星が綺麗だな〜
『寮の屋上で寝転がってる。』
そんな簡潔な文章が、煩く光る液晶画面に浮かび上がってる。
『今なにしてんの?』
なんとなく、アイツの声が聞きたくなって。暇してんねんやったら電話でもしようかと思って。
相手の様子を伺う為に送ったメールに、意外な言葉が返ってきた。
"寝転がってる"は――うん、暇してるんやろうと判る。これはアリや。
問題は――"屋上で"――こっちや。
今は11月の下旬。しかも22時を過ぎてる。
昼間はまぁ、未だあったかい日もあるけど、朝夕は流石にもう寒い。
更に今日は"12月下旬並みの寒さ"とかってテレビのお天気お姉さんが云うてた。
そんな寒空の下、あの阿呆はなにをしとんねん。風邪でもひいたらどないすんねん!?
『阿呆か。なにをしとんねん。』
片手でカタカタと携帯電話を弄ってメールを送信しつつ、外に出る用意をする。
嗚呼、ホンマ。
俺ってどんだけ、狂ってんねやろ。
こんな寒い夜に、外で寝転がってるような莫迦に。どんだけ惚れてんねやろ。
阿呆らしいと思いつつも、そんなアイツの行動に頬緩めとる。
イソイソと、外掛け着てマフラー巻いて手袋はめて、ポケットに携帯電話突っ込んで。
「出かける準備して、何処行くんだよ今から。亦無断外泊とか云うんじゃないだろうな?」
振り返ると、ジャージにトレーナー、躯に湯気を纏っている男が。
「風呂上り開口一番がイヤミかい、マサ。」
偶に――周りからはいつもと云われるが――無断外泊をしている身としては、反論の余地は何処にもない。
此れが精一杯の抵抗。ついつい苦笑いがもれてまう。
「毎回、お前が無断外泊する度に理由付けしてやってるんだから、厭味の一つも云わせてくれ。
――で?今日も泊まってくるのか?」
「いや、今日は帰ってくるよ、ちゃんと。」
最初の頃は、外泊する度に怒られとったけど、好い加減飽きられたのか、今ではこの有様で。
お堅い奴かと思っとったらキテンの利く柔らかい奴で助かってます。
まぁ、口が裂けても礼なんか云わんけど、ホンマに感謝はしてんねんで?ありがとうな、マサ。
「その笑顔が怪しいんだけどな。」
風邪ひくなよ――と付け加え、笑って見送ってくれるルームメイトを背中に。俺も寒空の下に曝される。
「うわっ――ホンマに寒ぅ……。
こんな中屋上で寝転がってるとか、ホンマ阿呆や。なにやっとんねんあのお嬢さんは。」
吐く息総てが白く消えていく。耳も斬れそうな位痛い。
ああ……さっきまでのぬくい部屋が、恋しい。
――テレテテ テレテテ テレテテ テレテテ♪――
外掛けの右ポケットからアイツの指定着信音がこぼれてくる。
『寮の屋上で寝転がってる(再編集)。大丈夫、毛布にくるまってるからv』
(ハート)vってすんねやったら、絵文字使えばええやんか!同じ会社の携帯電話やねんから!!
っていう突っ込みを入れてまうねんな、関西人は。
毛布に包まってるって云われても……いやいや、この気温では毛布だけでは防がれへんやろって云うな。寒い。色んな意味で、寒い。
カタカタと幾つかのボタンを押して、ふと手を止める。
「んー……。」
あー、どうしよう、なんて書こう、なんて打とう、なんて送ろう。
突っ込み?さっき思ったみたいな突っ込みメール?
いやー、違う。……なんか違うねんな。うん、違う。
『ジジッジッ――』
行き成り右の方から光が差し込んできた。
……え!?もしかしてミスター・ポリスメンですか!!?
って思ったら、唯の自販機かよ。焦るやん。ホンマにビビッたって。
ったく、自販機って無駄に明るいよなぁ。夜に見る自販機の光って、なんか苦手やねんなぁ。なんでやろ……。
自販機。
――チャンチャンチャン チャンチャンチャン♪――
「"さくら"かよ!!」
扉の向こうから聞こえてきた携帯電話の着信音に、ついつい突っ込みを叫び入れてしまった。
云ってしまった後に、"しまった"と思ってももう遅いっちゅーねん。
ほら、コツコツとこっちに近づいてくる足音が。ああ、怒られるー……。
「こんな所で何やってんだ。テメェはエロ河童か、ああ゛?」
扉が開かれると同時に、この罵声。嗚呼、相変わらずやなぁーなんて頬緩めてる場合やない。
「痛い、痛い痛い!!脛こつくのは小さく痛いからアカンて!」
目の前に居る綺麗な娘さんの右手を掴んで、取り敢えず止めるように促す。
「そんな小さく痛い攻撃を受ける様な事してんのは何処のどいつだ?あ゛あ゛ん゛?」
「いやいやまぁまぁ、苛苛にはカルシウムを。ホットミルクココアでも飲んで落ち着いて下さいませ。」
未だ目が据わってないからそんなに怒ってないけど……怒った顔も亦可愛いなぁ、なんて云ったら確実にボディー喰らうよな。うん。黙っとこう。それが得策。やな。
少し大きな目で睨み付けながら、俺が差し出した缶ココアを受け取る。
あー……めっちゃ可愛い、めっちゃ抱きしめたい今すぐ抱きしめたい!!
「何考えてんの?」
――っ!?
「えっ、あっはい?」
うわっ、ヤバッ。めっちゃ動揺してしもた。ヤバい、邪な事考えてたんバレた?っつーか勘良すぎですよお嬢さん!!
「……なに、やっぱりそういうえちぃ事の為に女子寮に来たの?何必死ですか?」
わーー!!!!!!
「やややや、違う!違う!断じて違うぞ!違いますですぞ!!」
「何必死だ。ったく。……良いよ、云い訳くらい聞いてやるから。
ほら、何時まで其処に突っ立ってんの?一枚しかないけど、良ければどうぞ?」
コツコツと一直線に毛布が置き去りにされている所まで歩いていって、毛布を拾い上げ、こっちに振り返る。
全く以ってして、一つ一つの仕草が綺麗と云うか、目を引くというか。惚れた弱味ってヤツですか?
「え?あ、ああ……じゃ、失礼します……。」
なに敬語だ、俺。
『カシャカシャカシャ――プシッ』
顔一つ崩さんと、缶のプルタブを起こす。綺麗やねんけど、なに考えてるかサッパリ判らんな。
"エロ河童が"とか罵ってたくせに、隣に座らせて一枚の毛布で一緒に包まってるとか。
いやまぁ、十数センチという微妙な間はあるけど。あるけど。あるけどっっくぅっ!!
「で。」
うわっ、近いって。顔近いって。そんな上目遣いで見る(睨む)なって。きゃー、お兄さん照れちゃうv
「わざわざ何しに来たの?こんなクソ寒い所に。土産まで持参して。」
両手でココア持って、亦正面見つめ直す。
っくあー!可愛いよなぁ!この間を詰めて今すぐ抱きつきたい!!
「こら。」
「ひひゃ!?」
――……そんな真っ直ぐ見つめんといてくれる?その綺麗な瞳で見つめられると、正気保てられんようになるやん――
「さっきから何黙りこくってるの?ほら、こんなにほっぺた冷えてるじゃん!」
人の頬むにむにしてなにしてんのかと思ったら、それが云いたかったんかい。
「こーんなに冷えてるじゃん。何考えてるの?大丈夫?色んな意味で大丈夫デスカー?」
最後の言葉、いらねー。
「あーもー。誰かさんが予想だにしない行動取るから。毛布一つしかないのに。あー、さむ。寒い。」
……心なしか頬抓ってる指に力入ってへんか?
「寒いんだから。風邪ひいたら、お互い困るでしょ?」
――はい?
『むにゅ』
――はい!?
「人間湯たんぽだよ。翔が、僕の・ね。」
……はいぃ!?
「あー……多少はあったかい・かな。」
いやいやいやいや。落ち着け、落ち着け。取り敢えず落ち着け俺。
此れは夢?否、自分で左頬抓って痛いから夢ぢゃない。と云うか、夢の中で夢とか思わんか、そもそも。
えーと……取り敢えず、状況把握や。
俺の隣には凍季也が居って。うん。さっきまで十数センチの間があって。うん。
俺の右腕に凍季也の左腕が絡められてて。うん。ほんでほんのりと胸があたってて。うんうん。
つまりこれって。
めっちゃ美味しいシチュエーションやん!!
なに、此れは誘われてるんちゃう!?
「ふう。で、ショーヤ君よ。キミは何しに此処へ来なすったよ?」
え、何、普通に亦その質問にくるの?
「いやー……なにって別に……メールしたら屋上で寝転がってるって返事きたから……。」
うん、気になって。
「えっ――それだけ?」
「ああ、せや。」
「それだけで此処に来たの?」
「ああ、せや。」
「――阿呆?」
「お前がな。」
今度は俺が頬抓ってやるわ。左手で。
「ひはふ、ほふふぁふぁほひゃひゃひひょ!」
あかん、めちゃ可愛いって。
「あはははは!あかん、なに云ってるか全然判らん!」
「ははうふぁ!はふぁへぇー!!」
「あはははははは!ああ、アカンて暴れたら。ココアこぼすから。」
ぐいっと、ココアを持ってる凍季也の右手を掴む。頬から指を放して。
「僕は阿呆じゃないよ……。」
「いや、阿呆やろ。こんなクソ寒いのに外で寝転がってるとか。」
「いや、阿呆じゃない。」
そんな、きっぱりはっきりと。
「だって……。」
……。
「だって、なに?」
「部屋の窓から見えた月が、あまりにも綺麗だったから外出てみて。
そしたら、存外星が綺麗だなぁ〜と思って。」
「存外?」
「喰い付くとこソコ違ウ。」
「いだだだだだ!!すまっ……痛っ太もも抓るな痛いがな!!」
なんて、ジャレ合うのも何年ぶりやろか。
いや、でも本当に痛いんで止めて下さいお願いします。
――テン テンテテン テテテテテンテテンテン♪――
……
――テン テンテーテテン テテテテン♪――
………
――チャーチャーラ チャーチャーラ チャラララチャーララー♪――
…………
「あのー……携帯電話が鳴り続けてますけど?」
「うん、知ってる。」
いやいや、違うがな。『うん、知ってる。』って遠い目して云うとこちゃうがな。
「出やんでいいの?」
「んー、メールだし。」
へー、誰からの?
「メールやったら放っといてもえーの?」
「うん、後で返せば大丈夫でしょ。どうせ急ぎの内容でもないだろうし。」
ふうん……。
「電話やったら、出る?」
「ん?さー、どうだろ?
今は……こうして空見てたいし、出ないかな?――うん、出ないな。」
ヲイヲイ。
「あ、じゃあさぁ。」
「何?」
うん。
「なんで俺からのメールには返事くれたん?」
この後は皆様の脳内補完でお願いします。ワロテ。
設定:
語り手=諸星 翔也。
金髪。三月大好き。
三月からのメール指定着信音はFF6のセッツァーのテーマ。
阿呆=三月 凍季也。
女の子。結構破天荒。
翔也からのメール指定着信音はさくら。
もう一つの音はFF6の魔列車のテーマ。