大丈夫!!大丈夫だから…
――空はとても高くて どこまでも碧くて――
数人の男女が、とある寮の前に集まっている。
時刻は午前6時30分。未だ幾分肌寒く感じられる時間帯。
「……寒い……。」
長く綺麗な黒髪から覗く端整な顔立ちの男性が、そう呟く。
「本当に寒いですねぇ……。」
濃い栗色の長髪の少女がそう答える。
「寒いな。」
「寒いね。」
「寒いねー。」
口々にそう吐き出す。
「……寒いのは判ってますから……。
凍季也、翔也先輩たちは?」
そう、赤茶色の長い髪を揺らしながら、少年は口を開く。
「ちょっと時緒。なんで僕に聞くのさ?」
少し怒った様子で、濃い栗色の長髪の少女――凍季也は答える。
「いや、凍季也なら判るかなーと思って。」
あはは、と赤茶色の長い髪をゆらして少年――時緒は笑う。
「識らない。――どうせ寝坊でもして正サンを困らせてるんじゃないの?」
ツッケンドンな態度で一蹴する。
「寒い。」
もう我慢ならないと云った様な顔付きで、一際大きな声を出したのは、先程も同じ言葉を発した人物だった。
「瑠璃……。」
寒いと発した人物とそっくりな顔をしたもう一人が、そう言葉を掛ける。
「寒いのは皆同じなんだから、そんな怖い顔しないでよ。
怖がってるじゃん、皆!!」
そう諭す。
「いえ、瑪瑙先輩、瑠璃さんを責めないで下さい。」
一呼吸置いて、凍季也がそう告げる。
「6時半に集合って云っておいたのに、寝坊かなんかで遅れてくるあの莫迦が悪いんですから。」
にっこりと微笑みながら毒を振りまく。
「三月っち……怖いよ……。」
ウルフカットの少年がぼそっと呟く。
「ごめんねー、遅れちゃって!」
息を切らせながら黒い短髪の男性が駆け寄ってくる。
後ろに、金髪の男性を引き連れて・
「遅いよ、正人〜。」
「いやー、ごめんごめん。
コイツが起きなくてさ。」
ぐいっと、後ろに居た金髪の男性を引っ張り出す。
「……ホンマスンマセン。寝坊しました。」
ペコリとこうべを垂れて謝罪を述べる。
そこへ、つかつかと凍季也が近づく。
「……な……?」
ドフッッ――
「それじゃあ、行きますか♪」
綺麗に鳩尾にニーを決め、ご満悦そうに云い放つ。
「おう、じゃあ行くか。」
瑠璃と呼ばれる男性が答え、一行はぞろぞろと駅へ歩いていく。
「舞浜〜、舞浜で〜ございます。
お降りのお客様は、お忘れ物のないようお気をつけ下さいませ。」
車掌のアナウンスが流れ、電車の扉が開く。
未だ早い時間だと云うのに、以外に多くの人々が降りる。
ここは――
「夢の舞浜で可愛いネズミと戯れ〜♪」
「……やけにノリノリやん。そんな嬉しい事か?こんな朝っぱ」
翔也がぼやこうとした瞬間。
「らうっ!!!!!」
「皆のテンション下げるような事云うなよ翔。」
ふしゅうぅーと闘気を背負い、凍季也が云い放つ。長い髪がメデューサのヘビの様に風になびく。
「まぁ、そんなやる気のないやつは駅に置いて行こう。」
つかつかと先陣を斬って正人と瑠璃が歩いて行く。
其の後に、凍季也、時緒、瑪瑙、ウルフカットの少年、帽子を目深にかぶった少年と続く。
「え……いや、ちょ……俺も行くって。行きますよ!」
翔也が走って後を追う。
「さてとう。何から乗りますかィ!?」
嬉しそうにマップを広げる凍季也。
「取り敢えず俺、ジャングル・クルーズのお兄さんと遊びたい。」
其の後ろから、時緒がマップを指差しながら口を挟む。
「ジャングル・クルーズぢゃなくて、そのお兄さんと遊ぶ事が目的かよ!?」
くすくすと笑いながら突っ込む。
「……あの2人があんなに楽しそうにはしゃいでるの、初めて見たかも……。」
少し離れた所で、ウルフカットの少年が呟く。
「しょうがないだろ。なんてったて此処は"夢の舞浜"だからな。」
「いや、それを云うなら"夢の国"でしょ。変なトコ強調しないでよ、響。」
「いやほら、さっき三月がそう歌ってたから。
それより、乗りたいモノとかあるのか?」
父が優しく包み込むかのように、目深に帽子をかぶった響と呼ばれる少年が、ウルフカットの少年に問いかける。
「まぁ、あるケド、それより今回は三月っちに楽しんでもらいたいから。
初めてだって云ってたじゃん。記憶に残ってる限りは。」
伏せ目がちに、そっと云う。
「あぁ。珍しいよな、ずっと関東に住んでて来るのが2度目なんてな。」
ポンと、ウルフカットの少年の頭を優しく撫でる。
「いおりー!いおりは何処行きたいー?」
凍季也が振り向き、少し大きな声でそう問いかける。
「ほら、呼んでるぞ。行って来い。」
ポン、とウルフカットの少年――いおりの背中を押し出してやる。
「うん!響も一緒にね♪」
ぐいっと腕を引っ張り、凍季也たちの元へと走り寄る。
「あのねー、時緒が『ジャングル・クルーズのお兄さんと遊びたい』って云ってるんだけどさぁ。」
「嗚呼、あの出発の時に『後ろの人達に手を振りましょう〜。はーい、誰も見てませんねぇ。』とかってやつ?」
「そーそー。昔それで阿呆みたく振ってたら、後ろの後ろのボートのお兄さんだけが、俺らが見えなくなるまでずっと振っててくれてたのが凄い印象に残っててさー。」
「へぇ、そんな事が。ノリの良い人も居るんだぁ。」
「向こうで1年生達が盛り上がってるけど……?」
瑪瑙が恨めしそうに指差して云う。
「若いって良いねぇ。」
瑠璃が頷く。
「いやー、三月ちゃんが楽しそうだから、それで良いんじゃないの?ねぇ?」
正人が翔也に振る。
「あー……ええんちゃう?」
スタスタと、1年の集まり目掛けて歩き出す。
「……。」
「やっぱり悔しいんだ。」
「らしくて良いんじゃない?」
ソロソロとジャングル・クルーズを目指して歩いていく。
「今回のお兄さんも良かったなー。」
「カップル客もノリが良ければモアベターだった。」
「なにより、カモが可愛かった……vv」
「いや、三月っち……それ違うんじゃ……。」
「お兄さん達、エスコートもしてくれたもんねぇ。」
チラッと翔也をみつつ、くすりと瑠璃が笑う。
「で?次は何乗りたい?」
其の微笑を遮る様に正人が慌てて云う。
「スペース・マウンテン。」
きぱっと云い放つ。
「スペース・マウンテン?まぁ、翔が行きたいって云うなら別に良いけど……。」
少し驚いた様子で凍季也が返す。
「ほな行くで。」
凍季也の服の裾を引っ張って、スタスタと歩き出す。
「なっ……とと……。
ところで、スペース・マウンテンって何?」
少しよろめきつつ、凍季也が問う。
「何って、絶叫系の乗りモンやけど。」
「無理!!」
突然、大声を上げて歩みを止める凍季也。
「……は?何をいきなり――。」
「生まれてこの方、絶叫系なんてバイキング、しかも回転しないヤツしか乗った事ないもん!!
だから乗らない!!!」
「……いやいや、お嬢さん落ち着きなはれ。」
一瞬、呆気にとたれたが、なんとかなだめようとする。
「そうそう。絶叫って云っても、回転はなく、唯上の方から下の方に行くだけだし。」
「ヤダ。乗らない。
だって怖いもん。」
子供の様に駄々をこねようとする。
「いーから、いーから。」
あーだこーだと云い包め、腕を引っ張りずるずると連れ出す。
「いーやー!!酔うもん!!乗ったら高確率で酔うー!!!」
なんとか拒もうとするものの、男に力で敵う筈もなく、ズルズルとスペース・マウンテンの前までつれて来られる。
「ったく……。
あぁもう、大丈夫!大丈夫やから……。落ちて痛い目には合わんて。」
肩に両手をガシッと乗せて、真顔で詰め寄る。
「酔う以前の安全性が疑われんじゃん、落ちたりしたら!
だから、怖いからやなんだってばぁ……。」
云い終わる前に翔也に引きずられスペース・マウンテンの中へと消えていった。
「……ボケとツッコミの良いコンビ?」
「男女の関係には程遠いねぇ……。」
「意外な一面を見た気がする――。」
ポツリポツリと思い思いの言葉を吐きつつ、続いてスペース・マウンテンの中へと入っていく。
「………………軽く酔った………。」
ぐったりと、翔也に支えられて、憔悴しきった様子の凍季也が見える。
「いや、ホンマすまん……まさかアレで酔うとは思わんくて……。」
心配そうに、翔也が謝る。
「なんかクラクラする……。」
静かにベンチに座らされる。
「大丈夫?」
「冷たい物でも持ってこようか?」
心配そうに見つめる面々。
「ま!なってしまったものは仕方ない。ゆっくり休んで体調戻しな。
じゃ、俺らは行きますか。」
唐突に瑠璃がそう放つ。
「えぇ、そうですね……。皆さんは楽しんでください……直ぐ追いかけます、コイツと。」
隣に座る翔也の腕を取り、ふらふらと元気なさげに振る。
「……。」
「ま、そう云うなら。」
「うん、じゃあ亦後で。」
「しっかり助けろよ。」
云々、去っていく一行。
「……ごめん、ホンマ。」
ベンチに2人残されて、翔也が凍季也の顔を覗き込み、申し訳なさそうにもう一度謝る。
「全く。本当だね。」
俯いたまま、翔也のほっぺたをギリッと摘む。
「……っ、ごめん……。」
沈黙が木霊する。
「申し訳なく思ってる?」
「思ってる。」
「本当に?」
「本当に。」
「んじゃ……。」
一瞬、考え込む。
「ホーンテッド・マンションに行きたいんだけど。」
「エスコートさせて頂きますっ!」
とろとろと、眩しい光が降り注いでいる。
ゆらゆらと、優しく揺れるゴンドラに包まれて。
「うわっ!こんなトコにスピーカーが!!」
「すごっ!うわー、きれいきれい!」
「ひゃー、廻る廻るー♪」
「凄い!こんなところまでするなんて、流石!凝ってて良し!」
「おぉ、ローソクがちらちらと。オルガンも!」
――なんて
くらくらと もうきみから目が離せないよ
子猫のように表情を変える きみから――
設定:
長く綺麗な黒髪で暴言吐く方=神聖 瑠璃。
カミサト ルリ。
高三。双子。
翔也達とは別の高校に通う。ペットショップでアルバイト。
長く綺麗な黒髪でフォローに廻る方=神聖 瑪瑙。
カミサト メノウ。
高三。カタワレ。
翔也のクラスメイトで生徒会会計担当。
此方が兄。
濃い栗色の長髪の少女=三月 凍季也。
コイツの発言は、ほぼ作者と同(終わり)。
赤茶色の長い髪の少年=緑川 時緒。
ジャングル・クルーズでの体験は、作者の実体験。いや、本当に。
ウルフカットの少年=いおり。
伊織。苗字忘れちゃった(殴)vv
視力が低く、日頃は眼鏡を愛用。偶にコンタクトレンズも。
三月のクラスメイト。
帽子を目深にかぶった父親みたいな=鈴木 響一。
スズキ キョウイチ。
伊織の幼馴染で時緒のクラスメイト。
確か空手の有段者とかそんなステイタスを持っていたはず。
黒い短髪の男性=八神 正人。
ヤガミ マサト。
翔也のクラスメイトで親友で生徒会長。バスケ部所属。
お兄ちゃん。
金髪の男性=諸星 翔也。
実は生徒会副会長。
三月大好き。