信じてあげようよ…






藤の花も綺麗に咲き乱れる五月。一年を通して最も過ごし易いと云っても良い。
授業を寝ながら受けてる連中も多い。俺ら中三だってのに、のん気なもんだよな。

とか云いつつ、俺も授業なんて真面目に受ける気サラサラ無いけど。
四限目とかになると、もう皆心は昼休憩に飛んでるよな。各々内職して……黙認してる(んだかどうだか)教師もどうかと思うけど。
翔也なんて、着てたセーター、枕代わりにして寝てるし。それはちょっとやりすぎだろ。
お前(教師に向かって)も気付いてんだったら注意しろよ。そんなにこのバカが恐いのか!?

『コンコンコン。』

扉を軽く叩く音。
すりガラス越しの影から察するに、あれは生徒指導部長の松下雄大か?(呼び捨て)

『カラカラカラ――……』
「あ、すみません、小松先生、ちょっと……。」
「あ、はい。」

カラカラと扉を閉めて廊下で話し始める。一体何なんだ?
なんか……厭な予感がする……。

「おい、翔也。ちょっと起きろ。」
後ろから、寝てる翔也の椅子の天板をゴンゴンと蹴る。……起きねーな。

「翔也く〜ん♪」
寝てる相手にチョークスリーパーって、意味ねぇか(笑)?まぁ、取り敢えず起きたから良しとするか。

「ぐふ……なにをすんねんなにを!!!!!!」

いきなりチョークスリーパーで起こされて、ご機嫌斜め?
「あら、いやだ。愛を確かめたかっただ・け・よvv」

そんな、なにも。
グーで殴らんでも良いじゃないか。しかも鳩尾。
落ちそう(泣)。

「で、なんやねん。人の睡眠妨害しやがって。もう昼か?」

セーター着ながら何をいけしゃあしゃあと。仮にも今は授業中だ。

「未だだよ。それより、アレ、どう思う?」
すりガラスの人影を視線で促す。
「ん〜……?」

よほど眠いのか、オノレは。頭をかくな。

「数学の小松と――……生指部の松下のオッサンか?」

流石、かな。

「ああ、ついさっきな。もう五分程話し込んでるんだが……。」
「――ふーん……。」
・・・・・・・・・・・・。

「……って、それだけ!?」
「あ?何がやねん。」

何がって、気にならねーのか?

「気にならねーの?授業中にもかかわらず、松下が来てんだぞ!?何かあったとかそういうこと思わね――。」
「気にならん。」
「!!?」
「そんなんより凍季也に好きな男が居るんかとかのが気になるわー。
 あー、はよ終わらんかな授業〜。」

・・・・・・ああ、そうですか。
ったく、相変わらず三月の事しか頭にねーよーだな。全く。お気楽なモンだぜ。

ああ、小松が戻ってきた。

「あー、すまんな。じゃ、さっきの続きをしようか。えー、だからー……。」
っおいおい、何の説明もナシかよ。すげーなヲイ。

『――キーンコーンカーンコーン・・・・・・』
やっと終わりか。

「じゃあ今日はここまで。次の時間、プリント配るからやってみよう。
 はい、HR代表ー。」
「きりーつ、れー。」

あー、なんか妙に緊張して疲れた。すげー疲れた。しっかし、なんだったんださっきのは。

「なぁ、翔也。さっきのって一体何だったんだろうな。」
「あぁ?そんなん知るか。小松もなんも云わんしたいした事ちゃうやろ。」
「そっかなー。俺はさ、こう、もっと大事な気が―――。」
「ああ、諸星。」
小松が翔也を呼んだ。
「なんスか?」

……こっからじゃ何話してんのか聞こえねーな。
っておい!?何2人して教室出ようとかしてんだ!?

「ちょっ……翔也?」
「ああ、ちょお職員室行ってくるわ。」

『カラカラカラ ピシャン。』
……。
ちょっともしかしてこれって……すげーやばげ?

兎に角、居てもたってもいられず、何故か三月の居る教室の前まで来てしまった。
どうする……って、本当にどうする俺!なんで此処に来たのかも判ねーけど。
兎に角……

「あれー、マツじゃん。どしたのー?」

「あ……三月……。」
見つかったか……しょうがない。

「ああ、ちょっと気になる事があってな……。」
「なにー?」

云ってしまっても良いのだろうか?
でも、自分一人の中で考えてるよりは……コイツに話したら何か変わるかもしれないし……。

「ああ。実はな……。」


『ガラ シパーンッ!!!』

「松下雄大ィィィ―――!!出て来いゴラァ!!」
「ちょっ、三月、此処職員室だから。ね、大人しくしようよ!?」
何で俺が止め役に……三月ってこういうキャラだったか?

「おう、威勢が良いねぇ、ネェちゃん。」
にこやかに近づくな松下。

「何があった?」
「諸星翔也を返して貰うか。」
はっきり云いますねー。

「…………。」
そして無言ですか。

「まぁ、そうだな。ま、取り敢えず中入れ。入り口ふさいだら迷惑だしな。こっち座れ。」
促され、ソファーに座る。

「……先生、アイツ、何やったんですか?もう給食も終わりますが、一向に帰ってこないんですよ。」
「……あぁ、煙草吸っても良いか?」
「あ、はい……。」

「松っちゃん。翔が何やったって云うの?」
少し不安げな表情。心配してんだな。しかし生徒の前でタバコですか。良いんですけどね。

「ああ、実はな……。」
ふうっと深く、息と煙を吐き出す。

「他校の生徒が、入院送りにされたらしくて・・・・・・。」
「ふーん、で?」
いや、ちょっとくらい先読めよ。まさか松下、それを翔也がやったとでも云うんじゃねーだろうな?

「相手が云うには、金髪の奴に行き成り後ろから金属バットで滅多打ちにされたらしくて。」
……厭な展開だな。
「ふーん、で?」

「…………。」

……そら黙るよな。沈黙が重たいわ。

「……で?」
其処を敢えて突きますか。

「……だから、それを諸星がやったんじゃないかって……考えてるんだ、先生たちは。」
――やっぱり、そうかよ。

何かあれば、真っ先に翔也だよな。
そりゃ翔也は、何かあると手とか出す奴だけど、金髪だけど、だけどそれだけで疑ってかかんのはどうなんだ!?

「――で?翔を別室に連れてって聴取?っはっ、頭が下がりますわ。」
三月……。

「何それ。端っから翔の事疑ってんじゃん。なんで?仮にも教師だったら、信じられないの?自分の生徒を!!」
「落ち着け!何も疑ってる訳じゃ……。」
「疑ってんじゃんおもいっきり!!別室に連れてってる事がもう疑ってるって事でしょ!?」
そ……そんないきり立たなくても……でも、気持ちは判る。

「〜〜……仕方がねーだろ。相手方が"金髪だった"って云ってんだから。それに、諸星とも面識あるみたいだし……。」
「それが厭なんだよ!!金髪だから?翔がケンカっ早いから!?唯それだけで少しも信じずに疑うんだろ!?恥ずかしくねーの?」
「三月、落ち着け!!」
泣くなよ。そんな顔、すんな……!!!

「判ってるよ……俺だって、信じたい……だけど………。」
「信じたいんだったら信じてあげようよ……!!翔じゃないっ、翔の訳ないじゃんかぁっ!!」
「判った、判ったから落ち着け……。
 ……悪かったよ。」

本当に、信じきってんだな。少しも揺らがないで……。
羨ましいよ、翔也が。本当に。
ここまで、信じてくれる人が居るなんて。

「それにねぇ、翔なら金属バットなんてエモノ、使わないで素手でやるだろ!」

「「あー、そーだったねー。」」

ポイントそこかよ。


結局、翔也じゃなくて、翔也に逆恨みしてる奴らが翔也に罪着せようとしてヘバッたんだけど。
それが判って翔也の疑いは見事晴れたって訳。
誰の前でも、ああやって啖呵切れるのって、凄いよな。

本当、翔也が羨ましいよ。





















設定:

三月たちが中学時代のお話です。



松っちゃん=松下 雄大
マツシタ ユウダイ。男の教諭。生徒指導部長。
友人Mに、メールで『名前を考えてくれ。』と泣きついたらコレくれました。
年齢とか特に考えてないです。でも、40代くらいかな。ハハハ。

数学の小松。
翔也たちの数学の担当教諭。ファストネーム考えてないや。
30代後半。痩せ型。というかなんだ、アレだな。なんだよ。
本当は、松って云う字は、木へんにハの下に口の字が良かったんだけど、出ませんでした。

翔也=諸星 翔也
ケンカっ早くて金髪で。今回要らぬ濡れ衣を着せられました。

マツ=松山 春菜
マツシタ ハルナ。翔也のクラスメイト。というか親友悪友。
スポーツマンで褐色の肌の持ち主。単に焼けてるだけか。
ほのかに三月に恋心を抱いていたり。
今回は、この人の視点から。

三月=三月 凍季也
翔也たちよりも2学年下。
教諭に対しても常にため口。











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