鈍感





「 おはようございます。」


第一印象は怖くも、どこか魅かれるところがあったんだ。



私の名前は。小さな港町の宿屋の娘。
昨日のお昼過ぎに、海から来たお客様に朝の挨拶をした。

「 おー、。おはよう!」
このとても元気が良い麦わら帽子を被った人は船長のルフィさん。

「 おはようさーん。」
少し寝不足気味な鼻の長い人は大工?のウソップさん。

「 おぉ、麗しのちゃん。今朝も一段とプリティで。」
テンション高く私の手の甲にキスを落とす素敵な眉毛の人は、コックのサンジさん。


「 ――……朝っぱらからうるせぇぞ、お前等。」
低血圧なのか、一段と低い声で迷惑そうに云う、紅い眼をした人は、剣士のロロノア=ゾロさん。

ガタガタと椅子を引き、一つのテーブルを囲む4人。

「 待て、ゾロ。
 五月蠅いのはこの2人であって、俺は五月蠅くしてないだろ。
 船の修理であんまり寝てねぇんだよ。」
「 おい、聞き捨てならねぇな。
 いつ俺が五月蠅くしたよ?俺は唯ちゃんに朝の挨拶をしただけだろ!」
「 おーい、
 メシってこれだけ?おかわりはねーの?」

なんて、好き好きに言葉を発する4人。――ん?3人?


この4人、自称『海賊』だそうで。
でもこう見てる限りは、海賊には見えないんだよなぁ。

「 おかわりですか?
 はい、すぐお持ちします。」
昨日の夜もそうだったけど、この人たちと話してると、とても楽しくなる。
だから、自然と笑みもこぼれてる。

「 はい、どうぞ、ルフィさん。皆さんも。
 未だありますから、遠慮なく仰ってくださいね。」
テーブルの真ん中に大皿をドンと置く。
「 おおお、太っ腹だな!サンキュー。」
「 ありがとう、ちゃん。
 でも俺はちゃんの笑顔だけでお腹いっぱいだよ。」
「 悪いな、コイツ大食いでさ。
 って、おいルフィ!それ俺のじゃねぇか!!」
「 ……うるせぇ、黙って喰えねぇのかお前等は……。」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ3人とは対照的に、一人ゆっくりと静かに、しかし3人をたしなめながら食べるのは。
緑色の髪に金色のピアス、紅い眼をした。

「 おはようございます、ゾロさん。
 コーヒーのおかわりもありますが、どうですか?」

3刀流の剣士、ロロノア=ゾロさん。

私はゾロさんに、コーヒーのおかわりを勧める。

「 ああ、頼む。」
そう云って、ゾロさんはカップを私へと差し出した。
「 はい、ただいま。」
私は他の人へ向けるそれとは違う、笑顔を向けながらコーヒーを注ぐ。



そう。
この低い声とテンション、それに醸し出すオーラ。
昨日初めて見た時、凄く怖い人だと思った。
でも、どこか真っ直ぐ先を見据える力強い紅い眼に、私は魅せられていた。


その夜、大量の乾いたシーツを抱えてフラフラと歩いていた時、前が見えずに誰かにぶつかって。
それがゾロさんだった。

斬られるかと思って(云い過ぎ?)びっくりして、シーツを全部ぶちまけちゃって。
すぐにその場を去りたかったのに。
どうしよう、斬られるとか思ってパニックに陥ってたら。
方膝ついてシーツを拾い始めてくれた。

しかもその後、ほとんどのシーツを持って運んでくれた。
お礼を云ったら、ぶっきらぼうに答えて頭を掻いてたけど。
下から見た顔は、少し赤かった気がする。


そんな事されたら。

そんな姿見たら。


本当は優しいんだって、もしかしたらシャイなんじゃないかって。
そう思えたら、どんどん魅かれていっていた。

出会って2日目だけど、私はきっと、きっと。




「 おい。」

昨日の事を思い出しながら洗い物をしていたら、突然声を掛けられた。
そう、私が想っていた人から。
「 あっ、はい、なんでしょう!?」
手についた泡を流し、急いで行こうと振り返ると、もう眼の前にゾロさんの身体があった。
「 ぅあっ!」
間一髪、とはいかず、勢いの儘ぶつかってしまった。

カチャン――と音が鳴った。
上を見上げると、心配そうな顔をしているゾロさんと、その左手には空になったお皿が数枚。

「 ――あっ!すみません、ありがとうございます!」
眼に入ったお皿に、酷く申し訳なさを感じて、急いでそれへと手を伸ばした。
けど。

私の手は空を切った。

「 大丈夫か!?」
そう云ってゾロさんはお皿をシンクへと入れ、私の肩と額を触った。
何が大丈夫なのか判らない私は、疑問の色をいっぱいにした顔をゾロさんへ向ける。

「 いやっ、大丈夫なら良いんだっ!!」
慌てて私の身体から手を離し、顔を背ける。
どうしたのだろうか。
「 あの、どうかされましたか?」
顔を見上げたまま、聞いてみた。

暫く黙って、頭をカリカリと掻いていたけど。
「 なんでもねぇ。」
この一言だけ残して、くるりと背を向けて歩き出してしまった。


あ……。
もしかして今、2人きりでゆっくり話すチャンスだった!?
あああ、しくじった。くやしい。

でも、仕方ない、か。
どうせ、ゾロさんは私の事なんて――


……とか、云ったか。
 その……
 コーヒー、ありがとな。    美味かったよ。」

眼中に無いんだ。 そう思ってたのに。

山積みにされた洗い物の向こうから、少しぎこちない声が聞こえてきた。

びっくりして、急いで声のしたほうへ顔を向けると、其処にはゾロさんが、居た。
少し顔が赤くなっているゾロさんが、うつむいて其処に居た。
ゆっくりと顔を上げたゾロさんと、視線がかち合う。
如何いう意味だったんだろう、今の。

あ、そうか、社交辞令。

「 いえ、そう云って頂けるとなによりです。」
にっこりと、笑顔で返した。

「 あぁ……じゃあ。」
そう云って、今度は確かに出て行った。


最後に見たゾロさんの顔は、至極複雑そうな顔をしていたけれど。



そうか、社交辞令だったのか。  残念。