彼女の道、出会いのち出





   
  会いたい  逢いたい
  一秒でも早く、一分でも長く
  そう思うのは、ごくごく自然な気持ちでしょ?
  好きな人にあいたいって想う事は、つまりそういう事だって、私は思ってる。



私は今、『黒の教団』内部へと続く水路を進んでいる。
あぁ、やっと此処まで帰ってこれたんだ。やっと此処まで帰ってきたんだ。
任務に就いて実に8日ぶりのご帰還。
長かった。
そう、長かった。日増しにそう想う気持ちが大きく、深くなる。


黒の教団に属して、結構になる。
初めは科学班に居た。
或る日、部屋の中の机上の論理だけでは納得のいかなかった私は、周りが止める声を振り切って探索部隊ファインダーの人たちの後ろを追わせて貰って。
それから数日後、探索部隊へと籍を移した。
勿論、室長や班長や皆からは引き止められたけど、それでもと私は我を通させてもらった。
やはり机上と現場とでは、全くといって良い程勝手が違うけれども。
それでも私は探索部隊のお仕事に、惚れ込んでしまったのだ。
今までやってきた科学班での経験が無駄かと云うと、そうではない。
寧ろプラスになっている。
科学班に居たからこそ、気付く事もあるし、科学班に居たからこそ、出来る報告だってある。

それに、離れてみて判った事も、幾つかある。
一つは、私達科学班がしてきた机上での仕事が、現場でとても活かされるという事。
一つは、私達科学班がしてきた机上での論理は、現場で偶に通らないという事。
そしてもう一つは。
私は、リーバー・ウェンハム班長を、好きだという事。

最後のモノが、最も驚いた事だった。
科学班に居た頃も、上司と部下として仲良くしてもらっていたし、それ以上に良い人だとも思っていた。
けれどもそこに、恋愛感情なんて無かった。否、無いと思い込んでいたのだ。
ほぼ毎日、仕事をする上で顔を合わせる事は、息をするかの如く当たり前であって当然なのだ。
仕事中に用事で名前を呼ばれる事だって、多々あった。
笑った顔も、真剣な顔も、和んでいる顔も、寝顔も、偶に怒っている顔も。
ほぼ毎日、繰り返し見ていた。見慣れていた。
それに仕事仕事で、きっと『それ処じゃ無い』感が強かったのもあると思う。

つまるところその頃は、彼の顔を見ても声を聞いても名前を呼ばれても、なんとも思っていなかった。
しかしいざ、探索部隊に属してみれば。
その思いが間違いだったと、日増しに強く思えてくるのだ。
初めはやはり、余りなんとも思っていなかった。
けれど、出動回数を重ねる度、出動日数が増える度。
帰ってきてから見る彼の顔に、帰ってきてから聞く彼の声に。
癒されている自分が。胸がときめく自分が。確かにココに居たのだ。

その想いに気付いてから、科学班を抜けたことに激しく後悔をしてみるのだが、最早後の祭りである。
それならばせめてと思い、ファインダーの仕事が無い日は科学班に顔を出し、仕事をするようになった。
元科学班である特権だ。職権乱用とも云う。
任務がある時はある時で、報告書はなるべく私が書くようにさせてもらっている。
提出等を口実に、逢いに行っている訳で。
一言二言で終わる時もあるけど、それでもその時間が仕合わせで仕方ない。


兎にも角にもそんな訳で、私の胸と頭の中はもう、班長に逢いたいという感情で持ちきりだ。
ゆっくり進むこの水路だって、本当はもっともっと速く進みたい。寧ろ泳いで行きたい位だ。
しかし、仕事帰りの為、そんな体力も残っていない。こうして船に大人しく座っているだけで、本当は精一杯。
、大丈夫か?なんかやたら、疲れてるように感じるけど……。」
同舟しているエクソシストのデイシャが、心配そうな声を投げかけてくれた。
「 んあ?ん、大丈夫。なんて事ない、ちょっとその、走り回りすぎて、足がね、ほら。」
ペチペチと自分の足を叩きながら、笑ってみる。
「 心配してくれて、ありがとね。でも私なら大丈夫だから。それよりデイシャは?
 私を庇ってくれた時、背中とお腹、強く打ったでしょ。大丈夫?」
そう、そうなのだ。AKUMAにおもっくそ蹴られて吹っ飛ばされた時、壁に激突しそうになった私を抱きとめる形で庇ってくれたのだ。
なんて良い奴。
デイシャはすっと、右手をお腹の上に持ってくる。
「 まー、壁に当たった背中はさておき、を受け止めたこの腹は、そりゃあもう酷い衝撃がな。」
なんて、人懐っこい笑顔でそう云った。
「 んもー、人が心配してんのに、そういう事云うかー!!」
笑いながら、右手に拳を作って振り上げる。
「 あははは、冗談だって、冗談!これくらい、なんでもねぇよ。」
そう云ってデイシャは、悪かったと両手を上げて。降参のポーズ。
こうやって、じゃれ合っていられるのも、デイシャが私を庇ってくれたからだと、改めて思った。
「 デイシャ――」
もう一度、お礼を云いかけたその時。
「 あっ、そうだ。教団についたら報告書、書かなきゃだよな。はすっげー疲れてるみてぇだし俺が書いとくか?」
そう持ち掛けてきた。
一瞬、言葉を遮られた事に意識が飛ばされて、デイシャが何を云ったのか判らなかった。
けど。
「 いいいい、いいっ、良いよ全然大丈夫!私なら疲れてないし、大丈夫だから!
 だから、報告書は私が書くよっ!!」
立ち上がって、力いっぱいデイシャの肩を掴みながら、声を大にしてそう云っていた。
ああ、トマに笑われてる……。
「 そ、そうか……?ま、まぁ、がそう云うんなら、に任せるよ。報告書って、何気に面倒だからな。」
眼を見開いて、驚きながらも、デイシャはそう云ってくれた。
嗚呼、デイシャ。君は良い奴だよ。
「 でも、無理すんなよ?報告書出したら、ちゃんと休めな?」
そう、心配してくれるデイシャは、本当に良い奴だ。
「 ありがとう。」
疲れなんてふっ飛ぶよ。ありがとう、デイシャ。

地下水路から教団内に入ったところで、デイシャと別れた。
彼は療養所へ、私とトマは報告書を取りに科学班室へと。
「 その熱意には、誰も勝てませんよね。」
隣から掛けられた声は、どこか嬉しそうである。
「 うるさいなー。しょうがないじゃん、気付いたら口走ってたんだもん。自分でもちょっとびっくりだよ。」
もう少し冷静になれてると思ってたのに。
トマにからかわれ、少し楽しくない。くそう、トマのくせに。
「 まぁ、仕方ありませんけどね。
 エクソシストの方々には、未だがリーバー科学室班長を慕っているという事、バレてませんからね。」
なんて、凄く楽しそうに云うんだもん。ちくしょう。
「 エクソシストの方々には……って、ファインダーの人達の中にだって、知られてる人少ないもん。
 いや、そりゃ、何度か一緒の任務に就いた人には、バレてる、けど……。」
云っててなさけなくなってくる。泣きたい、泣きそう。泣いても良いですか?
「 ははは、すいません。でも、誰かに好意を寄せるという事は、とても良い事だと思いますよ。
 いつか、彼にもその想いが伝わると、そしてその想いが報われると良いですね。
 っと。それでは、私は此処で。ゆっくり休んで下さいね。お疲れ様でした。」
「 ……うん、ありがとう。そっちこそ、おつかれさま。ゆっくり休んでね。」
そう云って、科学班の部屋の前で、私達は別れた。
トマは、事務的に報告書を受け取って、すぐに自室へと戻って行った。
すれ違う時にもう一度、お疲れ様と云って、笑い合った。
さぁ。私も、報告書を受け取って。書き込もうか。

「 失礼します。、只今戻りました。」
そう云って、部屋の中に一歩足を踏み入れた。
「 おー、殿のご帰還だ。」
「 科学班出身の。」
「 科学班出身、元・ファインダーで。」
「 現・エクソシストの。」
最後に後ろから聞こえてきた声は。
「 おかえり、。」
凄く優しい声で、凄く穏やかな笑顔で。
書類で頭を軽く叩かれたけど、それは彼なりの表現方法であって。
「 ただいま。」
デイシャの笑顔よりも、トマの笑顔よりも、ずっとずっと、私の心も躯も癒してくれる。
リーバー・ウェンハム科学室班長、その人だった。
私も、笑顔で返した。
「 おかえりー!」
「 お疲れさん!で、どうだった?初めての"エクソシスト"としての任務は。」
「 やっぱりファインダーとは疲労具合とかも違うの!?」
などなどなど。
科学班の皆から、熱烈歓迎を受けている。
い、いや、あの、私任務明けで疲れてて、報告書取りに来ただけなんだけど。
とは云えず、一つ一つ律儀に答えてる私にカンパイ。
嗚呼、班長が遠いよ……。

。」
科学班の皆からの、怒涛の質問攻めが一段落した時、班長に名前を呼ばれた。
「 あ、はいっ。」
呼ばれた時、ちょっとドキッと、した。
8日ぶりに逢うんだと思うと、余計ドキドキしてきた。
早足で班長の許へと駆け寄る。……顔、赤くないよね、大丈夫だよね?
「 今日も此処で書いていくのか?」
そう、書類を書き上げながら尋ねてきた。
『此処で書いていく』というのは、報告書の事。
いつも私は、科学班の皆が残してくれている私のデスクで、報告書を書き上げていたから。
「 はい、そのつもりです。」
そう答えても、彼の顔は微動だにしない。
「 そうか。いつもの場所にあるから、書き上がったら教えてくれ。」
「 ―――判りました。」
これ以上、何も言葉を貰えない。そう受け取った私は報告書を手に取り、自分のデスクへと腰を下ろす。
横目に見た班長は、仕事に追われ、少し恐い顔だった。
私はペンをとり、進める。


  もう少し、話したかったな。
  もっとゆっくり、落ち着いて話したかったな。
  8日ぶりなのに。
  でも、やっぱり班長のあの声とあの笑顔は、変わってないな。って、当たり前か。8日しか経ってないのに。
  そう、8日しか経ってないんだ。
  まるで、何年も逢えなかった気がするのに。
  科学班に居たら、こんな想いせずに済んだのに。
  ああ、でもそしたら、班長への気持ちにも気付けなかったか。
  それは、ヤ、だな。



―――?
誰かに髪を、引っ張られた気がした。
……?
何度も。自分の髪が誰かに触られている、んだと、思う。
いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。そんなに疲れているのだろうか。四肢が思うように動かない。
「 ――なに……だ、れぇ……?」
寝起きの掠れた声を出しながら、髪を触っている手を捕まえる。
この感じは、男の人の……
「 あ、悪ぃ、起こしたか?」

これも、夢?これは、夢?それとも。
「 はっ、班長!?」
びっくりした。心臓がいつもより速くドキドキしている。
勢い良く顔を上げると、左手にカップを持ったまま少し驚いたような顔をした班長が、其処に立っていた。
「 あ……私……。」
見渡せば、辺りは真っ暗で、班長と私以外は誰も居ない。
「 仕事が一区切りついてな、二時間前に皆帰ったよ。」
私のデスクと班長のデスクにだけ、灯りが点いている。
「 俺はその時、未だちょっと仕事が残ってたからさ。
 は……いつの間にか寝てたから。俺の仕事が片付いた時にでも起こそうかと思ってたんだ。」
そう云いながら、左手に持っていたカップを私のデスクに置いて、その手で近くにある椅子を引いて座った。
凄く使い難そうに左手で椅子を引くから、躯をねじって。
右手ですれば良いのにと、班長の躯から右手へと視線を辿っていくと。
私の右手と繋がっている。
「 あっ、す、すみません。」
顔を下げて、右手を放した。
「 ん?あー、いや、俺の方こそ。あまりにも気持ち良さそうに寝てたから、如何やって起こそうかと思ってさ。
 暫く見てたんだけど、その、髪が綺麗だったから、つい。」
バツが悪そうに、左手で自分の髪を掻き上げながらそう話してくれた。
そ、そんなに私、寝てたんだ。
そうだよね、此処に帰ってきたの、夕方くらいだったよね確か。今はもう、真夜中。
「 いえ、起こしていただいて。と云うか、すいません。無理矢理残させてしまったようで。」
幾ら仕事が残っていたとはいえ、二時間も一人でする筈ない。
きっと、私が自分で起きるのを待っていてくれたんだ、班長は。
「 いや、そんな事は。仕事が片付いたのも今さっきだし。」
そう云って、私に紅茶の入ったカップを渡してくれた。わざわざ、淹れてくれたのか。
「 すいません、いただきます。」
お互いに、口にする。

少しの沈黙の後、先に口を開いたのは班長だった。
「 未だソレ、着てたんだな。」
コーヒーを飲みながら、私の着ている服を眼で示す。
「 あ、はい。未だ、エクソシスト用の団服が出来上がっていないので、これを。」
ファインダーの服を摘みながら、そう返す。

私がエクソシストになったのは、つい最近だ。
マリさんとデイシャが持ち帰ってきたイノセンスの適合者が私で。
それでも、ファインダーの任務が入っていたからそれをこなしていたら、団服を作るのが遅れてしまって。

「 予備とか、一応あるだろ。なんで着ねぇんだ?」
班長は、不思議そうに尋ねてくる。最もな疑問だ。
ファインダーの服も、一応は丈夫に作られているが、本格的な戦闘用には作られていない。
しかし私は今回、ファインダーとしてではなくエクソシストとして任務にあたったのだ。
「 エクソシストが団服を着なければいけないのは判っています。
 この服で闘う事が、どれ程危険なのかも。その危険が私だけでなく、他のファインダーへ及ぶであろう事も、勿論。」
紅茶のカップを両手で持ち、私は続ける。
「 着納め、とか、そんな感じですかね。エクソシストになったら、もう、ファインダーへは戻れませんから。
 多分、そんな感じです。」
そう、エクソシストになってしまったら、もうファインダーではいられない。エクソシストの絶対数は、ファインダーのそれとは比べものにならない程少ないから。
「 ……闘いたくない、か?やっぱり。」
「 え?」
意外な言葉が返ってきて、反射的に聞き返してしまった。
「 いや、なんか聞いてると、ファインダーに凄い名残惜しそうに聞こえたから。
 それはやっぱり、闘いたくないからなんかと思って。違ったか?」
じい と、私の目を見据え、班長は聞いてくる。
瞳の奥を覗く様に、心の中を覗くように。
見つめられると、ドキリとする。
班長だから、とかじゃなくて、心の本音を見透かされたみたいで。ドキリとした。
「 あは、は。」
自嘲めいた笑いが漏れた。こんなものでも、間繋ぎにはなったかな。
「 相変わらず、ですね。班長は。どうしてそういつもいつも、私の心の中を見抜いてくれちゃうんですか?」
無意識のうちに力が入る。両手で持っているカップは、小刻みに震え出した。
多分、眉間にも皺が寄っているだろう。
「 ……――」
「 私、私……。
 私、科学班も好きだし、ファインダーも好き。皆の代表として、現場で闘っているエクソシストも好きです。
 でも、私っ、私がエクソシストだなんて、そんないきなり――っっ」

涙がこぼれた。
エクソシストに選ばれた時も、今回の任務が下された時も、現場に出向く時も、現場の最前線で闘ってた時だって。
ずっとずっと怖かったけど、涙なんか流さなかった。泣かなかった。
私は選ばれたんだって、エクソシストに選ばれたんだからって、云い聞かせて泣かなかった。
なのに、どうして。
今になってこんなに震えているの?今になって、涙が溢れてくるの?

「 ふっ、うっ……ご、ごめんなさ―――」
感情がコントロール出来なくて。それを必死に隠そうとした瞬間。
班長の胸に、顔がうずまっていた。
「 ――っ、はん……」
顔を上げようとしたら。
「 ……いい、無理、すんな。せめて俺の前でくらい、もっと弱音吐けよ。」
いつもよりずっと優しい声で。そう云ってくれた。
その言葉を聞いたら、次から次へと、止め処なく涙が溢れてきて。
我慢出来なくて、今まで堪えてきたもの総てを吐き出すように。
班長の胸元がボトボトになる程。私は泣いた。
その間ずっと、班長は私を受け止めてくれていた。
大きな手で優しく頭を撫でて、髪を梳いて。
もう片方の手で、しっかりときつく、私を抱きしめて。
「 もう、我慢しなくて良いから。全部ココで吐き出しとけ。」
ぶっきらぼうにそう、でも優しく云ってくれて。
その言葉と行為だけで、私の心は救われたんだ。


「 ――あ、の……班長。」
どれくらい経ってからか。総て吐き出して泣き終えた私は、きっと真っ赤に腫れ上がっているであろう赤い眼の儘顔を上げた。
「 どうした?」
優しく微笑み返して、僅かに残っていた涙を指で拭ってくれた。
「 すみません、取り乱してしまって……でももう、大丈夫ですから。あの、ありがとうございました。」
そう云って、班長の腕の中から出ようとした。
けれどそれは、出来なかった。
「 礼なんて良い。お前が、――が辛そうな顔をしていなければ、それだけで良いんだよ俺は。」
不意にもっと、抱き寄せられて。班長の大きな腕と躯に抱きすくめられていたから。
「 は、班長、あの――」
次の言葉を云おうとしたら。
の辛そうな顔を見てるのが、何より厭なんだ。
 俺には神田やアレンの様に闘う力が無い。闘ってを守ることが出来ない。
 俺に出来る事と云えば、資料整理と、これくらいだ。」
班長の顔は見えないけど、班長の声は少し震えている。
「 そんな無力な俺だけど、にはいつも笑っていて欲しいって、願わずにはいられない。
 任務で外に出る事が増えて、それに比例して怪我の量も増えて。
 なのに弱音も吐かずに笑ってるお前を見てるのが、厭だった。俺の無力さを痛感させられるから。
 今にも壊れてしまいそうなを見てると、気が気じゃなかった。」
震えた声で、きつくきつく私を抱きしめてくれる班長は、私の心を希望で満たしてくれる。

「 そんな事云われたら、私。期待しちゃいます。班長が、私の事――」
「 好きだよ。俺は、の事が、誰よりも、何よりも、大切だ、好きだよ。」
私の言葉を遮って、班長は、私がずっと待ち望んでいた言葉をくれた。
「 ……班長、私、未だ夢を見ているのでしょうか。私もずっと、ずっと班長の事、好きでした。」
そう云うと、一度、ゆっくりと躯を離してくれて、顔を見合わせた。
私の顔はきっと、真っ赤だ。
班長の顔も、少し赤い。
「 ありがとうございます。私、班長のおかげで、班長が居るから、明日からもきっとずっと、楽しく生きられます。
 班長、好きになってくれて、本当にありがとうございます。」
そう云ったら、亦きつく、今まで以上にもっときつく、抱きしめられた。
「 ありがとう、俺も……仕合わせだよ。」

涙が一滴、頬を伝った。