「 ねぇリナリー、わたしって神田に嫌われてるのかな?」 どうして彼女にそんなコトを尋ねたのか、わたし自身にもわからない。 ただ彼女とは嫌がらず、真っ直ぐに話す彼が不思議でしかたなかったのかもしれない。 ――きっとそうだ。そうに違いない。だから他の理由なんて、ないのよ。 |
「 ……どうしたの突然そんなこと?」 「 …………え、あ、いや――……その、なんとなく。」 思いついただけ、と、目を丸くするリナリーに慌ててフォローする。出来てるかどうかは別として。 たまに重なった休み。数少ない女のコ。それも同い年。エクソシスト。 話なんていくらでもあるのに、どうしてわたしの口はそんなコトを吐いちゃうのか。コッチの方が不思議でならない。 笑って誤魔化そうと思ったけど、リナリーの眉が下がったままだ。 「 神田に酷いこと言われたの?」 「 えっと…… 」 自分から話を振っといて言葉に詰まるなんて、わたしが男子だったら瞬殺ものよね。みんなのアイドル・リナリー嬢と楽しくおしゃべりしてるってのに。 あーもう、わたしのマヌケ。 「 言われたのね?まったくもう、神田ったら。」 ぷくっとふくれる頬。少し上げられる眉。やぱっりリナリーは怒っても可愛い。 リナリーにたしなめられたいと言う職員の言葉にも頷けるわ。こんな可愛いコに心配されて怒られたら、キューンときて明日も頑張ろうって思うもの。うん、明日も頑張れる。 「 私からキツく言っておくわ。気にしないでね、。」 「 う、うん。」 言いよどんでいたわたしにちょっと怒った表情でなぐさめてくれるリナリー。 酷いコト、も、言われてる。だけどそれ以上に色々と突っ掛かられるのはナゼなのか。 メソメソと泣いてばかりのファインダーに彼が皮肉を言ってちょっとしたイザコザ(時に暴力も含む)になってるのは知ってるし見かけたコトもあるけど、わたしの場合は違う。 会えば会うたび(この場合は遭うの方が的確かも)、いつも『何か』を言われる。そう、必ず。 「 嫌いならいちいち突っ掛かってこないでムシすれば良いのにね。」 それとも視界に入るだけでイヤなのかしら?だったら存在ごと消して(無かったコトにして)しまえばイーのに。 返事をしないリナリーへと、ねっと笑って見せれば妙な顔と出くわす。 怒ってるでもなく、笑ってるでもなく、固まっていると言うか、――そう、驚いたような。 「 リナリー?」 「 あ、神田はのこと嫌いなわけじゃないわよ。」 「 ウソよ、ありえないわ。あの態度は間違いなく嫌ってる。」 「 神田はちょっと難しい性格だから……勘違いされがちだけど、本当は良い人なのよ。」 「 んー……まぁ、口は悪いケド悪い人ではないよね、それはわかってる。」 でも出来れば進んで関わりあいたくないわと笑うと、困ったような寂しそうな表情をさせてしまった。 どうしよう、リナリーはもしかして神田のコト好きなのか、な……? 「 っつ、強いから頼りにはなるよね、キレーな顔してるし!」 顔は今、全く関係無かったか。でも他にどうフォローすればイーのかもわかんないし、ゴメンねリナリー。 「 ごご、ごめん、わたしその、イノセンスの調子悪かったんだ、そう、忘れてたけど!というワケで、またねリナリー!」 「 あ、!?」 居辛くなってつい逃げ出してしまった……ウソまで吐いて。リナリーにウソ吐くなんて罪悪感でいっぱいだわ。 ごめんねリナリー、ごめんなさい色んな意味で!! ……それにしても、リナリーが神田を好き(かも)だなんて……幼馴染みらしいけど、室長が知ったらどうなるのか……恐ろしい。 ああ、だからリナリーは神田のコト、よく知ってるしよく理解してるのね。だから神田もリナリーに――――あ、そうか。 神田もリナリーが好きなのよ。だからリナリーの話は素直に受け入れるし怒られても怒鳴ったりしないのよ。 そうよ、そうだったのよ。 リナリーと神田は相思相愛な 「 ――わ、った!?」 「 ワリ――ッ!」 ん、アレ?痛くない? よく前も見ずに早足で歩いてて、だから角を曲がったところで誰かとぶつかって床が眼の前に迫ってきたのに、痛くない?無意識の内にイノセンス発動したの 「 いつまでぶら下がってるつもりだ、重いんだよトウモロコシの分際で。」 ――は?え、この声って…… 「 ……かっ神田!?」 「 さっさと起きろウスノロ。」 目を開けるとやっぱり床が近くて、でも顔をぶつけた覚えはなくて、ぶつかった感触もなくて、ワケがわからずに居ると頭上後方から聞き覚えのある声が降ってきた。背中をイヤな汗が伝うのを感じつつ急いで振り返ると、しかめっ面の神田が居た。さらに汗が噴き出すのがわかった。ぶつかってすっ転んだ恥態を神田に見られるなんて……!! 「 起きろっつってんだろ!」 「 ひゃあっ!?」 頬が染まるや否や強い力に引っ張られて体が浮遊感を覚え、つんのめる。若干引っ張られた腕が痛い。 けれど壁や床の感触はなく、かわりに適度に硬く適度に柔らかく適度に温かい感触をキャッチ。 ……というよりは、ソレにキャッチされたと言った方が正しいような。とても心地良い包容感。 ――――……ん?包容、感……? 心地良い温もりから静かに離れれば視界は黒く、所々に見慣れた配置で白が走ってる。 そう、この配置はわたしも着ている、エクソシストの団服。 そのままずずずっと視線を上にスライドさせれば、仏頂面の 「 かっかか神田!?」 が。しかも超がつくほど顔が近い。未だかつてこんな間近で神田の顔を見たコトがあったろうか?否、ない。(反語) ああでもアップでも顔が綺麗だわ。美男美女カップルね。 なんて、惚けてる場合じゃなくて。 「 ど、ど、どっどど…… 」 言葉が出ない。緊張?してると言うの?まさか? 「 どこに目ェ付けてんだ。その目はただの飾りか?」 あ……もしかして、ぶつかったのって神田? 「 ご、ごめ……ん……。」 フンと鼻で返す神田。……ナゼだろう、ジロジロ観られているような気がするのは。 「 モロコシヘッドじゃ周囲に気を配って歩く事も出来ねぇか?」 「 っなにを――!!?」 ああああそこに居るのはリナリー!?マズイ、神田とこんな近いと勘違いされちゃうって、なんなのよ一体!? どうして神田がわたしの腰に腕を回してるの!?こんな状況じゃいくら説明しても聞き入れてもらえないじゃない!!! 「 ……おい?」 「 ぶつかったのは謝るわ、じゃあねっ!!」 まさか教団内でイノセンス発動させる日がこようとは……リナリーの黒い靴にはさすがに負けるけど、わたしの戦乙女の庇護 っていうか、わたしに本気を出させないでよね、神田のバカ! ……でも、思い切り突き飛ばしちゃったけど大丈夫かな?神田のコトだから大丈夫とは思うけど…… 「 ……ん……?」 あれ?もしかして足が、痛い、とか……?イノセンス発動してる時は気付かなかったけど。 ウソ、ヤダ、ぶつかった時に捻ったのかしら……それとも引っ張られてつんのめった時? どちらにしても……間違いなく捻ってるわね。あああ、フチョーに怒られる…………。 ああもう、ソレもコレも全部神田が悪いのよ! リナリーという激ラヴリーでプリティーな彼女がいるくせに!不可抗力とはいえわたしを抱きとめるから!! ――抱きとめ……モゴモゴ……………… 「 ?」 「 うひゃいっ!?」 「 そんな驚かんでも……。」 「 !リーバー班長!?」 だったのか。ビックリした。心臓に悪いようドキドキ。 「 どうかしたのか?」 「 いえ、ちょっと足を……うやむや……あの、リーバー班長こそ、こんな所に居るなんて珍しいですよね?」 「 ああ、俺か?俺はちょっと指切っちまってな。」 「 リーバ班長!!!」 「 お、おう?どうした……?」 仲間が、仲間が居ればフチョーだって怖くない!――――ハズ……。 怖いものはどうしたって怖いものよね。 結局、2人揃って注意散漫だってコッテリ絞られてしまった……ごめんなさいフチョー。 はぁ、ヤルセナイ。 こんな日は何もかも忘れるまで体を動かして汗を流して熱いシャワーを浴びて寝るに限るわ。 そうと決まればさっそく修錬場へ!今日はヘロッヘロになるまで独りでテッテーテキにしてやるんだから!! なんて。 「 言ったそばから、邪魔しないでよ!!」 「 何言ってやがる、手伝ってやってんだ、感謝して褒め称えろ。」 シンクロ率を上げようとイノセンス発動したらコレだもの。今、一っっ番会いたくない人に遭うなんて、アクマを引き寄せるよりも強いヒキじゃない?全っ然嬉しくないけどね!! こんなイライラした気持ちじゃ、イノセンスとのシンクロ率も上がらないわよ。修錬にならないじゃない! 籠手に変化したイノセンス。ソレで神田の刀型のイノセンス・六幻の刃を受ける。耳に不快な金属音が届く。 少し重い衝撃に、捻った足が鋭く痛んだ。……フチョーに激しい運動は禁止されてるのに。 「 っこれじゃフチョーに怒られちゃうじゃない!!」 「 は?」 ガンッと六幻を弾く。 もーガマン出来ない。わたしは悪くないのに! 「 わたしにケンカ売ったコト、死ぬほど後悔させてあげるわ!」 「 ハッ!面白ぇ、出来るもんならやってみろよ。」 「 わたしが勝ったら二度とわたしに関わらないでよね!」 フルアーマー化すれば足に負担もほとんど掛からない。たかが刀が、プレートアンドメイルアーマーに勝てるものですか。長時間の発動 「 ……俺に勝てたらの話だろ。寝言は寝て言え。」 「 覚悟なさい、神田ユウ!!」 「 ……上等だ!」 組み上がったアーマーの向こうで、神田の六幻が発動される音が聞こえた。 ――ギャリッ と、一際大きな音と火花。 それから空を切る鈍い音が上がって、カラカラと床を滑る乾いた音が広い空間に響く。 詰まる息。 六幻の発動が解かれ、刃の無い刀へとその姿を代える。 わたしの指先は、神田の首から数ミリ離れた空中に浮かび、空を握る神田の諸手は下げられている。 …………勝った! コレはどう見てもわたしの勝ちよね、圧勝よね!わたしのイノセンスは健在で神田のイノセンスは遠くに転がってるんだから。あと数分でわたしのイノセンスも解けた(だろう)けど、勝ちは勝ちよ、わたしの勝ち! 「 勝負あったわね!」 っはあっと短く息を吐いて、頭部の発動を解く。ああ、ひんやりした空気がキモチイイわ。 広くなった視界の真ン中に居る神田。心底悔しそうに顔を歪めてこれ見よがしに舌打ちなんかしちゃって。あーあー、可愛いわねぇ頗る気分がイイわ!!これでもう二度と!二度と神田の声を聞かなくてすむんだもの!!! 「 それじゃ約束通り、二度とわたしに―――― 」 組み立てた立体パズルのピースが崩れるように、フルアーマー化したイノセンスの発動を解くと同時に強い力に引き摺られ、気が付いたらナゼか逆さを向いた神田の顔の向こう側に天井が見える。 な……ん、なの……? 「 俺の勝ちだな。」 フンと聞こえたかと思えば、ニヤニヤとした笑顔に変わる。 ――ウソでしょ。 つまりわたしは270度回転させられて床に寝転がってるって、ジョーダンじゃないわよ!! 「 バカ言わないで、もう勝負はついてたでしょ!!」 「 誰もイノセンス勝負なんて言ってないだろ。俺の勝ちだ。」 「 ヘリクツよ、キベンよ!男性なら潔く負けをグッ……!!?」 ……気道を……圧迫…………する、な……ん、て……!! 「 〜〜〜ゥ、グ……ウゥ……!」 「 発動する気力も残ってねぇんだろ?この状況から抜け出せないなら、俺の勝ちだな。」 ……なんてイヤな笑顔なの!気を抜いたわたしが悪いって!?ジョーダンじゃないわよ! 折角神田との関係が切れたと思ったのに、まだこれからも毎日毎日イヤミや暴言を聞かなきゃいけないって言うの!? 認めないわよ!! 「 ……なんだよその顔は。未だ負けを認めないつもりか?」 「 ッック、グ……ッ(当然でしょ)!!」 「 ………………これだからモロコシヘッドは……馬鹿が。」 「 〜〜〜〜〜っっ!!??!?」 ゴン、と鈍く頭に響いて、目から火が出そうになった。 どこの国に乙女にヘッドバットを喰らわす男性が居るのよ!!イギリスじゃ考えられないわ、この、ヤバンジン!!! 「 これから毎日、覚悟しとけよ。」 ふんわり――と。 痛みに思い切り目を閉じていると低いけれど優しい声が聞こえて、そんな感触がくちびるに与えられた。 いつの間にか息苦しさが消えていたから、慌てて目を開けるとアゴのラインが見える。 どうして!!? こんなの……………………………………ありえないわよ!!! 「 …………なんだよ。」 満足したのかなんなのか、長い時間の後でようやく神田の顔全体が見えて、やっと口で息が出来て。 火矢を放たれたように顔が熱い! 「 ……足りねぇか?」 「 っっ違うわよバカ!!ッバカンダ!!!」 「 ああ゛?」 どうしようどうしよう、どうすればイイの!?!? こんな、こんなっ……こっこっこっこっこっこっここんなのって、ないわよ!! 「 リナリーになんて言えばイイのよ!?」 「 は?なんでアイツの名前が出てくんだよ。」 「 付き合ってるんでしょ!!」 「 誰がだ。」 「 アナタとリナリーが!よ!!それと、好い加減離れないさいよ!!」 ナックルダスターを作った右手で殴り飛ばしてやろうとしたけど難なく御され、何の冗談だと吐き捨てられる。何の冗談って、それはコッチのセリフよ!リナリーを好きなくせに、わ、わたしにきっきっきっ……〜〜するなんて!! 乙女の敵ね神田ユウ!!乙女みたいなファーストネームと容姿なのに! 「 ……どこからそんな話になってんだよ。」 苦々しげな顔でわたしの右拳を床に抑え付け、神田はとぼける。 「 だって、リナリーには素直じゃない!」 「 俺はいつだって素直だろ。」 「 どこが!!どの口がそんなコト言えちゃうの!?」 「 黙れトウモロコシ。」 「 ソバ!すぐ切れるソバカ!!ソバカンダ!!!それにリナリーもアナタのコト好きだって言ってたわよ!!」 「 アイツは教団員全員好きだろうがモロコシヘッド。それから蕎麦を馬鹿にすんじゃねぇ。」 ――――いや、確かにソレはそうだけど…………でも! 「 アナタんンッッ――ンウッッ!!!?」 「 ――――……俺の名前は神田ユウだ。アナタじゃねぇよ、。」 無理矢理口を閉ざされて、長い沈黙の後に(わざと)ちゅっと音を立ててくちびるを吸われ、銀の糸が長く引いてプツリと切れた。 脳髄が蕩けて、理性も怒りも、体の奥底に生まれた熱に掻き消されてしまう。 なにがなんだか、もうワケがわからないわ……。 神田は、リナリーと付き合ってるんじゃないの……? 「 ……リナリーに言いつけてやる……。」 「 出来んのかよ?」 「 ……リナリーのコト、好きなんでしょ……。」 「 好きでも無い女とキスなんかするかよ。」 だったら、相手を間違えてるじゃないバカ。 そんな眼で睨んでると、間違ってねぇよとくちびるにダイレクトに伝えられた。……ソバカンダのくせに、心の中覗かないでよ。 |
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遅くなりましたが、壱萬打御礼フリー夢Ver.神田です!
いや、本当に遅くなって申し訳無い限りです……
もし気に入って下さいましたら、どうぞお持ち帰り下さいv
因みに何故トウモロコシと呼ばれているかと言いますと
さんの髪の毛の色が金色だからです
(アレン)白=モヤシ な神田さんなので^^
壱萬打、ありがとうございました!!
最大限の愛を籠めて!!