ズシャッ
「 よっし、当たりっ!!これでAKUMA2匹ヤッたから、残りはいっ――――」
 ガラガラッッ
「っぃぃいいいいいー!?」

どうしてこうなるの?ねぇ、どうしてこうなるの??
私、どうして落ちてくの?



数日前、探索部隊ファインダーのトマさんと一緒にこの街へ来た。
イノセンス絡みであろう、怪奇事件が起こっていた街。コムイ室長に呼ばれ、私がこの街の担当となった。
怪奇事件といっても、事が起こってから余り時間も経っておらず、尚且つ小さな事件だったので、ファインダー 1人、エクソシスト1人の派遣となった。それがトマさんと私、 だ。
時間経過も短かったので、AKUMAも現れない、現れたとしても雑魚レベル1)が1匹か2匹だろうとコムイ室長も踏んだんだと思う。私もそう思ったもん。
行きの列車の中で、トマさんと共に資料の端から端まで眼を通したし。
まぁ、準備万端!て訳ではないにしろ、抜かりは無かった。


筈だった。

いや、数時間前までは総て上手く往ってたんだよ?
トマさんとの地道な聞き込みや調査を繰り返して、イノセンスが原因の怪奇事件だとも断定した。
イノセンスの場所も突き止めた。
街の見取り図だって頭と躯に叩き込んだ。
さぁ、後100mでイノセンスへたどり着くぞ!って時に現れたんだもん。
それから私とトマさんの計画が少しずつ狂い始めた。
そりゃま、レベル1のAKUMAが1匹や2匹なら、何の問題も無く事は運んだだろうな。
うん、その自信はあり余る。
レベル2のAKUMAが1匹なら……多少時間はくうだろうけど、大丈夫。私もそこまで弱くない。
だけど、だけど。
連携プレーをかましてくれるならば話しは別だよ。
幾ら私だって、トマさん(と街)を庇いながら3方向からの連携攻撃に耐え切れる自信、ちょっと無い。
否、レベル1の雑魚共が3匹なら、それも大丈夫だろう。所詮レベル1だし――ちょっと舐めた発言か。

だけど今回は、違った。
レベル1が2匹と、レベル2が・1匹。
しかもこのレベル2の方が、笑えない位頭の回転良くて。パワーやスピードが無い分、策を練って3匹でかかって来やがるの!
姑の如く、影から陰から。ネチネチネチネチと。
好い加減、破壊衝動に駆られそうになった私は、理性で衝動を抑えつけた。
能く我慢した、私。教団に帰ったら大好きなお菓子をお腹一杯食べよう。ごほうびだ。
兎に角、AKUMAの数を減らさなければと思い、私は見通しの良い、広い屋上で待機。
その間トマさんには、AKUMAに気付かれない様にイノセンスへと近づいてもらって。
危なくなったらタリズマンで結界張って踏んばってくれ、必ず迎えに行くからと云って別れたのが1時間前。

屋上で待機していると、案の定・レベル1のAKUMAが2匹来た。
全く、あのレベル2は腰抜けね。死ぬ――否、元々死んでるんだから壊されるのが正しいのか――のが怖くて自分は先に来ないなんて。
もっと好戦的で単純なAKUMAなら良かったのに。
とか余裕ぶっこいてたのが30分前。
それから直ぐに1匹は壊した。その瞬間、左足首をもう1匹のAKUMAにやられて。
なかなか血は止まんないわ、意外とすばしっこいわで仕留め損ねていたけれど。
 ザシュッ
私のイノセンスがAKUMAに命中して昇天したのが5秒前。
空を舞っていた私が着地したのはそれから2秒後。

 ズシャッ
「 よっし、当たりっ!!これでAKUMA2匹ヤッたから、残りは。」
更に2秒後。余裕の言葉を吐いていたら。
「 ――いっ……。」
 ガラガラッッ
「 っぃぃいいいいい―――!?」


はい、これが、今。
AKUMAとの戦闘で、屋上の屋根部分にひびが入っていたみたい。
其処に着地したもんだから、今私は下に向かって猫まっしぐら・状態。
「 って、そんな事考えてる場合じゃないよね……。」
そうだ。
幾ら教団特製の団服を着ていたって、流石に6階から落ちれば無傷ではいられない。
それに私は左足を……。
「 トマさんも心配だしね。あー……私のイノセンスが刃物で良かったー。」
そう云いつつ、先程AKUMAを仕留めた私のイノセンス、『乱れ苦無』を両手に構え、眼の間を通過して行く壁に。
 ガッガガッガガガガガガガガガッッ―――

「 ――刺し……いや、壁に突き刺したから普通は止まるじゃん?
 ねぇ、確かにスピードは落ちてきててもうすぐ止まりそうだけど、地面までもうすぐじゃない?」
しかし無情にも、落下は続いている。酷く五月蠅い音と共に。
「 ええええ!?ちょっ……ちょっと待ってよ!いや、止まれ!止まれよ私の躯!駄目だってば、このまま落ち続け――」
 ガキィンン
「 ――マジンガー……?」

どうしてこんな時に限って、弾かれるかな。
そりゃ数時間闘いっぱなしだったけど。まさかそのせいで握力落ちて壁に弾かれたって?
笑えない、笑えないよ。
こんな失態、神田にバレたら『馬鹿が。』とか云って笑われる。
こんな失態、リナリーにバレたら『のバカッ!』とか云って泣かれる。
こんな失態、ラビにバレたら『が重いから止まらなかったんさぁ。』とか云われ……云わせねぇブッ飛ばす。

いや、本当にそれどころじゃなくて。
私未だ、死にたくない。
私未だ、云ってない事がある。
私未だ、伝えたい事がある、大切な。
私、私……。

「 私っ、アレ……アレン君のこっ事がああぁぁっっ!!!」
 ――ボスッ。
「 ――――!!」

……あれ?痛く……ない?
え、うそ、もしかして教団のコートってそんなに――
「 僕の事が――どうかしましたか?」
!?
ストップ。否、寧ろフリーズ。
え、え?今、なんて?誰の声だった?
落ちていく途中、弾かれた時怖くなって、躯小さくして眼も瞑っちゃったから。
あの、その。
今私、どうなってますか!!
?大丈夫ですか?」
この声、この感じ。間違いない!
「 アレン君!?」
びっくりした。凄くびっくりした。
眼を開けばすぐそこに、アレン君の顔が。
アレン君の少し長い前髪が、私の額をくすぐっているんだもの。
「 怪我はないですか?!」
未だちょっと(大分)ぽけーっとしている私に向かってアレン君が、心配そうな顔をむけている。
心配そうな顔を……。
――はっ!!
「 ああああ――だだ、大丈夫!全然大丈夫だから!!」

慌てた。
能く能く見てみれば、私はアレン君に抱きかかえられている。
そう、俗に云う『お姫様抱っこ』という形だ。
落ちてきた私をアレン君が、見事キャッチしてくれたのだろう。なんて素敵!
云ってる場合じゃない。

「 本当に大丈夫だから、おろ……降ろして貰える?」
本当は、いつまでもこうしていたいのだけど。顔が熱を帯び始めたのに気付いてしまったから。
暫く、じいっと私の顔を見ていたけど、すぐに降ろしてくれた。
ちょっと残念だけど、ほっとしてる方が大きい。
「 瓦礫が散らばってますから、気をつけて……。」
そう云って、ゆっくりゆっくり、私の足が地面につくまで屈んでくれて。
ああ、もう、本当に。
その何気ない優しさが、私の心を射抜いてくれちゃうんだよ。
「 ありがとう……。」
そう云うと、アレン君は私を下から見上げる形――つまり私にかしずいてる様な状態――でにっこりと微笑んでくれた。
ああ、もう、だめ。
その笑顔、反則だよ。

「 っつ!?」
左足首から全身に小さな痛みが走った。
!?」
どうやら瓦礫の一つが傷口に当たったみたい。
アレン君は慌てて私の躯を支えてくれる。ああ、やっぱり優しいなぁ、アレン君。
「 ん、大丈夫。ごめんね?さっきちょっと、AKUMAにやられちゃって……。」
そう云いながら傷口を確かめようとした瞬間。
「 ひゃあっ!?」
ふわりと、躯が浮いた。
私は再び、アレン君の腕に抱えられていた。
「 え?ちょっ、ちょっと、アレン君?」
嬉しさとか・恥ずかしさとかからくる感情で、私の頭は軽くパニックを起こしている。
「 だだだ、大丈夫だよこれくらい。すぐに血も止まるし、1人で歩けるよっ!!」
嬉しさと恥ずかしさ、それに申し訳なさから、私は今一度"降ろしてくれ"と訴える。
「 ダメです。血が出てますし、何より傷口が足首です。変に力をかけて他の箇所まで怪我でもしたら大変です!」
そう力説して、瓦礫の間をスタスタと歩いていく。
私を『お姫様抱っこ』したまま。

「 あ……うーえーっと。あ!そう、そうそう!
 このすぐ近くにイノセンスがあって!其処にトマさんが向かってるから私も行か――」
 ドオォン――
「 !?」
「 大丈夫です。それならもう神田が行きましたから。
 ほら、今の音がそうですよ。きっともう、AKUMAもやっつけてトマさんもイノセンスも無事です。」
にこにこと、微笑みながら、明らかに音のした方から遠ざかって行ってる気がするんだけど、アレン君。
「 や、うん。そうだね、今のはきっと神田、だね。まぁ、神田が行ってくれてるなら安心だけど……。
 ほら、先に組んでたのは私とトマさんだし。一目だけでも――」
「 宿で落ち合う手筈になってますから、大丈夫です。はなにも心配する事ありませんよ。」
若干今、私の言葉を遮ったな。心なしか、怒ってる様にも見えなくも無い……。
厭きれてるのかな、呆れてるんだろうな。
これ以上は何を云っても取り合ってくれそうに無いし、「そうだね。」と云って大人しく引き下がる事にした。


重い沈黙。左足より心が痛い。
やっぱり、呆れられちゃってるんだろうか。それとも端から、眼中になんか無かったんだろうか。
そんなマイナス思考ばかりが頭を駆け巡る。
嗚呼、情けない。
みっともないとこ、見せちゃった。
見られたくない相手に。 アレン君に。

「 全く。」
先に沈黙を破ったのは、アレン君だった。
「 いつもいつも、はこうなんですから。」
ソコにはやっぱり、どこか怒りが込められていて。
「 もう少し、気をつけてくだ――」
「 ごめん。」
気付けば口が勝手に動いていた。
「 ごめん。アレン君が怒るのも、無理、ないよね。
 1人で突っ走って、失敗して、挙句尻拭いまでしてもらって。本当、駄目だよね、私。エクソシスト失格だぁ。」
あはは、と小さく苦笑いを漏らし、顔の上で手をクロスさせた。
情けない。本当に情けない。
自分の不甲斐無さに涙が出そうだ。いやだ、もう。
「 違いますっ!」
大きな声で、怒鳴られた。
「 違います、僕は怒っている訳じゃありません。」
すぐにトーンダウンし、いつものアレン君の声量になった。
けれど。
その声は、いつもの明るい声じゃない。
びっくりして、顔の上でクロスしていた両手を、ゆっくりとずらした。
の事が、心配なんです。」
指の隙間から覗いたアレン君の顔は、酷く切なそうに映った。

「 心配……?どうして?」
思ったことを、思わず口にしてしまっていた。
「 『どうして?』って、当たり前じゃないですか!好きな人が怪我して眼の前に現れたら、心配するじゃないですか。」
少し大きな声でそう云ったアレン君は、凄く真面目な顔をしていて。
けれど、自分が何を云ったか理解すると、耳まで真っ赤にしていた。
そんな姿も愛おしくて、嬉しくて、堪えていた涙が笑みと共にこぼれてしまった。
「 ななっ、泣かないで下さい!そんなに迷惑でしたか?僕の云った事。
 でも……事実、本当なんですよ。の事が心配なのも、好きなのも。」
そう、真剣に、耳まで真っ赤にして云ってくれるアレン君が。
「 だから――。」
必死に言葉を綴ってくれるアレン君が。
、聞いてますか!?」

私、今、どんな顔してる?

凄く仕合わせだよ。
私もアレン君の事、ずっとずっと好きだったから。
今ならちゃんと、素直に云えそうな気がする。
落ちていく途中、云いかけた言葉の続きを。










伝えたい事











――――おまけ――――

「チッ!なにやってやがる……。」
「ウォーカー殿、殿……。」
「これじゃ出るに出られねーじゃねぇか。」
「青春……ですね。」
「フンッ。別の道から行くぞ。」
「ああっ待ってくだされ神田殿!!」