氷の心






「 愛ってなに?」




人のベッドの上でだらしなく寝転がりながら、天井に向かってポツリともらした。
この女の名前は 。同じエクソシストで、いつからか俺の恋人になっていた。


「 知るかよ。」

先程の質問に、一応答えてやる。何か一言でも答えておかねぇと五月蝿いからな。


「 ……うん、私も知らない。――判らない。」

ベッドからブラブラとだらしなく足を投げ出して、寝転んだままそう返してきた。


俺もも、口数が多い方ではない。だから必然的に沈黙が多くなる。
まぁ、今に始まった事じゃねぇから気にもしてねぇけど。

それでもやっぱり、目の前で好きな女が白くて綺麗な細い足を訳も無く動かしてたら、ついつい眼がいっちまうだろ。
そもそも此処の教団の女性エクソシストの団服は可笑しいだろ。
何考えてんだコムイの奴は。




「 ねぇ、ユウ。」

不意に名前を呼ばれた。


「 なんだ。」

依然、はベッドに仰向けになって転がっているままで。


「 好きだよ、ユウ。」

そんな言葉を綴った。



嗚呼、そうか。判ったよ。


「 ああ、判ってる。」
そう云って俺は立ち上がり、寝転がっているの隣に腰を下ろす。


「 俺も好きだ。」


暫くじっとしていたが、俺の方へと横向きになった。

「 ……。」
何か云いた気にじっと見つめてくる。
まぁ、云いたい事なら大体判ってるがな。


「 ――ユウ」
「 あのな。」
が云い出す前に、俺が口を開く。

「 能く判んねぇけど。
 愛ってのは誰かに押し付けたり押し付けられたりするモンじゃねぇ。
 ましてや、誰かに言葉で教えたり教えられたりするモンでも。
 良いんだよ、未だ判んなくたって。知らなくたって。そのうち判る日が来るだろ。」


と。

俺の言葉を聞いたは、少し眉をひそめた。


「 じゃあ、ユウは私を愛してる?」

そしてこう訊ねてきた。


きっとこの質問は、これが最初で、そして最後になるだろう。否、そうしなければならない。



「 知らねぇモンは言葉(クチ)に出来ねぇな。
 でも、俺はが好きだ。」

そう、の眼を見て云ったら、泣きそうな顔で笑って手を握ってきた。

「 それだけで、満足できる?」

不安定に震える声でそう聞くは、布団に顔を埋めて隠れた。
握られた手も、小刻みに震えている。


この一連の質問が、にとってどれ程怖くて苦しいものか、俺には判る。
『愛』というモノが信じられなくなったが、それでも俺に心を寄せてくれた。
その行為も、どれ程怖かったのだろうか。震えるを見れば、厭でも判る。



がそばに居りゃ、それで良い。」


だからが厭がる事は決してしないし、決して云わない。
少しずつ、とけていけば良い。焦る必要なんて無い。

俺は優しくきつく、の細い手を握り返した。

「 ありがとう――ユウ、ありがとう。」

そう云ったの声は、泣きながら微笑んでいた。


いつか必ず、とける日は来るから。俺が、必ず。