未だ傍に居て欲しいんだけど……






「あー……咽喉痛い………。」

そう云って缶コーラを飲み干す金髪ピアスの阿呆が1匹、僕の眼の前に居る。

「炭酸ばっかり飲んでるからじゃないの?」
日誌にペンを走らせながら、そう吐き捨ててやった。


「……。
 酷いなぁ、ホンマに。
 こういう時は普通、『大丈夫?風邪でもひいたんじゃないの?無理しないで、早く部屋に帰――」
「なんとかは風邪引かないって云うじゃん。」

パタン。

日誌を閉じる音だけが、2人きりの教室内を支配した。


「酷いなぁ、ホンマに。
 こういう時は普通、最後まで云わしてやるもんやで。」
金髪ピアスの阿呆が1匹、恨めしそうにこちらを睨みながらそう云ってる。

僕はペンを筆箱に入れ、下敷きと共に鞄へと仕舞った。

「五月蠅いな。
 ほら、帰るよ。」

椅子から立ち上がり、鞄と日誌を手にしてドアへと歩く。
途中、吊り下げられている教室の鍵も持って。


「はいはい。」

溜め息と共に吐き出された言葉。
面倒臭そうにしてるけど、ちゃんと僕の後をついてくる。
日誌と鍵を職員室に持っていくときも、僕の後を3歩遅れて。
コイツ、日直じゃないのに。
そもそもクラスも学年も違うのに。と ん だ 暇 人 だ な 。



「なぁ。」

そんな事を思っていると、不意に後ろから声が飛んできた。

「のどあめなんて持ってないよ。」
振り向きもせず、答える。

「ちゃうて。
 なんか今日、寒ない?めっちゃこう……ゾクゾクすんねん。
 今日ってこんなに寒かったっけ?」
と、いつの間にか隣で話している。

「そうか?別に寒くは無いけど……。
 あ、もしかして本当に風邪引いたとか?
 うわ、だとしたら近寄んな、向こう行け。」
そう云いながら少し離れて歩く。

「あー。ホンマに酷過ぎる。
 もーアカン。死ならば諸共。」
「ぅあっ!?
 ッてめ、近寄んなっつか抱きつくな!」

ドフッ



「うっ……痛……寒……。」


そのまま放置して寮の自室へ帰った。







「えーっと、確かこの辺りにあった筈なんだけどー……。」

――チャンチャンチャン チャンチャンチャン ♪


「……こんな時間になんだよ。」

携帯電話が鳴った。
あの阿呆からのメールだ。

 カチャ カタカタカタ


『頭痛くて寒い。』



阿呆だ。救いようの無い阿呆だ。

頭痛くて寒かったら、布団に包まって寝てりゃいいのに。
何メール送ってきてんだよ、と。


『寝てろド阿呆めが。』


そう送ってベッドに携帯電話を放り投げた。

「うーん……可笑しいなぁ、どこやったんだろう?
 この辺りの筈なのに――」

――ピロピロピロピロ ピロピロピロピ

「五月蠅い、寝てろ。」

煩く鳴ってる携帯電話を鷲掴み、開口一番こう怒鳴った。
向こうは少し黙ってた。

「……三月ぃ。
 頭痛いぃ、寒いぃ、あっため――」
「黙れこの下郎め。」

携帯電話片手に探し物を続ける。

「酷い……。
 じゃあせめて、薬持ってきてくれん?」
少し辛そうな声で、そう云ってきた。

「はぁ?薬くらいあるだろ?
 それに正さんだって居るだろうに。」
厭きれた。何考えてんだこの阿呆は。

「今日マサはおらんねん。
 因みに薬はマサが持ってってる〜。」

えっ、正さん居ないの?って事は今コイツ独り?


「三月ちゃーん?返事は〜?」

「え?あ、ああ……判った。
 薬持って行くから、布団の中でじっとして待ってろ。
 じゃあね。」

 プツ  カチャ



はぁ。
アイツ、本当に風邪引いたのかよ。全く。

カタカタン

しょうがないなぁ。






 カラカラカラ
「おーい、薬持ってきてやったよー。」

カラリと窓を開け、そこからむぞむぞと中に上がり込む。
金髪の阿呆は大人しく、布団の中で寝転がっていた。


「あ……あぁ、ありがとう。」
そう云ってむくりと起き上がり、僕の方へと向く。
驚いた様子は全く無い。

「よいひょっ、と。

 はい、薬。」

ずいと薬とミネラルウォーターを差し出す。
金髪の阿呆はそれを無言で受け取り、体内へと入れる。


「あ。
 こんなとこにあった。あー、そういや貸してたんだっけ。」
ずっと探していたCDが、机の上に静かに置かれていた。


「んー?あー、あぁ。」

ボーっとした声が返ってきた。
能く見ると、顔が少し熱っぽい。
熱風邪かよ。


「んじゃ、ここに置いとくから。静かに寝てなよ?
 なんかあったらまぁ、電話しといで。」
椅子を引いてベッド横に置いて、その上に薬とミネラルウォーターを置く。

「はい、おやすみ。」
ぽんぽんと頭を撫でて寝る様に促す。
身体を反転させ、入ってきた窓へと足を出した。


「え?」

手が引っ張られた。
振り向くと、俯いたまま僕の手を掴んでいる。


「翔?」

声をかけても、顔を上げない。
手を振っても、放さない。

おーい、どうした。

「どうした?しんどい?」
顔色を見る為、ベッド横にしゃがみ込んだ。
次の瞬間。


「未だ傍に居て欲しいんやけど……。」

熱で虚ろになった眼で。
その眼を僕へと向けて。
そう云ってきた。


「え?あ……う、うん、大丈夫。判った。」
ぎこちない。この上なくぎこちない返事だ。


「判ったから、取り敢えず寝なさい。ね。」
そう云って僕は翔を寝かしつける。



……変だ。
なんか、凄く変な気分だ。


「三月……。」
「はい!?あ、大丈夫。
 ほら、明日休みだし、今日はずっとついてるから。
 だか、ら……安心して、うん、さっさと寝なさい。」

やっぱりぎこちない。
顔もきっと、引きつってる。
良かった、暗くて。


「……おやすみ。」
ボソリと、そう云われた。


「――うん、おやすみ。」

返す言葉も、どこかぎこちない。

そう云えば、未だ手は繋がれたままだった。

























設定:

なんだか能く判らない。
書き始めたらこんな感じになった。
久しぶりのお題。リハビリにはなったのか、如何か。










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