「 あー!神田くんにラビ、丁度良い所に!今から一緒に来てくれないかな?」

「 アレンくん。兄さんが、司令室に来てくれって。」

「 は〜あぁ、お疲れサン私。
 そしておやすみなさい、ワタシ〜。」


―――コンコンコンコン


「 兄さん、入るわよ。
 云われた通り、アレンくんを連れてきたけど……って、神田に、ラビも!?」
「 やーやーありがとうボクの可愛いリナリー!
 ささ、アレンくんも神田くん達の隣に座りたまえ。」

某日、黒の教団司令室。
その床一面を埋め尽くすかの如く拡がる資料まみれの部屋に、リナリー、神田、ラビ、そしてアレンの4名のエクソシスト達が室長のコムイの意により集められた。
4名の入団時期も教えを受けた師も、イノセンスの系統も全くと云って良い程バラバラではあるが、この4名には一つの共通点がある。
それは
「 今日集まってもらったのは他でも無い。いやー、ラビが教団に居てくれてラッキーだったよ。
 若いエクソシスト(みんな)に今からとある任務に当って貰いたいんだ。」
―――そう、若い、という事である。
4名共に、10代後半という非常に幼い年でありながら、エクソシストの職についているのだ。
そんな彼らを集め、コムイは何をさせようというのだろうか。

「 兄さん?」
「 うん、今からきっちり説明するよリナリー。
 先ず場所は、ハイここ。スコットランドの北部、インヴァネスね。
 其処から少し北西に行った所ににミザリー村と云う、長い冬の間、雪と氷に鎖されてしまう村があるんだ。
 あ、今から資料を渡すね、はい。」
と、眼鏡をキラリと鋭く光らせながら、コムイは自ら4名に資料を手渡していく。
そして再びデスクへと戻ると、吊り下げられた地図を細い棒で指しながら続ける。
「 実は最近、このミザリー村で神隠しが頻発しているらしいんだよ。
 しかも、例年ならばもうこの時期には他の村へと続く道への雪は融けている筈なのに、今年は未だその殆どが残っててね。
 探索部隊を送ったのに中に入れないと連絡が来て……。」
いつしか、そう話すコムイの顔からは笑顔が消え、真剣さであふれていた。
その話を聞く4名にもそれが伝染わったのか、火花を散らしていた神田とアレンもコムイを静かに見ている。
資料を捲り目を通していたラビが、しかし突然になぁコムイと静かに口を開く。
「 それってもしかして、イノセンス絡みだと踏んだから俺等が飛ばされんの?」
「 うん、そうだよ。
 探索部隊が入れなくても、同じイノセンスを持つ者のエクソシスト(キミたち)なら入れるかも知れないからね。」

「 でも兄さん。」
ラビの質問にコムイがテンポ良く答えたその少し後、同じく資料に目を通していたリナリーが口を割った。
それになんだいとにっこり笑い、コムイはリナリーへと歩み寄る。
「 私達を送るのは判るけど、どうして4人も必要なの?
 幾らイノセンスが……って事でも、4人は多くない?」
そのリナリーの言葉に、コムイはリナリーの手をぎゅっと握り、眼鏡をキラリと光らせ右の人差し指をビシッと天へと突き立てる。
そして4名を見渡し、こう口を開く。
「 この神隠しなんだけどね、ここだけの話―――」
「 アクマの仕業、か。」
その言葉を無残にも遮り、今まで沈黙を保っていた神田が発する。
と、同じ部屋に居る全員が、神田へと注目する。
アクマ。―――その言葉に、敏感に反応したのだろう。
コムイは、ふっと小さく息を落とし、哀しげに儚く眉を寄せる。
「 ……その通り。そうじゃないかと云うのが、ボク達の予想なんだ。
 アクマの殲滅とイノセンスの発見回収、これが今回キミ達に与えられた任務だよ。」
天へとかざしていた腕を下ろし、コムイは云う。
慈しむ様にリナリー、ラビ、アレンそして神田を一人ずつ見て。

「 それにしても4人だなんて……。」
「 多いんですか?4人だと。」
不安げにコムイを見上げるリナリーに、アレンが続ける。
普通、何も判っていない現場へは1人ないし多くても3人までを派遣するのだとリナリーはアレンの目を見て説明した。
多くのエクソシストを、不確かな場所へは送れない。
それは、危険だという事も含まれるが、なにより大元帥達がそういう無駄な事を嫌っているから、らしい。
黒の教団も例に漏れず、確固たる縦社会なのだと、嫌に痛感させられる。

「 兄さん、一体何があると云うの?」
不安がるリナリーに、コムイは柔らかに微笑む。
その長い黒髪ごと頭を包み、ぽんぽんと優しく撫で。
大丈夫だよと目線を合わせ、にっとウィンクを飛ばしそして話す。
事の、真意を。
「 うん、そうだね。
 最初は、誰でも良いと思ってたんだ。けど、これはチャンスだと思ってね。」
「 チャンス?」
うん、とコムイは尋ねるラビに向かって頷く。
「 みんなのレベルアップを図る、ね。
 外界と隔離された氷雪の世界でイノセンスを巡りアクマと対峙。
 連係プレイとか、そういう事含めてね。ほら、みんなはエクソシストの中でも若いから
 多大な可能性を秘めてるでしょ。」
それを開花させたいなと思ってね。
コムイは軽く笑い、4名を見渡す。
それぞれに。
「 連係だ?んなもん弱い奴だけがやるもんだろ。」
しんと静まり返った部屋の空気を破ったのは、俺は行かねぇと云いたげな神田の否定的な言葉だった。
その言葉に食って掛かるのは例の如くアレンで。
拳を振り上げ力説する。
「 何云ってるんですか神田!仲間との連係プレイは大切ですよ。一の力が十にも百にもなります!」
「 俺は独りで百の力を出せる。」
「 俺はリナリーと連係したいさ〜。」
などなど。

「 ……兄さん。私、この3人を纏める自信、ないわ。」
米神に指をそえ、頭痛がすると訴えるリナリー。を、尻目に、尚も3人はあーだこーだと好き勝手に云い続ける訳で。
今にも殴り合いをし始めそうな雰囲気を醸し出している。
それを眼鏡越しに見つめるコムイはあははと苦く笑っている。
そして、可愛い妹に柔らかな笑みを向け、こう云うのだ。
「 大丈夫だよリナリー。
 ちゃんと、みんなを纏めるべき人を、みんなを纏めてくれる人を呼んであるから。
 リナリーは何の心配もしなくて良いんだよ。」
―――コンコンコンコン

5人が立つ司令室に、ドアをノックする高い音が割って入る。
誰だい?とコムイが問うと、ドア越しにリーバーですと返された。
「 入ってー。」
明るい声で楽しげに、コムイは云う。リナリーの頭を2度、優しく撫でた後で。
「 失礼します。」
そう云いながら、司令室のドアを開けたのは先の科学班室班長のリーバー・ウェンハムその人で。
ヨレた白衣と目の下のクマが、その疲れた様子を静かにそして確かに物語っている。
しかし、ドアを開けたリーバーはどうしてかなかなか部屋の中へと入ろうとはしない。
ドアの奥に、その両手を隠したまま。
「 どうだいリーバーくん。」
にこりと笑うコムイに、言葉を掛けられたリーバーはじっとりとした眼を向ける。
「 どうもこうも、ご自身で仰って下さいよ。いつもいつも俺に押し付けずに。」
ほら、と一言加え、リーバーは動く。

ドアの奥に隠していた手を見せ。
ずんずんと、司令室のその中へと入ってくる。
両手の先に、一人の女性を引き連れながら。
「 やぁ、くん。調子はどうだい?」
「 ……よぉ、コムイ。この世にさよならは済んだか?」
右手を挙げ朗らかに声を掛けるコムイに、女性は辛口コメントを贈る。
一挺の銃を水平に構え突きつけながら。
眠そうな眼を、無理矢理に鋭く尖らせ。
「 リーバーく〜ん?」
「 知りませんよ。」
眉根を寄せて縋る様な声を出すコムイに、リーバーは溜め息交じりに突っ慳貪に返す。
自業自得でしょうと続け、握っていたの右腕から自身の両手を放して。途中まで捲くった袖から伸びる骨太な腕を、無造作に白衣のポケットに突っ込みコムイの隣まで歩を進めた。
そして、耳元でそっとこう囁くのだ。
「 超絶機嫌悪いですよ、
 丁度寝ようとしていたとこだったみたいですから。」
そう聞かされたコムイは、盛大に溜め息を吐き出しリーバーの白衣をつまみ縋る。
「 ……なだめといてくれたんでしょ?モチロン。」
「 なんで――」
「 コムイ。」
ひそひそと2人が影を落としながら話していると、不意にが口を挟んだ。
ピリピリと痛い空気を纏いながら。
「 神への祈りは終わったか?」
くあぁ、と一つ小さな欠伸を置いた後、銃を水平に保ったまま親指を撃鉄に掛け、カチリと響く音を立てる。
眼を据わらせ、一段と低い声で、云い放つ。

当然、周囲は声を止める。
云い合っていた神田もアレンもラビも、それをたしなめていたリナリーも、声を潜めていたコムイもリーバーも。
それぞれにその口を閉じ、それぞれにへと視線を止める。
「 ……くん、恐い顔はしないでほら笑って笑って。スマ〜イル!ね?
 折角の綺麗なお顔が――」
「 黙れ。」
寝言は寝て云え。
ピシャンと効果音が付き雷が落とされたかのような声音でそう続きそうな空気が部屋中に満ち満ちている。
誰もが、ゴクリと固唾を飲み次の言葉を待っている。探している。を見つめたまま。

「 ……兄さん、もしかしてを?」
そんな重苦しい空気を破ったのはリナリーの小さな声だった。
ひそりと、兄のコムイの隣に歩き声を落とす。
「 ――――コムイ、如何いうつもりだ。」
鈍い光を瞳に宿しは重々しくその口を薄く開ける。
水平に保った銃の引き金に指を掛けたまま。
「 如何いうって――」
「 私は今さっき帰ってきたばかりなのよ。判ってるでしょ?
 ついさっきまで一月に亘る任務から帰ってきたところな、の。知ってるわよね?」
「 し、知ってるよ?」
コツリ。
高い足音を一つ立てて、一歩前へと出る。
「 エクソシストなんだから任務が続くのも仕方ないと思う。判ってる。
 けどね。」
コツリ。
銃を構えたまま、しんと静まり返る部屋の中に高く足音を立て亦一歩近づく。
米神にじんわりと汗を滲ませた半笑いのコムイへと。
「 睡眠くらい取らせろ。私を過労死させたいのか。」
「 ギャーーー!!!近い近い近い近いリナリー助けてええぇぇぇぇっっっ!!」
「 それ以上コムイさんに近づくと、貴女に危害を加える事になります。」
コムイから1メートルといった所まで、腕を挙げ近づいたに、アレンは張り詰めた声を掛ける。
自身の左腕を発動させながら。

コムイの眉間から10センチが突きつける銃口があった。
アレンは眼の前で何が起こっているのか理解出来ていなかった。
けれど、部屋の中に入ってきた自分の知らない女性が突然に、一応の上司であるコムイに銃を突きつけたのだから。守ろうとするのは、当然といえば当然の行いだろう。
アレンと は、これが初対面――ファーストコンタクトなのだから。
「 ……邪魔をするな。今の私はすこぶる機嫌が悪い。純粋で崇高なる眠りを妨げられたのよ。
 滅すわ、総てを。」
据わらせたままの眼の瞳孔を開かせ、冷徹な澄んだ声で返す。
冷や汗を流し、自然と震える身体を無理矢理に抑え付け、それでもアレンは対峙する。コムイを、守る為。
その画はさながら狼に睨まれた子羊の様で。
「 ど、どきません!
 貴女が何者か知りませんけどコムいっ!?」
コムイさんを傷つけるなら……ときっと続いたのだろうけど、その言葉は途切れてしまった。
後頭部に、激しい痛みが走ったそのせいで。
瞬時にアレンのイノセンスの発動は解かれ、左腕は静かに団服の中に収まっている。
アレンがから目を離し両手で後頭部を押さえながら振り返ると、六幻を右手に持った神田が、すぐの後ろに立っていた。
眉間に皺を寄せたその仏頂面で。
「 やめとけ。返り討ちにあうのが関の山だ。
 ……それに。」
「 そうだぞ
 怒る気持ちは痛いほど判るが取り敢えず銃を仕舞え。……俺も恐いから、さ。」
神田がアレンを睨み付け口を開いたその後で、の構える銃の上に自身の掌をかぶせ落ち着いてくれとリーバーが続けた。
瞳孔を開いたの眼を、臆する事無く見据えながら。

数秒の間。
ふっと短く息を吐き眼をゆっくりと閉じたは、判ったよと口の中で呟いてから左腕を静かに下ろす。
親指を掛けていた撃鉄を、カチリと音を立て元に戻しながら。
当然の手を銃ごと包み込んでいたリーバーの手も、下りる。きゅっと強く手を包み込んだまま。

「 どうなってるんですか、コレ?」
事の成り行きを、後頭部を両手で押さえ涙を湛えた目で見つめていたアレンが口を割った。
我判らず、と云った風に背後にクエスチョンマークを飛ばしながら。
「 彼女も―――もエクソシストなのよアレンくん。」
大丈夫?と心配そうに見つめながらリナリーが律儀に返す。
「 エクソシスト!?彼女が、ですか!?でも団服――」
「 寝るところだったのよ。
 つい今し方、任務から帰ってきたばかりなの。流石に寝る時まで団服は着ないでしょ?」
ツンとした顔と声で、は驚くアレンへ言葉をやる。
下ろした銃を、流れるように腰へと仕舞いながら。
それを見ながら、そうだったんですか、と、アレンは冷や汗を何故か流しながら答えた。
「 ……それが、―――さん?のイノセンス、ですか?」
の動作をその両目でしっかりと追いながら、アレンは遠慮なく質問する。
その様をしげしげと、眠たげな眼でアレンを見ていたは、そうして唐突に口を開く。
「 少年、名は?」
「 あ、アレン・ウォーカーです。」
ふむ、ウォーカー君、か。
右手を腰に当て、そううそぶきながらアレンを見つめる。
「 コムイ、どういうつもりだ?」
みんながアレンとの不可解な言動に注目する中、不意に神田が発言した。
いつか、が云ったその言葉その儘に。
ぎくりと過剰に反応するコムイへと、瞬時に視線が集まったのは致し方のない事だろう。
「 そうよ兄さん。
  にも納得してもらえる様、勿論私達にも判るよう、ちゃんと説明して。」
優しくそう諭すリナリーに、コムイはゆるりと頬をほころばす。
天の助けと、盛大に云わんばかりに。

「 じゃないと私、兄さんを蹴飛ばすわよ。」
人知れず、自身のイノセンスである黒い靴を発動させ、蹴りの前のモーションに入っていたリナリーはそれでも笑顔を絶やさない。黒い影がチラチラと見え隠れする、その可愛い笑顔を。
それを見た瞬間。その場に居る男性人が、凍てついた笑顔を浮かべるのは自然の理というものだろう。
しかし若干一名、笑いもしない人も居るが。
「 コムイ、へらへら笑ってねぇでさっさと答えろ。
 俺達を集めた上まで呼び出して、なんでもないとは云わせねぇぜ。」
苛苛とした声音で、神田はコムイに詰め寄る。
右手に六幻を下げ、さっさと理由を話せ、と。
さんはそんなに強い方なんですか?」
「 お前は黙ってろモヤシ。」
怖い方なんですかと云いたいところをぐっと堪え強いと云い換えた、当然の質問をしたアレンに神田は苛立ちの統べてをぶつける様に吐き捨てる。
そして自然の流れで、なんですかと声を荒げるアレンに話が進まねぇんだよと神田は斬り捨てた。
が、このやり取りこそが不毛ではなかろうかと。
「 コムイ室長、好い加減にして下さいよ。貴方の気まぐれでこれだけの人間が迷惑を被ってるんですよ?」
「 なんて事を云うんだいリーバーくん!ボクは――」
「 御託は如何でも良い。
 コムイ以外は口を開くなコムイは説明の為だけに口を開け。」
盛大な溜め息を吐きながら腰に両手を当てるリーバーに対して大げさにリアクションを取るコムイに、とうとう我慢ならなくなったのかが鎖していたその口を開いた。
低く、声だけで斬られてしまいそうなその鋭い雰囲気を纏い。
そういやさっきから俺、なんも喋ってねぇさと云いたげなラビは、の気迫に圧され口を噤んだまま居る。
それは相当に賢明な考えだ。
くん怖――」
「 風穴開けられたい?」
「 ――――はーい、それじゃ説明するねぇ。」
おどけようとするコムイに重く凄み、一言だけで先へと進めさせる。
渋々と、それでも何処か怯えた色を帯びたコムイは、今度こそ本当に事の真意を話し始めた。

「 さっき軽く説明した通り
 リナリー、アレンくん、ラビ、神田くんの4人にはスコットランド北部のミザリー村の奇怪にあたってもらう事にしたんだ。
 神隠しと融けない雪の謎を解明してもらう為にね。ここまでで質問は?」
眼鏡をかけ直す仕草を見せ、コムイは6名を見渡す。
誰もがの鬼迫に押し黙っている中、果敢にもアレンが口を開く。
が、それは音が出される前にの声によって殺されてしまうのだ。
今、この部屋を支配しているのは、コムイでも他の誰でもないなのだから。
「 若いエクソシストばかり4名も選び出したその意は何?わざわざブックマンJr.まで呼び出して。」
俺の事知ってんの、と驚くラビはそれでも声は出さず。
視線の先をコムイへと注ぐ。
「 若い子達のレベルアップの為に、ね。特に連係プレイの会得と訓練をと思って。」
「 へーえ。」
にこっと笑ってみせるコムイに返されるのは、鋭い睨みと乾き漏れた声。
「 疑っているのかい?」
ほろりと泣いてみせ返すコムイに、は静かにいいやと否定のそれを送る。
先を、見据えた様にコムイを見つめ。
「 それで……もう判ってくれているだろうけど、くんにはこの4人の―――」
「 断る。」
総てを云い終える前に、一言冷たくそう突きつけられる。

が、はいそうですかとすんなり受け入れる程コムイは寛大な人柄でも無く。
「 キミに拒否権は無いんだよ。」
そう楽しげに返すのだ。今までのお返しだと云わんばかりの笑みで。
ぴくりと眉を動かし、は盛大に溜め息をついて次の言葉を述べる。
「 嫌がらせか?コムイ。
 こーんな若い子達の中、みんな10代だよ?私以外みんな10代なんだよ!?
 そんな中に私を入れる気?嫌がらせ以外のなにものでもないじゃん。私に若さをあてつける気なんだろ!
 ボクの可愛い妹はキミと違ってピッチピチの10代ですって云いたいんだろこのシスコン!」

今まで周りを支配していたピリピリと張り詰めたした空気など何処吹く風。
ぎゃあぎゃあと効果音がつきそうな軽い言葉が弾丸の様に吐き出された。
目にうっすらといつの間にやら溜められた涙は、眠たさのそれかはたまた否か。
云っている本人は、至極真面目なのだが。一応は。
それでもがらりと変えられた空気についてこれない面々は、鳩が豆鉄砲を食らったかの様な顔でコムイとを見つめる。

「 シスコ……!言葉には気をつけたまえよくん!
 これはもう決定事項なんだよ今更覆せないね。例え覆せたとしてももう覆さないよ!!」
「 私的な感情を任務に持ち込まないでよ貴方室長でしょ!?」
「 それを云えば私的な感情を持ち込んでるのはくんの方じゃないか!」
「 コムイが謀るから!」
「 ボクはそんな事微塵も考えてないよ!
 若い子達だけじゃ心許ないから、任せられる安心できるくんに――」
「 ほらー!今云ったじゃん若い子達だけじゃ心配だからって。
 それは暗にお前は若くないって云ってるんでしょこの下衆!引き受けない、引き受けないよ私はこんな任務!
 それに眠いのよ物凄く。誰かさんに眠りを妨げられたお・か・げ・で!」
「 眠いのはボクだって一緒だよ!
 それにくんは充分若いよ。年齢に似つかわしくない強さを兼ね備えてるからお願いしてるだけだって!
 って云うか今下衆って云った!?ねぇ、下衆って云ったよねそれ誰に向かって云ってるの!?」





 若さってなんだ。






薄暗い教団の長い廊下。
不貞腐れた顔のと憔悴しきった顔のリーバーが並んで歩いている。

結局あの後、コムイをリナリーが、を神田とリーバーが死に物狂いで止めるまで、低レベルなのか如何なのかと云った2人の不毛なやり取りは数分続いていた。
最終的にコムイをリナリーが発動させた黒い靴で蹴り飛ばし気絶させ、怒り昂ったをなんとか神田とリーバーがなだめおさめ準備の為にと一旦お開きとなったのだった。
薄暗い教団の廊下を歩く2人は、口を開く事もせず唯黙々と歩を進めて行く。

「 コムイの野郎……帰ってきたら覚えてやがれ。」
不意にボソと呟いたの言葉は静かな廊下に能く響き、隣を歩くリーバーへと届く。
「 諦めろって。
 云い出したら、聞かないだろあの人。」
はぁと溜め息を吐き出し隣を歩くの肩を抱き寄せるリーバーの声音は、その言葉の通り諦めの色一色である。
急な事についていけないのか、バランスを少し崩したの眼は点、だ。
それを知ってか知らずかリーバーは前へと動かしていた足を止め、見上げる恋人の少し間の抜けた顔を見つめる。
肩を抱く逆の手で自身の髪を掻きながら。
「 ……眠い。」
「 それは本当に悪かったと思ってる。
 が任務に行ってる間、室長が眠らないよう見張ってるから。」
機嫌を直してくれと、の髪に指を絡ませリーバーは優しく囁く。

こういう、何気ない優しさと気配りに、少しずつではあるが気を良くしたのか、はリーバーの胸に眠たげなその顔を埋めた。
「 やっと帰って来て逢えたのに……やっぱり帰ってきたら、コムイをシメる。」
「 気持ちはありがたいし判るけど、仕事が進まなくなるからやめてくれ。」
ポツポツと顔を埋めたまま話すに、乾いた笑いを返して髪を梳く。
細い肩を抱きしめる手に力を加え。
きゅ、とリーバーの背中に腕を回しは抱きつく。きつく、離れない様にと。
「 ……庇うの?」
「 庇うかよあんな人。」
恨めしそうな声音に、少し怒気を含ませた声を返し髪を梳いていた手を止めリーバーも強く抱きしめる。
少しも離さない様にと。
「 さっさと終わらせてすぐ帰ってくる。」
「 判った。けど無茶はすんなよ。」
「 そんでもって休みもぎ取る。2人分。」
「 ……俺も協力する。」
顔を上げ見つめてくるに優しく笑って、リーバーはこつりと額を当てる。の頬に両手を沿え、自分とのそれを。

リナリーを人質に脅してでももぎ取ると謳うを、リーバーは強く抱きしめる。
数分後には亦別れが訪れる事を知っているから。
強く、強く抱きしめる。

再び逢えるその時を想い。