「殿!!小十郎様!大変ですぜ!」
戦の真っ只中。 髪をオールバックにした兵が一人、息を切らしながら本陣に戻ってきた。
戦の相手は長曾我部軍。 仲間同士の結束が固い海賊で、政宗も手を焼いている相手だ。
「An?なんだ?言ってみろ」
欠伸を一つ。 どうやら政宗は暇らしい。
戦と言っても敵の領地を奪うとか、長曾我部軍を消滅させるとかそういうものじゃなくて。
言ってみればただの暇つぶし。
政宗と長曾我部軍の頭、元親はわりと仲が良く、身体が鈍ってくると良く始める遊びだ。
両軍の兵も減ることは無く、良い鍛錬の相手。
だから互いにのんびりモードである。
「実は・・・・様が・・・・」
「やらかしたか?」
楽しそうな表情の政宗。 とは政宗の双子の姉で、武に長けている為伊達軍の武将をやっていた。
細身の刀を振るうその姿はまさに猛将なのだが・・・・。
政宗の隣で苦虫を噛み潰したような顔をしている小十郎。
愉快に笑う政宗とは違って、内心ため息を吐いていた。
(あれ程大人しくしていてくださいと言ったのに・・・・)
ゆっくりと自分の主、政宗を視界にとらえる。
「政宗様」
「An?なんだ小十郎。また行くのか?」
ニヤニヤと笑う政宗に頭を下げ、小十郎は馬を走らせた。
馬なんて滅多に乗らないのだが、今回は急がなくてはいけない。
伊達軍の本陣と長曾我部軍の本陣は離れている。
(単騎駆けなんて無茶な事を!)
いくら彼女が武に長けているからと言っても、相手は元親だ。
敵うはずがない。
政宗を一人本陣に置いてきたのは気にかかるが、この戦なら大丈夫だろう。
お互い本気じゃないのだから。
「なんだアンタ。また来たのかい?」
「手合わせ願います!」
「ふぅ〜。懲りねぇなぁ・・・。アンタじゃ俺には敵わねぇよ」
「そんなのっ!やってみなくちゃ分からないでしょ」
(居た!)
小十郎の目に映る2人の姿。 碇槍を肩に抱え仁王立ちする元親と、剣を構え元親を睨みつける。
まだ大丈夫だ。 今ならまだ。
「どうだい?そんなことより俺と茶でも飲まねぇか?」
「え?お茶・・・?」
「おうよ」
元親に言われ自分の喉元に手を当てる。
そう言えば・・・・喉が渇いている気がする。
「美味い茶が手に入ったんだよ。どうだい?」
「美味いお茶?いただきます!!」
(ん?)
小十郎の目に映るのはに背を向け歩き出す元親と、刀を鞘に納め後をついて行く彼女の姿。
そんな彼女の顔には武将の武の字も見えていない。
「(遅かったか・・・・)様ー!!」
「あ?」
「ん?・・・あ、小十郎」
「チッ、保護者の登場かよ」
馬から下りた小十郎が頭を下げる。
「小十郎♪元気?」
「は・・・はあ、元気ですが・・・・。何処に行かれるおつもりですか?」
「ん?元親殿がお茶飲もうって」
「は?お、お茶ですか?」
「そそ。あ!どう?小十郎も」
「どうと言われましても・・・・。今がどんな状態か、分かっておられますか?」
「今?・・・・」
じっと自分を見る小十郎から視線を外し、元親を視界に捉える。
その視線に気が付いた元親がくくっと笑う。
「戦中だ」
「・・・あ〜!そう!小十郎、戦中!」
ニッコリと答えるに、小十郎はどっと脱力してしまう。
「・・・・その通りです。なのに貴女は何処へ?」
「だからお茶飲みに」
「戦中ですが?」
「そうだね。でも、喉渇いたし」
「本陣や拠点に行けば飲めますが?」
「だって、美味しいお茶だって言うから」
「おうよ。滅多に飲める茶じゃねぇぜ」
横槍を入れてくる元親に、小十郎は黙ってろと目で訴える。
「小十郎は行かないの?」
「は?行かないのって・・・、行かれるおつもりですか!?」
「うん。飲んでみたいもん」
「・・・・・・」
言葉が出ない。 は何も分かってないのか、きょとんとした目を自分に向けている。
戦中に敵の大将とお茶を飲む武将なんて何処にいるのだ。
武将の顔をしていない今の彼女に何を言っても無意味なのだが。
「・・・・様」
「ん?」
「貴女は何をしに此処に来たのですか?」
「え?う〜ん・・・・なんだっけ?・・・・あ!手合わせだ」
それすら忘れているとは・・・・。
小十郎は思いっきり呆れてしまう。
「・・・そうですか。で、それは実行したのですか?」
「ううん。してない」
「今もまだ、実行する気持ちはありますか?」
「・・・・ないかも」
あはっと笑うに小十郎は盛大なため息。 2人のやり取りを見ていた元親は大笑い。
「あっはっはっは!あんたらいいねぇ」
「あ?」
怪訝そうな顔をする小十郎を余所に、元親は船へと入って行った。
暫くして戻ってきたかと思ったら、不思議そうに小首を傾げるの前に1つの小箱を差し出す。
「ほら、持ってきな」
「え?」
「さっき言ってた茶だ。帰ってからゆっくり飲めよ」
「わ〜、ありがとうございます」
元親から小箱を受け取ったは嬉しそうに破顔した。
それを見て、小十郎はなんだか面白くない。
その気持ちが顔に出てしまったのか、小十郎を見た元親がニヤリと笑う。
「あんまり保護者さんを心配させんなよ」
「ほ、保護者だと!?」
「はい。そうします」
「様!」
ニコッと頷くに小十郎はやり切れなさが込み上げる。
(保護者とは・・・・。そう思われるのは仕方がないが・・・・)
落ち込む小十郎を元親はくつくつと笑った。
「兎に角もう帰んな。遊びはもう少し続くけどな」
「はい。今度は手合わせしてくださいね」
「おうよ!腕磨いておけよ」
「はい!頑張ります!」
敵の大将と何故こんなに和やかムードなのか。 小十郎は内心頭を抱えていた。
「政宗の事ほっといてていいのか?」
「・・・・はっ!政宗様!」
「いいのいいの。政宗は大丈夫」
「くくっ・・・、そうかい」
「様、大丈夫ではありません!急いで戻りましょう」
「そう?政宗なら大丈夫だと思うけどなぁ」
「様!」
大声で名前を呼ばれ、はビクッと肩を振るわせた。
「わ・・・・わかった・・・。・・・・帰る」
顔を引き攣らせるを手早く馬に乗せ、自分はその後ろに飛び乗った。
「おいおい、どうすんだよこの馬」
其処にはが乗ってきた馬が居て。
お互いに一頭ずつ乗って戻ったら、彼女は途中で何処かに行ってしまうかも知れない。
「後程引き取りに来させる」
「しょうがねぇなぁ」
「じゃあね〜、元親殿」
「おう!」
ハッと声を掛け、小十郎は馬を走らせた。 政宗の下へ急ぐ。
暫く経った頃、が口を開いた。
「ねぇ、小十郎」
「はい」
「小十郎は何しに来たの?」
「様が単騎駆けをしたと聞いたので」
「助けに来たの?」
「いえ、連れ戻しに」
貴女の腕は知ってますので。 気を悪くさせないようにそう付け足す。
クスッと笑ったが、小十郎にぎゅっと腕を回す。 息を呑んだ小十郎を再び笑う。
「心配してくれたんだ。ありがとね、小十郎」
「い、いえ・・・役目ですから」
「ふふ、小十郎の役目は政宗を守る事でしょ」
確かにそうなのだが。
今回は相手が長曾我部軍だったからよかったものの、これが他の軍勢だったら。
後先を考えずに行動を起こす。
自分には彼女を守る役目は無いが、どうしても気にしてしまう。
には反省の色が見えないから余計に。
ほっておいたらそのうち攫われてしまいそうだ。
「もう少し、自重なさってください」
「は〜い」
こりゃ無理だ・・・・。 小十郎は大きなため息を飲み込んだのだった。
終
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初の小十郎小説でした。
え〜っと・・・甘くも何とも無く、リク通りでもなく、可も無く・・・ww
何が言いたいのかも分からないお話になってしまいました(汗)
小十郎って、こんな人じゃないよね?(苦笑)
何はともあれ(え)、円月輪さんお待たせいたしました^^
このような内容で完成しましたが、どうぞお受け取りくださいw
イベント参加、本当にありがとうございました!
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