ハートのエース






   
「 ショーダウン。だな。」
「 ええっ、もう!?」

シルバーアッシュの長い髪の男性が手に持っている5枚のカードをパラと小さなテーブルの上に滑らす。

「 ロイヤルフラッシュ……しかも、ダイヤ……!」
「 別にスートは関係ないだろ?」
「 ……なんか私の中ではダイヤは最強で。」

向かい合って座っているプラチナブロンドの髪をツインテールにした女性は、げんなりとした顔でその開かれたカードを見つめている。
勘弁してよ、と呟いて。

「 私なんてツーペアだよ!?
 もおう、どうして勝てないの〜〜〜〜!!!」
叩きつける様に、男性が滑らせたカードの上に自身が手にしていたカードを投げ、女性は万歳宜しくテーブルに突っ伏した。
その勢いでパラパラと、数枚のカードが床へとこぼれる。
その様子を黙って見ながら、くしゃりとそのプラチナブロンドの髪を撫で、男性は眉根を寄せて笑う。

「 髪に気安く触るなっての。」
自身の髪を撫でるその手を払い除け、ツインテールの髪を揺らしながらきっと男性を睨み上げる。
「 そう怒るなよ。」
床に落ちたカードを拾いながら、男性は女性――――をなだめに入ったようで。
困った様に苦笑いをもらしながらを観察している。


「 セッツァー強すぎ。1回も勝ててないもん。」
はあと盛大に溜め息をつき、先程男性――セッツァー――が広げた5枚のカードを拾い上げる。
穴があく程じいと見つめ。
まるでそう、トリックを探すかの様に。

「 イカサマ―――」
「 する訳ないだろう。」

ポツリと呟いた言葉は、云い終わる前に否定のそれで遮られてしまった。
前髪をさらと揺らし、は隣に立つセッツァーの顔を見上げる。ぐっと眉を顰めた顔で。

「 だってエドガーが、セッツァーはイカサマ師だから気をつけろって……。」

納得いかない。
そう云いたげな声音では喰いかかる。

「 女性にイカサマはしないし、何も賭けていないのにイカサマをしたところで如何なる。
 そもそも全力で相手してくれと云ったのは、何処の誰だ?」

見透かした様に笑いながら、の手からカードを貰い受けるセッツァーは、心中でエドガーを仕留める事を誓ったとか。

油汗の様なそれをたらりと流し、それはとは口篭ってしまった。
あーでもない、こーでもないと暫く巧い言い訳を考えているうちに、セッツァーは座ってカードを切り始めていた。
「 ……こんなに強いとは思ってなかった。」
その見事なまでの手捌きに魅せられつつも、反抗の言葉を忘れてはおらず。
少しむくれた顔と声で、はカードが綺麗に切られてゆく手元を見つめている。

そんな彼女の言葉に気を良くしたのか、セッツァーは柔らかく微笑み、ピッと一枚のカードを弾き出す。
何事かとそのカードを受け取り、は眼の前の人物の目を、見つめる。
「 なに?」

「 俺を誰だと思ってるんだは。天下のギャンブラー、セッツァー様だぜ?
 なめてもらっちゃ困るな。」

くっと笑い、の頭にポンと手を沿える。
長いシルバーアッシュの髪をふわりと揺らし。

「 何か飲むか?」
「 あ、じゃあ紅茶。―――ストレートで。」
睨みつけるような笑みで返すに、了解と悪戯に笑いセッツァーは部屋を出て行った。ゆっくりと扉を閉めて。
その後ろ姿をよろしくと見送って、は閉められた扉を暫く見つめていた。


ふっと短い息を吐き出し、何の気無しに見下ろした手には先程受け取った1枚のカードが静かに収まっている。
その儘何かの流れに乗る様にくるとひっくり返すと、ハートのエースが顔を出した。

「 ……ガラじゃない。」

不意にもれたのは呆れた色の声で、はついつい笑ってしまっていた。
柔らかく無邪気に、誰に遠慮する事も無く。

「 どう考えてもジョーカーでしょ、セッツァーは。」

無造作に積まれたカードの中からジョーカーを探し出し、手に持っているハートのエースと重ね合わせその小さなテーブルの真ん中に置いた。
くすと、笑って。


、開けてくれ。」

扉を足で蹴ったかの様な音の後、セッツァーの声がこう続いた。
カードから目を離し、扉へと向いて立ち上がる。
一度、重ねられた2枚のカードを見やってから、は扉へと歩きそれを開ける。

「 よーしセッツァー。もう一勝負だ!」