだし。

「 じゃあ、ラビは?」
ラビ……?アイツはー……。
「 体育係。やたら体力有り余ってんじゃん。」
、それはちょっと云い過ぎよ……。でも、うん。似合うよね、ラビなら。」
決して図書係とかそんな事は云ってあげない。図書館司書が似合いそうだなんて口が裂けても云ってあげない。

「 じゃあ、アレン君は?」
ウォーカー君かぁ。彼はやっぱり――
「 アレン君は、生き物係、かな。ほら、命を誰より大切にしてるし、誰にでも優しいから……。」
「 確かにそうね。ミランダ、能く見てるのね。」
「そそ、そんな事……。」
あー、私もそう思った。
ミランダ、結構人を見てるんだなぁ。

「 じゃあ次。神田は?」
きた。
そりゃもう、神田ときたらこれしかないでしょう。
「 風紀委員。……あ、係じゃなくて委員とか云っちゃった。」
……神田が風紀係?どうして亦。」
うん、リナリーの云いたい事も能く判るよ。けどね。
「 なにげに、常にピシッと団服着こなしてるし、時間にも正確。何よりあの物の云い方。風紀委員に他ならない。」
自分にも厳しい人だしさ。
「 うーん、なるほど。」
「 ちょっと、恐そうな感じの人なのね……。」
うん、まぁ、慣れるまではね。
でも慣れるとからかい甲斐のある面白いヤツよね。

「 じゃあ次、マリさんは?」
「 マリさんは、室長じゃない?」
「 うん、そうね。そんな感じよね。」
云った後で気付いたけど、私って副室長なんだよね。

「 じゃあ、デイシャ。」
デイシャ。うーん、難しいなぁ。
「 デイシャねぇ……。」
「 デイシャは……文化係?文化祭とかやたらはりきりそう。」
「あー。」
納得したな、リナリー。

「 じゃあ次。コムイ室長は?」
コムイ。きた。別の意味できた。
「 兄さん?兄さんはー……。」
「 コムイさんは、ちょっと変わった担任の先生……かしら。」
ナイス!ミランダナイス!!
でも私はあんな担任勘弁願いたいね。

「 じゃあ、リーバー班長は?」
「 リーバー班長は、科学係じゃない。そのまんまだけど。それか、担任に振り回される副担任。」
……的確に云い過ぎよ。」
上司に苦労させられて胃痛に悩む若き獅子。……やっぱり科学係の方が良いのかな。

「 じゃあ、ジェリーさんは?」
ジェリーちゃん?んー……
「 社会係……とか。」
「 え?どうして?」
「 んー、ほら、諸国を渡り歩いてたって云うから。」
「 あ、なるほどね。」

「 じゃあー……クロス元帥は?」
「 あの人は糸の切れた凧でしょ。」
……。いえ、なんでもないわ。」


「 じゃあさ、じゃあさ、最後に私は?」
と、
はー……。」
あ、リナリーが苦笑してる。
判る、判るよリナリー。そんな質問困るよね。大丈夫、汚れ役は私が買って出るから。
はアレだ。笑い係。」
「 ちょっとー!なによそれ!係じゃないじゃんそんなのっ!!」
五月蝿いなー、もう。
そんな間髪入れずに反応しなくても。
「 じゃあお祭り係。」
「 ちょっと!!!」
あ、ミランダも笑ってる。良かった。
「 ほらー、リナリーもミランダも笑って肯定してるじゃん。」
「 2人共!酷いよ!!」
「 いや、そんなつもりじゃ……!」
あ、ミランダも苦笑してる。
「 ミランダ、大丈夫。この人は誰もが認める祭り係だから。」
そっと、ミランダの肩に手を添えて微笑みながら云う。
「 そうよ、ミランダ。、あなた本当に凄いわね。」
にっこりと微笑みながらリナリーにそう云われた。

「 ふふ、まぁなにせ副室長ですからね。」