「政宗様は?」
「はっ、自室にいらっしゃいます」
「そう。ありがとう」
ニコリと笑むと、彼女は政宗の自室へと歩き出す。 女性ながらも腰に刀を下げ、一応武将と言うものをやっている。 仕える人物は先程名の出た”伊達政宗”。 自分の兄、片倉小十郎が仕えていた為自然とそうなった。 それに対しては何の不満もない。
「政宗様。です」
「入れ」
政宗の返事に、は静かに襖を開けた。 軽く頭を下げ部屋に入る。 襖を閉め、再び頭を下げる。
「お呼びですか?」
「考えたか?」
「は?」
脇息に肘を置き、胡坐をかいてじっと自分を見る政宗。 はきょとんとしてしまう。
「は?ではない。考えたかと言っておるのじゃ」
意味が分からず頭にはてなを飛ばしている彼女に、政宗はため息を零す。
「わしの嫁になる話じゃ。忘れたとは言わせんぞ」
「あ・・・・・」
それか。 は少々嫌な顔をする。
幾日か前、政宗に行き成り求婚された。 あの時は、馬鹿な事を・・・・と、笑い飛ばしただったが、どうやら彼は本気だったようだ。
「あのね、梵。もう少しよく考えなよ?」
「考えておる。と言うか、その呼び方はやめろ」
「梵はもっとちゃんとした女性を娶らないといけないの」
「・・・・聞いておらぬか。わしの嫁はわしが選ぶ」
「じゃあ、私以外から選んでよ」
はい、この話は終わり。 そう告げると、彼女は部屋から出て行ってしまった。
「ちっ、まだ子供扱いか」
ダンッと脇息を叩く。 とは幼い頃からの付き合いの所為か、どうしても子供扱いされてしまう。 しかも彼女の方が幾分年上だから余計だ。 自分は昔から”嫁にするなら彼女”と思っているのに、その話をすると諭すように断られる。
「・・・・わしの嫁はわしが選ぶ!」
苛立ちを押さえきれぬまま、政宗は部屋を出て行った。
「・・・・・ん・・・・!?」
それから幾日か過ぎた頃、は夜中に目が覚めた。 何やら外が騒がしい。
「奇襲だー!!」
(!!)
ガバッと起き上がる。 側に置いてある刀を手に取り、視線を障子へ向ける。
刀同士がぶつかり合う音、兵達の声、誰の物かも分からない叫び声。
(まずい!政宗様を守らなくては!)
今、兄の小十郎は視察に行っていて留守だ。 自分が政宗を守らなくては。
そう思ったは、スパン!と障子を開け外へ飛び出して行った。
至る所に転がっている兵達の亡骸。 敵味方、それぞれが入り混じる。 まだ息がある者も居るが、今の自分にはそれを助ける時間が無い。
兎に角、政宗の下へ急がなければ。
自分に襲い掛かる敵を一太刀で倒しながら、は目的の場所へと急いだ。
「珍しいな。女の武将か」
「!?」
低く、冷ややかな声が聞こえ、は足を止めた。
「何者!?」
体格の良い男が刀を構え、自分をニヤリと見つめる。 その目に、たらりと冷や汗が流れる。 男の身に纏う雰囲気で分かる。
(こんな所で立ち止まってる場合じゃないのに!)
目の前の男はかなりの腕前に違いない。 そう簡単には逃がしてくれないだろう。 はぐぐっと刀を握る手に力を籠めた。
「ほう。殿ではないか」
「!!そ・・・相馬殿・・・・・」
新たに現れた男に、は目を見開いた。
「貴方でしたか・・・・。何故伊達軍に敗れた貴方がこのようなことを」
「フッ、敗れたとはいえ、私にも意地がありますからな」
「くっ!」
不敵な笑みを浮かべる相馬に、は悔しそうに睨みつけた。
「この女人は腕が立ちますぞ。丁寧にお相手して差し上げるのがいいでしょう」
「御意」
「すまないな、殿。その首、頂戴いたす」
その声と同時に、男が刀を振り下ろした。 咄嗟に後ろへ避けたに、尚も襲い掛かる。
(早く政宗様の下へ!)
倒すしかない。 は刀を構え、男の懐へと入り込んだ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
片腕を押さえ、荒い呼吸を繰り返す。
・・・・敵わない。 歴然としていた力の差に、徐々に失われていく体力。 は立っているのがやっとだった。
「手傷を負いましたか。くくっ、そろそろ終わりにしましょう」
はキッと相馬を睨んだ。 そうでもしないと意識を失いそうだった。 だが、政宗を想う気持ちが意識を繋ぎとめる。
「は・・やく・・・・梵の、所に・・・・」
ズズッと足を引きずり、刀を持つ手に残っている最後の力を籠める。
「殺せ」
ニヤリと笑みを浮かべた相馬が、冷たく言葉を発した。 頷いた男がとの間合いをつめた。
「!!!」
ガキン!!! 刀がぶつかり合う凄まじい音が響き渡った。
「・・・・梵・・・・・」
目の前に立っていたのは政宗だった。 男を弾き飛ばし、に視線を向ける。
「これは、政宗殿。わざわざ首を差し出しに参ったか」
ニヤッと笑う相馬に、政宗は鋭い視線を向けた。
「無事か、」
「梵・・・・逃げて」
「逃げぬ。お前は其処で寝ていろ」
相馬を睨み付けたままの政宗が発する声に、は搾り出すような声で答えた。
「くくっ、余程首を差し出したいと見える」
「貴様っ、よくも!生きて帰さぬぞ!」
「その言葉、そっくり政宗殿にお返しいたそう」
ギリッと奥歯に力を入れた政宗が、男と相馬にかかって行った。
ぼんやりとした視界に、政宗の勇姿が映る。 自分を助けに来た政宗。 いつまでも弟だと思っていた彼が男らしく見える。
(もう・・・・弟じゃないんだね・・・・)
”梵”と呼ぶと怒った政宗。 自分を娶りたいと言った政宗。 そして、相手に怯む事もせず立ち向かう政宗。
初めて見る政宗の男の姿に、はクスッと笑みを零した。
ドンと柱に寄り掛かり、力無く腰を下ろす。 意識は今にも無くなりそうだったが、自分を守り戦っている政宗をこの目に焼き付けたい。 2人を相手に政宗は、見事に攻撃をかわし確実に手傷を負わせていく。 その姿を、は瞬きもせずに見つめていた。
「気が付いたか」
ぼんやりとした視界に映る天井。 ゆっくりと声の方へ視線を移せば、其処には政宗が座っていた。
「梵・・・・・」
「まだその名で呼ぶか。馬鹿めが」
「無事だったんだ・・・・。梵、相馬殿は?」
「・・・・聞いておらぬな。彼奴はわしが斬った。屋敷に投げつけてやったわ」
フンと鼻を鳴らす政宗に、はクスクスと笑った。 だがフッと真顔に戻る。
「ごめんね・・・・梵。私、梵の事、守れなかった・・・・・」
悔しそうなその声に、政宗はフンと鼻で笑った。
「わしはお前に守ってもらおうとなど思っておらぬ」
「ふふ・・・。厳しいなぁ」
苦笑するに、政宗は真顔で言葉を続けた。
「わしがお前を守る。いい加減、嫁になれ」
「まだ言ってるし・・・・」
「当たり前じゃ。昔からお前を娶ると決めていたのじゃ」
「なんで・・・私なんて・・・・」
自嘲気味に笑うに、政宗はフッと視線を逸らした。
「理由など・・・・、お前を好いているからに決まっておるじゃろう」
「梵・・・・・」
「貴様!まだその名で呼ぶか!この馬鹿めが!!」
頬を赤く染め怒鳴る政宗に、はクスクスと笑う。
あの時、刀を振り下ろし銃を構える政宗が見えた。 だがそこで意識は途絶えた。 遠くで必死に自分を呼ぶ政宗の声が脳裏に甦る。 途絶えた意識の中に響いた政宗の声。 自分を助けに来た時の、男らしい声だった。
「私が、梵って呼ばなくなったら嫁いでもいいよ」
「ならば直に止めろ。お前次第じゃろう」
「う〜ん、でももう少し・・・・」
怒る政宗が見たいから。 そんな事は口が裂けても言えないが。
「意味が分からぬわ」
呆れかえる政宗を余所に、は楽しそうに笑ったのだった。
終
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初の政宗小説でしたw
円月輪さん、遅くなり本当に申し訳ありません!
しかも、政宗ってこんな口調でしょうか??
違っていたらごめんなさ〜い(汗)
奇襲させましたw
出てきた相馬氏は実在していて、伊達氏と抗争を続けていたそうです。
全然無双と関係なくて申し訳ないですw
希望内容に副ってない感じですが、どうぞお受け取りください♪
ってか、押し付けます(おい)
イベント参加、ありがとうございました^^
また、機会がありましたら是非参加してくださいね〜^^
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