「 お師匠!海!海でござるよ!!」 「 お師匠!あの大きな建物はなんでござる!?海に浸かっているでいるでござる!!」 「 お師匠!」 「 お師匠!!」 は可愛い。 今まで剣術一本で生きてきたらしく無知も良いところだが、それすらも可愛い。 箱に閉じ込めて――――いやいや。でもそれ程に可愛い。 ふっ……あんなにはしゃぎおって。 「 あれは船と云う乗り物で、残念ながら建物では無い。ほら、あまり離れるな。迷子になると事だろう。」 「 はい、お師匠。」 天使にも勝るとも劣らず、否、勝っている笑顔でオレの袖を握る。 アクマ以上の破壊力だな。 思わず抱きしめたくなる。 「 げに沢山の人、今までに見たことがございません。 お師匠、誠にありがたき所存にござる。拙者、拙者………!」 「 っ!?―――行き成り泣く奴があるか。」 「 申し訳――ござい…ませっ……」 言葉を詰まらせ、オレの袖を握る逆の手でこぼれる雫を拭う。オレに見せぬ様、顔を背け。 はオレが此処、日本で拾ったエクソシストの見習い。 1年程前、遊廓で見つけた。 若干13にして遊廓に流されるなんて。しかもこの時代錯誤も甚だしい言葉遣いで、だ。 訳があるのだろうと話しを聴いてみれば(勿論2人きりで)、はとある有名剣道場の師範の一人娘で、ある晩、家族や道場一派総ての人間を一瞬にして喪ったとか。 その場に居なかったは運良く助かり、その後遊廓に身売りされた、と。 その直後にオレと出会った訳だ。 勿論、他の男なんかに身請けさせる訳にもいかずオレが引き受けたんだがな。 人一人救えるなら、オレはなんだってやってやる。まぁ、身請けの仕方なんて、金だけじゃないしな。 それに、一晩で大量の人間が殺されたなんて出来過ぎてる。案の定、はイノセンスの使徒、エクソシストであった。 神の使徒が何故、残酷な運命を背負わなきゃならんのだ。 未だこんなに、幼いというのに。 「 。」 「 はい、お師匠。」 こぼれた雫を拭い取ったの頭に手を沿える。 と、上擦った声と共にその赤い眼がオレに向けられる。 どんな姿でも、どんな仕草でも、は可愛い。 「 今日の夕飯はなににしようか。」 故に、その笑顔を守りたいと切に願う事は、なにも可笑しい話では無いだろう。 「 焼き魚が食べたい気分でござる! あ……でも、お師匠とご一緒ならば、なんでも。」 パッと明るく咲くこの笑顔を、例え刹那でも永遠に。 「 なら、焼き魚で決定だな。」 細く小さなの手を握り直し、暮れる夕陽を背にする。 「 ありがたき仕合わせ!!」 は犬のように無邪気に笑って答える。 愛弟子
誰かが隣に居ると云うのも、案外悪くないものだな。 |