教えてあげない♪






――私、識ってる。お兄ちゃんも緑川さんも、凍季也さんの事が好きなんだって――

今日は土曜日。
学校の授業が午前中で終わった為、午後から買い物に来てる。友達と4人で。
テストも終わった事だし、久々にゆっくり遊べる週末。やっぱ学生は遊ばないとね!!

「ユウキッ!ほら見てアレ!!可愛くない!?」
ぐいっと右手を引っ張られ身体ごと強引に向きを変えられる。……のってすっごい痛いんですけどね茜ちゃん!!!
「どれぇ?」
少し怒った顔をして見せたって、君はもうショッピングに夢中で私の顔なんて見てないね。
覚えてろよコンチクショー!!
と、一人心の中で漫談してみても無駄ね。

「これこれ、このピンクのブラウス!胸元と袖のフリルが可愛いでしょ?」
目を輝かせながら嬉しそうに茜が話す。
「うん、確かに可愛い。」
私も、こういうの大好き。フリルだってそんな大きなものじゃないから子供っぽくないし。
「どーですかオ客サン。この可愛さで、お値段据え置きの1,980イェン!!
 これはもう、チョ〜〜〜〜掘り出し物の一品アルヨ!?」
変な店員口調で演じる茜。アア、馬鹿だけど茜のこういう所、私大好き。
「う〜ん、良いよね〜。良いよね可愛いしー……。」
悩む私の顔を見て、茜は又嬉しそうに笑う。
「ふっふっふ。悩んだところでムダよム・ダ!これは私が買うんだから。
 っつーことで。はっんばっいいっんさぁ〜〜ん♪」
そう、言い出すや否や、茜は店の奥にある試着室へと走って行った。
 うわ〜……。
「うわー、あんな客、マヂ勘弁。関わり合いたくねー。」
「いや、でももう、関わり合ってるから私達。」
私がボーっと茜を見送っていると、後ろから2人の女の子の声が聞こえてきた。

「ムラちん、うた!」
振り返ると、片手に服を1,2着ずつ持っている、これ又私の友達が居る。
「あのすげーゴキゲンな人、どなたですか?」
うたが、少しゲンナリして言う。
「何をおっしゃるウサギさん。彼女は我らが友、森島茜嬢ではないですか。」
ムラちんが声朗らかに答える。
「我らが友!?」
「我らが友。」
「あんな変人と!?」
「あんな変人と。」
「君らも十分変人だから、安心して。」
両手で2人の肩をポンと叩いて間をすり抜ける。
やっぱり、面白いよなぁ、この子ら。多分私もそこに含まれるケド。

うろうろと店の中を歩き回り、服を選り好む。
淡いブルーのミニスカート、オレンジのグラデのブラウス。
取り敢えず、こんなものかとレジへと向かう。
ああ、ムラちん達もレジに向かってるなぁ。何買ったんだろ?

ふと、右を見ると、黒い塊が見えた。
「?」
歩くのを止めて、見てみた。
なんだぁ、ただの黒いズボンか。っつーかココは黒物コーナーか!?
そう思って再び歩き出そうとした。
でもアレが目に入った。
アレが。
なんてことない、ただの黒いセーターなんだけど。
シックで大人しめ、悪く言えば地味なただの黒いセーター。
だけどこういうのをさ。好んで着るんだよね。

 凍季也さんは。

そう思うと、自然とその黒いセーターに手が伸びていた。
ふうん、胸元に赤のクロス・か。でも柄はそれだけ。
やっぱ地味じゃん。
だけどこういうのを好んで着てるんだよね。凍季也さんは。
マジマジとそのセーターに見入ってしまう。
こんなののどこが良いのか。
黒なんて、どこが良いのか判んない。だって、葬式とかで着るんだよ!?
地味だし、暗いイメージがあるじゃん。
なんでこんなの好き好んで着るの?
「でも凍季也さんはこれを着て、そんな凍季也さんをお兄ちゃんや緑川さんは好きで……。」
・・・・・・・・・・・・

何考えてんだよ自分。
そりゃ、私だって凍季也さんの事は大好きだし、尊敬してるし、格好良いと思うし、こういうの着たらサマニナルって思ってるけど。

「だからって……私が着たってね……。」
凍季也さんになれる訳じゃない。

「夕樹?」
うたの声で、はっと我に返る。
「どしたの?ボーっとして。」
あわわ、茜もムラちんも居るよ!
「ななっ、なんでもない、なんでもないっ!!」
笑って誤魔化してみても遅かった。
だって手には、普段触らない黒のセーターが。
「何?夕樹、いつからそんなの着るよな趣味になったの?」
ほら、茜に突っ込まれた。
「あ……いや、コレは違くて……。」
慌てて手に持っていた黒いセーターを棚に戻す。
「何……もしかして買おうとしてたとか?」
うたが更に突っ込む。
「えぇ、マジンガー!?夕樹にはそんなの似合わないよ?」
ムラちん……適確な突っ込み有難う。

そう、私には似合わないんだよね。
「えーっと……私の知人様でこういうのがすっごく似合う人が居てね?ちょっとその人の事とか考えてたらボーっとしちゃって。」
あはは、と笑う。
あー、そうなんだ。っていう顔をする皆。笑い逃げ成功!?

「で?その黒がよく似合う知人様の事を好きな人・が、夕樹は好きだと?」

うわっほ〜い。茜ちゃん、素晴らしい推理眼。それを2時間ドラマで発揮してみろコンチクショー!!!
「ほほーう。」
と言わんばかりの顔でほら、2人がこっち見てんじゃん。ちょっ……うた?ムラちん?落ち着いてね!!?
「そーなの?うわー、初めて聞いたよそんな事vv」
「へー。で?そのセーター着たら、私に振り向いてくれないかしら?ってか?」
……好きな事言っちゃってくれますね皆サン。違いますよ。
「で?で?どーなのよそこんとこ!!!」
何興味津々な顔してんスか。普段興味なさ気なうた嬢まで!!
「さぁ?」
そう言って、レジへと歩き出す。

それでも五月蠅く聞いてくる3人。
なんだかちょっと、青春みたいで面白い。
「あははははは。」
私はくるりと振り返る。

「教えてあげない♪」

そう言って、猛ダッシュでレジへと向かう。
後ろで何か叫んでる。あはは、やっぱり可笑しい。
あー、この後、すっごい追求されるんだろうなぁ。逃げ切れるかな?
でも、あの3人になら、言っても大丈夫かな?

――私識ってる。お兄ちゃんも緑川さんも、凍季也さんの事が好きなんだって
  私識ってる。私も凍季也さんの事、大好きなんだって――





















設定:
夕樹(ユウキ)=諸星 夕樹
翔也のいもうと。中学三年生。
基本モデルが作者。でも+αが夥多。弄りまくり。

茜=森島 茜
夕樹の親友。同中学三年生。
モデルは作者の親友M(まんまやん)。

うた=宮本 香果
夕樹の親友。同中学三年生。”きょうか”と読む。
モデルは作者の相方、深沢。
因みにうたの発音は、『猫の恩返し』のムタと同じ。

ムラちん=都村 杏
夕樹の親友。同中学三年生。”ツムラ”と読む。
モデルは作者の親友Y。
取り敢えず、ムラって呼べる友達が欲しかったから創ったの(莫迦)。

緑川さん=緑川 時緒
三月の同級生。ミドリカワ・トキオ。男だよ。
最初はこの人も(漫画の)主人公だったなぁ(爆撃)。









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