「 神田サマッ!」 「 ああ゛?」 「 3時の方向に反応有り、です!」 風薫る五月。 私は神田サマの背中に担がれている。 私は、ファインダー寄りのエクソシスト。 「 距離は?」 「 この感覚からすると……50kmと云うところです。 あの、神田サマ?私、降りて一人で走りま――」 「 お前足遅いからこっちの方が良いンだよ。スピード上げるから口閉じてろ。」 私のイノセンスは少し変わっている。 ミンナの様なアクマを攻撃するシロモノじゃない。 私のイノセンスは、どちらかといえばヘブラスカの様なもの。 ミンナの様に武器のカタチをとっていない。 だから、私は闘えない。私は、闘えないんだ。 戦闘になれば、お荷物になるだけ。 私は、ファインダー寄りのエクソシスト。 「 。」 「 ええと……まだこのまま真っ直ぐで大丈夫です。」 しかも私一人では私のイノセンスは使えない。 誰か他の、エクソシストが居てくれないと。 戦闘にならなくても、私はお荷物だ。 私は、唯のお荷物なんだ。 私のイノセンスは、どうしてこんな形態なんだろう。 惨めだ。 惨め過ぎて、教団にも私の居場所なんてない。 ファインダーともエクソシストとも違う。 それでも私はエクソシスト。 私も、神田サマやリナリー達の様な武器が良かった。どうせなら。 神田サマの様に、闘える力が欲しい。 「 ――――っつぅ……。」 「 ……だ」 「 あ、すみません大丈夫です。ちょっと眼にゴミが入ったみたいで。 私なんかより神田サマこそ大丈夫ですか?ずっと私を背負って走りっぱなしで……。」 「 これ位でヘバるとでも思ってんのか。」 「 あ、いえ違っ―――……すみません。」 神田サマが風を切る音だけが優しく聞こえてくる。 神田サマは、優しい。 口では何と云っても、私との任務も嫌がらず受けて下さる。 エクソシストの方々の中には、私を敬遠する方も少なくない。 まぁ、私がその立場でもきっとそう思うんだろうけど。 こんな使えない奴、足手纏い以外の何者でもないもの。 どうして私のイノセンスは、こんな性質なんだろう。 「 。」 「 あ、はい。 ……今より、少し南西方向――――あと10kmといったところです。」 私のイノセンスはイノセンスに反応する。 私のイノセンスはイノセンスを探し当てる。 途方も無く離れてると流石に反応しないけど。 私が発動しただけじゃ、反応しないけど。 なんて使い勝手の悪いイノセンスだろう。 適合者の私一人だけでは使えない、なんて。 誰か他の適合者とそのイノセンスが直ぐ傍に居ないと反応しないなんて。 なんてどうしようもないイノセンスなんだろう。 一人だけでは任務をこなせないなんて、なんて使えないエクソシストだろう。 「 真っ直ぐここから1km。そこにイノセンスがあります、神田サマ。」 梵天丸なんて仰々しい名前のくせに、なんて使えないイノセンスなんだろう。 「 あと500m。」 「 100m。」 「 10m。」 スピードを落とす事無く、神田サマは私をずっと背負ったまま走り続けられた。 薫る風が、なびく神田サマの御髪が、神田サマが。 優しくて。 痛い程、優しくて。 「 無事に、回収出来ましたね。」 「 ああ。」 「 流石、神田サマです。」 私はイノセンスを見つける度、どうしてと思う。 どうして私のイノセンスはこんなカタチなんだろう。 どうして今見つけたコレが私のイノセンスじゃなかったんだろう。 どうして私はこんなイノセンスに選ばれてしまったんだろう。 どうして、私は。 私は、エクソシストなんだろう。 「 俺じゃねぇよ。 見つけたのは、だろ。」 私は、エクソシストなのだろうか? 「 いえ、私の力では……私一人では何も出来ませんから。」 「 俺一人だけならこんな迷わずイノセンスの元へは来れねぇ。」 それは。 そんな事は。 「 わた、しは………。」 「 胸を張れ。お前は選ばれたんだ。誰に何を云われても気にすんな。シカトしてろ。 お前はお前のイノセンス、梵天丸に選ばれたんだよ。」 どうして。 どうして。 どうして神田サマは、そんなにお優しいのですか。 どうして神田サマは、そんなにお強いのですか。 私は。 私は。 私も、いつか神田サマの様に考えられますか。 私も、いつか神田サマのところへ辿り着けますか? 「 帰るぞ。」 「 ……はい。」 「 次のイノセンスが、お前を呼んでるからな。」 |