恋の媚薬
あれ?おかしくねーかい? 俺、確かに入れたさね。それをに渡した……筈だろ? なのに、なのに。 なして効果が見えてこねーのさ!? 「 ……ラビ?どうかした?」 「 ぅえっ!?いやっ!!全然、なんでもないっっさ、ああ。」 うう、駄目さ駄目さ。 ついつい気になって、の顔を凝視してしまってたさ。 それにしても、よ。 どうなってんのさ、コレ。 俺は確かに……。 任務で行ったアンデス山脈の奥地に古より伝わるとされる、奇跡とも云うべき薬。 『貴方にフォーリン ラヴ!2000』 まぁ、つまり平たく云えば恋の媚薬ってヤツ。 2000がどういう意味かは知らんけど。 それを仄かな下心と恋心とパッションと根性によって入手した訳で。 無論、今それを眼の前に居るに使ってみてさ。 その効果を見たい(と云うか俺に惚れて欲しい)が為にジジイに無理云って教団に帰ってきて休憩ももらって。 なのに、なのに。 「 この紅茶美味しいね。アンデスのお土産だっけ?わざわざありがとうね。」 なんて、いつもの笑顔で話しかけられてきててさ。 「 いやいや〜、が紅茶好きだって云ってたのを偶々思い出してさ〜。」 はい、嘘。 今までと交わした会話なら、どんな些細な事だって覚えてんぜ。 例えばしゃっくりが1時間ずっと止まらなくて焦ったとか。 「 ありがとう。」 そう、にっこりと真っ直ぐに俺の眼を見つめてきてくれるの笑顔が。 眩し過ぎるほど可愛くて、 痛い。 唯こうして2人きりで話せるだけでも仕合わせなのに、好かれたいと、愛し合いたいと欲張った自分が恥ずいさ。 俺ってなんかもの凄く、情けない、な。自分が動く訳でもなく、『貴方にフォーリン ラヴ!2000』なんてふざけてるとしか思えねぇ恋の媚薬になんか頼っちゃって。 莫迦じゃん、俺。 情けなくて涙が出てきそうさ。はぁ。 しかもこの薬。 全っっ然!効果ナッスィングじゃん!!どーなってるんさ一体!? 粘りに粘って頼み込んでやっとの思いで譲ってもらった、奇跡の薬とか銘打たれてる品だっちゅーのに。 バッタモン掴まされたとか? ……それも無きにしも非ず、か? 「 ラビ?どうしたそんな難しい顔して?紅茶、口に合わなかったとか?」 「 え?いやっ……そんなこと!うまい、ウマイなーこの紅茶。あはははは、は……。 おかわりしてくるさ。」 駄目だ。自分が阿呆過ぎての顔見る事出来ねぇって。 はぁ。 紅茶は温かな湯気を暢気に出してやがる。 なんか、ちょいムカつくさ……(八つ当たり)。 「 は俺の事如何思ってんのさ……。俺は、俺は……、我を失いそうになる位好きだっつーのに。」 「 それ、本当?」 「 あっっぢいいぃっっっ!!!!!」 「 ちょっ、大丈夫ラビ!?」 「 なななな、!?なん、なん……――っっ!!!?!?」 「 ほらっ、早く冷やさないと……!」 びっくりしたさ。 びっくりし過ぎて口がぱくぱくしてる。っつーかそれ以外出来てねぇさ。 ぱたぱたと忙しく、紅茶をこぼしてしまった俺の手を冷やそうと動いてくれてる。 動く度にふわりふわりとの髪が俺の鼻をくすぐる。 嗚呼、良い香り……。 「 大丈夫?痛くない?ヒリヒリしない?」 ひやりと氷を、白い綺麗な指そのままで押し当ててくれてる。 「 ああ……あぁ、ダイジョブさ。」 冷たいのは氷か、の白い綺麗な指か。 チリチリと、熱か冷気か。指が痛い。 「 もう。相変わらずおっちょこちょいなんだから。 指は紅茶飲まないよ?」 くすりと子供のように幼く笑った。 「 いやー、どうしても飲みたいって云い張って云う事聞かなくてさ〜。 にはかからんかった?」 しどろもどろと、兎に角何かを口走った。 何云ってんのさ、俺。 「 私は大丈夫だよ。ったく、びっくりするじゃん。しっかりしてよ。」 「 ん、ワリィワリィ。ちょいなー。」 ――きゅっ ……はい? あの、もしもしさん? 何故かあの、もしかして、手、握ってますか? 「 ……?」 「 ラビ……ラビ。ドキドキさせないで。ただでさえラビを見てるだけで、ドキドキするのに……。」 「 ?」 こ、これってもしかして、もしかします、か!? 「 いやだよ。ラビが怪我とかしたら。心配で、心配で……。」 おおおおお、ほんのりと頬が紅く染まっていって……! 「 私、私……。」 「 、俺――。」 今、今だったら抱きしめてもナチュラルだよな? 「 ラビの事が―― って、何云ってんだ私―――!!!」 バシーンッッ 「 ……。」 なして? なして、今、俺の頬を引っぱたいたんさ……? そして、なしてその儘走り去って行くん……? これは、『貴方にフォーリン ラヴ!2000』の効果、なのか? それとも…… 「 痛い―― けど。 ちょっと、嬉しい、かも。」 それとも、の本音、なのか。 確かめられるのは、未だ当分先、かい? |