探しものは見つかったか?






「翔……。」


風呂から上がったら親父と会うた。

会うた云うか、遭うたのが正しい。
こんなクソの様な人間の面なんか見とうない。そう思てここ最近ずっと避けてた。
久しぶりに早い時間に風呂に入ったもんやから、遭うてもうたんやろう。慣れん事はせんもんやな。

暫く互いに突っ立っとったけど、いつまでも眺めてたい面でもないし視線をズラして横を通り抜ける。


これからどうしよか。
亦いつもみたいに春の家にでも行くか、それとも部屋で寝るか。



「探しものは見つかったか?」


そんなどうでもええ事を考えてたら、親父が何か云うてきたのが後ろから聞こえた。
何の事か判らんし、相手すんのも面倒臭い思て無視してそのまま歩く。


「あちらさんの迷惑になる。
 好い加減よさないか。」


そんな言葉が聞こえた。



あー、そうか。何が云いたいんか、能う判ったわ。
でもアンタには何も関係あらへんやろ。


「翔、聞いているのか!?」

言葉と同時にガッと肩を掴まれて振り向かされた。
なんやねん、鬱陶しいな。アンタが視界ン中に入んのも胸糞悪いのに。


「知るか。アンタには関係ないやろ。」

バシッ



左頬をおもっくそはたかれた。
頭からかけてたタオルも落ちたし、ズラしてた視線が更にズレて、ちょっと開いたまんまの洗面所のドアが見えた。

「父親に向かってアンタとはなんや、アンタとは!」


怒鳴られてる。
あーもー、めっちゃ五月蠅い。しかも関西弁になってるし。

なにが父親やねん。


「其れに人の目くらい見――」
「黙れや。」


そんなに目ぇ見て欲しいんか。そんなに目ぇ見て喋って欲しいんか。

ほんならお前は今まで俺の目ぇ見て何か喋った事、あったんかい。



「眠たいねん。離して?」
掴んでた手を払って、落ちたタオルを拾う。


なんか判らんけど、今の俺妙に冷静やわ。頭に血ものぼらんし口調も変わらん。
なんかちょっと、オカシイ。


「翔、これ以上妙な肩入れは止めぇ。
 同情だけで何が出来んねん。
 其れにこれはもう、書類の上でも決まった事なんや。
 せやから翔、お前にはもうなんも出来ひんねん。
 それに――」
「黙れクソボケがっ!」

「ッ!?」


気付いたら親父の胸倉両手で掴んで啖呵切ってた。


「黙って指くわえて、みすみす持ってかれる様なアンタとはちゃう!
 俺は俺のやり方でアイツを守るだけや!
 同情やない。そんな安っぽい感情なんかやない。
 なんでもかんでも俺の総てを否定すんなや!」

ドンッッ



狭い廊下に俺の怒声と低い音が響いてる。

そこまで云い切ってやっと我に返った。
ああ、なんで俺こんな事云うたんやろ。折角冷静にかわしてたのに。

バツが悪くて、手を離して目を逸らした。


あかん、やっぱなんか変やわ、俺。



「……翔。」
乱れた胸元を正す様な音が聞こえた。


いやや、なんか。なんかめっちゃ気分悪い。

「ちゃんと最後まで話をききなさい。」


「五月蠅い、その名前で呼ぶな。」

鉛で殴られたみたいに、頭が重い。


「その名前で呼んでええのはアイツとオカンだけや。
 吐き気がする。」



笑いが漏れた。嘲笑めいた笑いが。


「翔!?」





後ろでなんか叫んでる様な気がするけど、知らん。



頭が重いんも、眼が熱いんも、胸が痛いんも、全部知らん。






















□設定■


翔=諸星 翔也
この時16歳。

親父=諸星 和美
即効で考えた名前。カズミと読みます。
この時39歳。

翔也が中3の夏の話。
アイツというのは三月嬢の事です。
父親が冷静でいれば翔也が血気し、父親が血気すれば翔也は冷静でいる。
そんな対比です。
すいません、勢いで書いたので後付けですね。



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