失ってから初めて気付くのは、大抵が大切なものだと聞いていたけど、本当にそうだと今日初めて感じた。
まるで旅行に出ている感覚だったのに、ふとした拍子に現実を突き付けられ、恐怖に涙を流す。
師匠は旅行に出ているのでは無くて仕事をしているのだと。もう二度と逢えなくなる可能性を存分に孕んでいるのだと。

理解して、突然悲しくなって涙があふれた。

このままずっと一緒に居るものだとばかり思っていたから。
このままずっと変わりなく、隣に居るのだと信じて疑いもしなかったから。
だから今の今まで、仕事で離れてもただ旅行に出ている感覚だった。
いつか必ず戻ってくるのだと、必ず帰ってくるのだと。

でも違うのだと、旅行ではなく仕事なのだと、氷解するように理解した。
もう二度と逢えなくなるかもしれない不安に、胸が押しつぶされそうになる。
解っていた筈なのに、私は理解していなかった。
何でもない日常などこの世には無く、総てが何物にも代え難い尊い刹那的なものなのだと。


「 師匠!」
「 なんだ、馬鹿弟子。」

もう二度と逢えないと思うと、悲しみの涙があふれてきて視界が歪む。

「 私を、置いて行かないで下さい……。」

胸が締め付けられて、上手に呼吸が出来なくなる。

「 側に……側に置いて下さい!」

この仕合わせを、崩したくない。最大限に噛みしめていたい!

「 ……危ねえだろが。」
「 師匠の足手纏いにはなりません!邪魔ならその場で殺して下さい!!」

離れ離れになるくらいなら、二度と逢えないかもと不安になるくらいなら、端から期待をさせなければ良いのよ。
そんなもの、摘んでしまえば良いのよ。

「 …………馬鹿が。」
「 っ師匠!」

何気ない日常なんてこの世には存在しない。毎日が特別で、幸運の上に成り立っているの。
私はそれを、今日初めて理解した。

「 オレの気持ちはどうなンだよ。」

普通なんてこの世には存在しない。
総てが特別で、キラキラと煌めく宝石を敷き詰めた魔法の絨毯のようなもの。

「 し、しょ……?」

ううん、それ以上に価値があって、手放せない大切なもの。
命在る限り最大限に満喫して、最大限に後悔して、最大限にその仕合わせを噛みしめるもの。

「 お前が死んだら誰がオレに酌をするんだ。」

日々、その煌めきは加速するの。

「 そこまで言うならオレの側を離れんじゃねぇぞ。」